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    clarchuman35d

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    clarchuman35d

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    タイムトリップ前、ミスターとマグ姉が喋ってるとこに、荼毘が入ってくる場面。ミスターと荼毘の、始まるきっかけ。
    強がりな荼毘が不穏な台詞を吐いてますが迫荼です。ひっくり返ることはないです。

    #迫荼
    forcedTorment

    迫荼タイムトリップ本進捗③「盗むんなら、コソコソせずに金持ちを殺しちゃった方が早いと思わないの?」
     死人に口なしだから、うまくやれば証拠も残らないわよ、とマグネは言った。あれはまだ神野区のバーをアジトにしていた頃で、他のメンツは出払って、何ともなしに、二人でカウンターに座ってちびちびと酒を呑んでいたときだった。
    「せっかくの観客を、殺しちまうのは勿体ねえだろ」
    「どういう意味?」
    「エンターテイメントは、観客がいないと成り立たないってこと」
     大袈裟に肩を竦めてやると、マグネもまたコンプレスの真似をして同じポーズを取る。
    「……へえ。あんたって変わってるわよね」
    「変人だって貶してる?」
    「褒めてるのよ。アタシ好きよ、そんな男」
     そうして、こちらを見つめてマグネは言うのだ。
    「コンプレスあんた、男もイケるんでしょ?」
     言い当てられたことに、いくらかひやっとした。仮面は外しているから、ひやっとしたことを察されるかと焦ったが、目出し帽のおかげか、ポーカーフェイスのおかげか、マグネが気にする素振りはない。
    「……よく分かったな。あー、それとも、知ってた?」
     心当たりはある。案の定、まあね、と彼女は酒を呷った。
    「裏の顔が集まるゲイバーじゃ、そういう噂だったわ」
     全国指名手配犯、というのは、裏社会ではそれなりの有名人である。ゆえに、預かり知らぬところで“そういう噂”が立つのは理解できるし、事実だから否定のしようもない。おおかた、過去に関係を持った誰かが、“そういう店”で“そういう話題”を出したのが事の発端なのだろう。
     これは迫られる流れかと身構えたが、しかしそうでもないらしい。
    「まあ、アタシみたいな男でも女でもないバケモノには興味ないでしょうけど」
     おどけたふうに言うけれども、その台詞には哀愁が滲む。こういう文句で、いつも男にフラれてきたのだろうなと、容易に想像できてしまった。セクシャルマイノリティの中でも、トランスジェンダーはさらにマイノリティだ。体にメスを入れてしまえばノンケに愛される道もあるのだろうけれども、マグネはおそらく、体の変更を望むわけではないように見える。
    「別に、俺は気にしないよ。好きになったら、男でも女でもいい。どっちでもなくたって、俺には関係ないね」
     人間を、愛するのだ。コンプレスには、相手の性別など些末な問題に過ぎなかった。実際、男だか女だかよく分からない相手を抱いたこともある。性別が違えば抱き方は変わるが、愛し方は何も違わない。
    「あらやっぱりイイ男。今のって、もしかして口説いてくれてるのかしら?」
     期待を持たせたのなら申し訳ないが、そういうつもりはさらさらなかった。
    「残念ながら、タイプじゃない」
    「それは本当に残念ね」
     さほど残念そうでもなく、マグネはまた肩を竦める。それから今度はグイ、と近づいてきて、「じゃあどんなのがタイプなの?」とキラキラした目で尋ねた。このまま“恋バナ”にシフトするようだ。彼女はよく、ここでトガと恋バナ大会をしている。
    「そうだな……まず、年下がいい」
    「……あんたいくつだっけ?」
    「三十一」
     思ったより若いのね、と驚いて顔を顰めるマグネを、コンプレスは笑った。
    「そっちは──、ああいや、女性に年齢は訊かないでおくよ」
    「……そうしてちょうだい。他には?」
     先を促されるので、特に隠すことでもないし、素直に答えてやることにする。
    「どちらかというとクールな子がいいかな。落ち着いた感じで、クレバーだとなおいい。ミステリアスとか、そういうタイプは暴きたくなるよねえ」
     へえ、とマグネは、興味津々に尋ねてくる。
    「見た目にこだわりは?」
    「うーん、見た目か。それで言うなら、細身な方が好みだ。俺よりタッパのある奴を相手にしたことはねえけど、まあそんなに数もいねえから今まで問題にしたこともなかったな。……あー、でもどうだろう、やっぱり自分よりデカいのには行かないかも」
    「顔はどうなの?」
    「顔……そりゃいろいろだな」
     過去の恋人たちや恋人には至らなかった相手たちの顔を並べてみるけれども、あまり共通点は浮かばない。ただ強烈に惹かれるものがあるとすれば、
    「宝石みたいな瞳には憧れるね。怪盗の血が疼くのかな。その宝石に、意志の強い視線が載ってると最高」
    「いいわね、アタシもキラキラした目は好きよ」
    「あとは……強いて言えば、髪は短い方が可愛いと思う」
     なるほどねえ、と受け止めてから、マグネは不満を顕にして、刺々しい声で言う。
    「とことんアタシの逆を行くのね」
    「だから言っただろ、残念ながらって」
    「どうせ可愛くないわよ」
    「そういう話はしてねえよ」
     こちらも不快な声色で応えれば、マグネはフフッと表情を緩めた。
    「別に、自分がもっと可愛い見た目ならよかった、とは思わないけどね」
    「そりゃ幸いなことだな」
     彼女は基本的に前向きで、こう見えてさっぱりしていて、だから話していて気分がよかった。コンプレスとは違って、もはや諦めているのかもしれないと思う。この社会が正しくなることをだ。ステインはともかくとして、死柄木の目的は社会を正すというより壊すことのようだから、彼女もどちらかというと、ボスに近い考えなのだろう。
     ふと、カウンターの奥──ここが単なるバーであれば、スタッフルームであるはずの部屋──から物音がして、奥と表を隔てる扉が開いた。
    「あら荼毘ちゃん、居たのね?」
     奥の部屋はそれなりに広く、いつも皆が好きに使っている。荼毘は、仮眠でも取っていたのかもしれない。
    「話、聞いてた?」
     尋ねると、彼はこちらをギロリと睨んだ。
    「聞こえたんだよ。気持ち悪ィ」
     その一言に、マグネが反応する。
    「気持ち悪い? その言い方、聞き捨てならない」
     ガタンッ、と音をたてて立ち上がり、けれども殴りかかることができなかったのは、カウンターを挟んでいるからだろう。殴りかかられたら荼毘はきっと炎で応戦しただろうから、このカウンターのおかげで面倒なことにならずに済んだと、コンプレスはホッとする。
    「じゃあさ、荼毘、お前は気持ち悪くない“恋バナ”ができるのか?」
     険悪な空気をどうにかしたくて水を向けた。気を引きたい、という下心もあった。すると彼は、うんざりしたようにため息を吐く。
    「興味ねえ」
    「おっと、そりゃ恋バナに? それとも恋愛に?」
    「どっちでも同じだろ」
     スタスタとカウンターを出て、外に繋がる扉へ向かう彼の腕を掴む。
    「同じってこたァないでしょ。少なくとも、俺には重要な問題さ」
    「あ?」
     不快そうに、荼毘はコンプレスが掴んだ手首を見た。
    「話、聞いてたんだろ? お前は俺の、好みドンピシャだから」
     あ、確かに、と後ろでマグネが納得している。
     恋の駆け引きはわりあい得意だし、何よりその時間が好きだった。失敗しても、それはそれで楽しめる。ヴィラン連合のような小さな組織で色恋沙汰は、あとあと拗れたときに面倒だとは思うけれども、そういうことにいちいち気を遣うような繊細さがあってはヴィランなどやっていられない。その瞬間その瞬間に、欲しいと思えば手を伸ばす。自分の中のこの性質は、ヴィランらしくて気に入っている。
     すると荼毘は、手首に落としていた視線をコンプレスの顔まで上げた。
    「なに? あんたは、俺に抱かれてくれるってこと?」
     その言葉に、一瞬困惑する。考えもしない返答だったからだ。
    「お前、そっちなの?」
    「俺は女じゃねえ」
    「いやそれは分かってるけど」
     それから少し考えて、コンプレスは口を開く。
    「うーん、恋愛できねえんじゃないなら、とりあえず試しに付き合ってみない? ポジションは、追々」
     セックスが全てってわけでもないしね、と余裕ぶったことは言うけれども、実際のところ、譲る気は全くなかった。暴きたい。常に気怠げな彼の表情を、この手で丁寧に崩してみたい。
    「ハッ、冗談」
     荼毘は鼻で笑って、手を振りほどく。そうしてそのまま、アジトを出て行ってしまった。
     彼の背中を見送って、コンプレスは席に戻る。項垂れて、隣に尋ねた。
    「俺、フラれたんだと思う?」
    「さあ? ……あんたって、気難しいタイプが好きなのね」
    「それはそうかも。俄然燃えてきた」
    「いいじゃない。応援はしないけど、傍で見てる分には、娯楽として楽しめそう」
    「エンターテイナーには、願ってもない台詞だね」
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