彼女の写真を撮りたいhgwrと自分を見てほしい女の子の話パシャ、パシャと切れ間なく切られるシャッターの音に小さくため息を吐いた。ここは撮影スタジオではなく、前から行きたかったカフェのテラス席。美味しそうなケーキや紅茶の写真を撮るのは理解出来るが、どちらも既に口をつけている。携帯の角度からも撮っているのはそれらではなく、私だということは一目瞭然だった。
「まだ撮るの?」
「美味そうに食うお前を残しておきたいんだよ」
お前の可愛いとこ、全部残しておきたいなんて言いながら萩原はまた楽しそうにシャッターを切る。萩原とはなかなか休みが合わず今日は久しぶりのデートだった。写真を残す、ということは会えない時に見返したりしているのだろうか。それにしても人の目があるこの場所で写真を撮られるのは恥ずかしいし、何より彼に直接見てもらえていないような気がして悔しい。どうしたものかと口を噤んでいると先程まで可愛いなんて言いながら緩みきっていた萩原の表情が真剣なものになる。
「なぁ、俺がどれだけお前に会いたくてたまらなかったか分かる?すっげー寂しかったから、前に一緒に撮った写真見て我慢してたんだぜ?」
皺寄ってる、と私の眉間を押して苦笑する萩原を見て、少し納得しかけてしまったがやっぱりそれとこれとは別問題だ。それを言うなら私だって会いたかったし、デート出来るのをずっと楽しみにしていた。
どうしたら直接見てもらえるのか、思いついた考えは子供っぽいかもしれないがそれを試してみる事に躊躇はなかった。持っていたフォークで一口大にケーキを切ると、それをカメラ越しに彼に差し出す。
「はい。3秒以内にカメラ置かないと私が食べるよ?」
「えっ!?」
画面に映った私はきっと、とびきりの笑顔だっただろう。しかし、シャッターを切る余裕もなく、さん、に、とカウントダウンを始める私に慌てて携帯を置いた萩原は大きな一口でケーキをぱくり。美味しかった?と尋ねれば、焦りから解放された萩原は分かんねぇ…と頭を抱えるように背もたれに寄りかかる。
「会いたかったのは私も一緒だから、ちゃんと私を見てよ」
ここのケーキ、美味しいよと再びフォークに刺して差し出せば、俺の彼女がイケメンすぎる…なんて訳の分からない事を言いながらもこちらを見て食べてくれるので、少し心が満たされるのだった。