無防備な時間 ミスタがネイルをしている時、ぼくはちょっとわがままになる。髪を触ってみたり、好きだよって囁いてみたり、耳にキスを落としたり。いつもだったらすぐにやり返されるそれは、ネイルがよれないようにと何の反撃もされない。その時間がぼくは好きだった。だって、いいようにされてない時間って優越感があるじゃない?今日もいつものように、ネイルをしているミスタに近づく。
「ミスタ、好きだよ」
後ろから近づき、耳にそっとキスを落とした。びくりと跳ねる肩が可愛くて、つい笑みが漏れる。
「シュウ~?」
「んはは、大好き。 好きだよ、ミスタ」
「おれも好きだけど、そういうのはネイルしてない時に言ってくれん?」
「えぇ、やだよ。 ミスタすぐ手出すもん」
くるりくるりと、ミスタの髪をいじる。ぴょんぴょんと跳ねるそれは、ちょっとひっぱって離すとすぐにカールを取り戻す。毎日丁寧にセットしていて凄いなぁ、と思いつつ頭を撫でた。
「ふふ、ミスタは可愛いね」
「それはシュウだろ。 あとで覚えとけよ」
じ、と見つめる瞳に顔が引きつる。こういう甘え方をした時は決まって酷く優しく抱かれるのだ。
「今日はいいよ」
「いーや、可愛いことしたシュウが悪い」
「可愛くないし」
「は? 可愛いけど。 ちょっとの間やり返されないからって自信満々なとことか」
「もう! いじわる言わないで! ぼく部屋帰るから!」
「えぇ? 心の準備して来てくれんの?」
「馬鹿、しないよ」
嘘だ、ちょっと期待してる自分はいる。だって、好きな人とそういうことをするのってその、幸せじゃない。怒ったふりをしながら、部屋に戻る。きっとミスタにはバレてるんだろう。もう少し先の、ひどく甘い時間に少しの期待を持ちながら、ぼくはベッドの上を軽く整えるのだった。