そんなわけない ルカの練習を始めてみた日から、しばしば練習に付き合うようになった。幸いぼくは帰宅部だし、委員会にも入っていない。暇を潰すにはもってこいの時間だった。キラキラ輝くルカも見れるし。練習に付き合う時は、タイムを測ったり飲み物を手渡したりしている。どれも大変な仕事では無いので、主に走っているルカを眺めるのが仕事だ。役得って言うのかな、こういうの。
「シュウが手伝ってくれてほんと助かるよ! 一人じゃタイム測るのも大変でさ」
「んはは、お易い御用だよ。 こうしてたらぼく、マネージャーみたいだね?」
「え! マネージャーしてよ! そしたら俺、もっと頑張れるよ!」
「ええ?」
正直、マネージャーをしたいかと言われるとNoだ。何かに縛られるのが嫌で、部活も委員会も入っていない。気ままな生活がなくなってしまうのは惜しかった。しかし、ルカが走っているのを見るのは好きだし…と頭を悩ませていれば、ルカがあ、と声を上げる。」
「やっぱりマネージャーして欲しくないかも…シュウが俺以外の面倒見てるのなんか、嫌…かも?」
提案しておいた側がそんなことを言い出すので、思わず吹き出してしまった。
「かもって何?」
「いや、なんていうか、あー、今のこの関係が好きだな!」
「んはは、ぼくも決められた仕事とかやだし大丈夫だよ」
ルカは心底安心したように胸を下ろす。さっきまでは目を輝かせていたのに、忙しないな。
「今日はもう終わりだから、一緒に帰ろうよ。 カフェとか寄ってさ!」
「いいね、行こうか」
荷物をまとめ、校門をくぐる。行きつけのカフェは駅前にあり、学校からは少し遠い。スコアが伸びたとか、テストが近くて憂鬱だとか、クラスのやつがバカをしてだとか、なんでもない話をしながら道をゆく。カフェについて、一息ついた時にじっとルカを見る。本当に、表情がコロコロ変わって、そのどれもが輝いていて自分とは大違いだ。
「ルカと仲良くなれるなんて思ってなかったや」
「え? なんで?」
「ぼくと違ってキラキラしてるからさ」
「キラキラしてるのはシュウでしょ! 綺麗だし、笑うと可愛いし、とっても優しいし!」
「んふ、そうやって人を褒められるのがルカのいいところだよね。 …いつかルカに彼女出来たら、このポジションは譲らなきゃだなぁ」
「彼女?」
ルカはきょとんとしている。まさか、自分がモテてることに気づいてないんだろうか。ぼくと練習してる時だって、ちらちらと見ている女子生徒が目に入る。きっといつか告白されるだろう。じっと考え込んだルカは、彼女いらないかも…と、ポツリとこぼした。それって…。
「なんだか告白みたい」
小さく呟いたはずのそれは、ルカの耳まで届いていたらしくルカの顔が真っ赤に染る。まずい、と思い弁解しようとすればその前にルカが口を開く。
「シュウ、お願いだから俺以外にこういうことしないでね」
「こういうことって?」
「カフェに行ったり! 俺とだけにして!」
そういう顔は真剣で、思わず笑いが漏れる。しっかりしろ、こんなの何気なく言ってるだけなんだから。
「本当に口説かれてるみたい」
冗談で口にすれば、ルカがこちらをじっと見やる。
「口説いてるよ。 俺、シュウのこと好きみたい」
勢いのまま伝えられたそれに、思考が働かなくなる。ルカがぼくのことを好き…?
「…二点」
「二点?」
「告白するなら、こんな勢いでじゃないのがよかったかな」
一口、コーヒーを飲む。荒ぶる心を落ち着けて、平静を装う。こんな勢いで言った好きだ。友情と恋愛を勘違いしているのかもしれない。そんな間抜けな話、笑えないじゃない。ルカはしばし固まり、すとんと椅子に座る。これでこの話はおしまい、明日からまた気ままなマネージャー生活だ。…と思っていたのだけれど、いや、マネージャー生活は変わらなかったのだけれど。カフェに着いたらドアを開けられたり、車道側は絶対ルカだったり、会う度に今日も綺麗だねなんて言われたり、しまいめには
「今の顔、すっごく可愛かった」
なんて言われて。
「冗談でしょ…」
あの日、コーヒーで蓋をした恋心が開きそうになっている。これでルカの天然タラシだったらシャレにならない。騙されないぞ、と頬を叩き、今日もまたルカに会いに行く。