無防備なんじゃない? だぼっとしたシャツを一枚身につけ、リビングを闊歩している男がいる。その男はふんふんと鼻歌を歌いながら、アップルジュースをカップに注いだ。物言いたげな視線には気づかずに。
「ねぇ、ミスタ」
「ん? 何?」
「その服さ、寒くないの」
シュウはじっとりとミスタを睨みつけ、なんでもないような声で問いかける。
「全然? このぐらいが楽でよくね?」
声しか聞いていないのか、ミスタは飄々と答えた。シュウの眉根が顰められるのなんかお構い無しにだ。
「ズボンぐらいは履いた方がいいんじゃない? あと、それいくらなんでもオーバーサイズすぎるよ」
「めんどいから嫌。 別に誰にも迷惑かけてねーしいいじゃん」
今迷惑かかってるんだけどね、とぽそり呟かれた言葉は誰にも気づかれず溶けていく。ふんふんと鼻歌を歌いながら、ミスタはシュウの隣に腰掛けた。細くて白い生足が目に入り、シュウの目が座ったことは言うまでもない。
「ミスタ」
「だから何って……ハ?!」
するする、とシュウがミスタの足を撫でる。ふわりさらりと、ギリギリを触れられまるで夜の戯れを思い出させるようで。
「ちょちょちょ、シュウ。 何どうしたワケ。 ここリビングなんですけど」
「そうだね」
「そうだねじゃなくて」
顔を真っ赤にさせたミスタとは対照的に、シュウは真顔でミスタの足を見ている。それから肩へ、顔へと視線を動かしため息をついた。
「リビングになんでこんな無防備な姿で現れるの? ねぇ、ミスタ」
きゅ、と太ももを掴まれる。そのままやわやわと揉まれ、手を剥がそうとするが力負けしてどうにもできなかった。
「無防備って、野郎のこんな姿見たって」
「見たって?」
「な、なんもないじゃん…」
「今の状況も何も無いって言えるんだ」
するするとシュウの手が上へ伸びる。
「待っ、シュウ!!」
「んはは、冗談じゃないよ」
人が来るかどうか賭けようか、なんてシュウらしくないことを言いながら、手はどんどんと危うい所へ進んでいく。
「〜〜ッッ! 着替える! 着替えるから!」
「オーケー。 早く着替えてきて」
ボクの理性が保ってるうちにね、なんて言われて。もう理性保ってなかったろとは言えないミスタはすごすごと自室へ戻るのだった。