君だけにだよ「マフラーと、手袋…は、いいや」
コートを着込み、マフラーを巻く。可愛らしい巻き方なんてわからないから、ただぐるりと回しただけだけどまぁいいだろう。
今日はルカとのデートの日だった。
「…メイク、おかしくないかな」
さらりと前髪を上げ、アイメイクを確認する。いつも通りのメイクだけれど、なんだか落ち着かない。クリスマスの雰囲気に流されてか、そわそわと落ち着かない。今日はルカとクリスマスマーケットに行く予定だ。二人で手を繋いで、街並みを歩いて。ホットチョコレートなんて飲んだりするのかな?なかなか外に出ないぼくにはきっと目新しいものばかりだろう。少し笑みを零すと、チャイムの音が鳴った。急いで出ると、そこにはルカの姿が。
「シュウ! 迎えに来たよ」
「ルカ! 待ち合わせまでまだ時間あるよ? そんな急がなくてよかったのに」
「ん〜、なんていうかさ。 シュウとデートだって思うといてもたってもいられなくて」
かっこ悪い?なんて聞かれてそんな事ないよ、嬉しいと伝えればするりと手が繋がれる。ゆっくりとその手を握り返せば、ルカの暖かい体温が伝わってきて心地よい。
「じゃあ、行こうか」
クリスマスマーケットは盛況だった。人で溢れかえっていて、みんな楽しげに談笑したりホットワインを飲んだりしている。
「はい、シュウの分」
手渡されたのはホットチョコレートで、あ、予想が当たった。
「ルカは何にしたの?」
「俺もホットチョコレート! 少しラム酒が入ったやつにしたよ」
「へえ、美味しそうだね」
「…あげないよ? シュウはお酒弱いんだから」
「このぐらいなら大丈夫だよ」
じと、と睨む顔が可愛くて鼻をつまんでやればnooooと可愛い声が帰ってくる。でもダメ、とカップを高くあげられてしまった。どうしても欲しいわけではなかったけど、なんだか子供扱いみたいで悔しい。
「…ははっ、そんな顔しないで。 しょうがないな、一口だけだよ?」
はい、と手渡されたカップに口をつけ、お言葉に甘えて一口。甘いチョコレートの中にラム酒のコクがあり、一気に体が温まった。
「一口だけだからね」
「わかってるよ」
ありがとう、とカップを返すとルカが顔を赤らめる。
「どうしたの?」
「ん?あぁ、いや。 …間接キスだね」
「!! ルカ!」
「ははっ! ジョークジョーク!」
ほら、行こうと手を引かれ熱い頬を見ないふりして足を進める。どの店も煌びやかで、少し気後れするがたまにはこんな日もいいだろう。ふと、目に止まったのは小さなクリスマスツリーのスノードームだった。
「綺麗…」
「気に入った?」
買おうか、とルカが財布を出す。自分で買えるから、とそれを制すれば「俺も同じの欲しいから」と強引にお金を出されてしまった。自分のが欲しいなら、自分のやつだけ払えばいいのに。ルカってそういうところがある。
「はい、シュウ」
「…ぼくだってちゃんと稼いでるんだけど」
「知ってるよ。 俺があげたかったの」
「…次はぼくが買うからね」
「ははっ、OKOK!」
「絶対だから」
こつんと肩をぶつけ、そのまままた手を繋ぐ。カップを持っていたからか、ルカの体温が少しぬるい。ぼくの方が暖かいのはちょっと貴重だな、なんて思っていると手を引かれる。
「シュウ! クリスマスツリー!」
指さされた先には大きなクリスマスツリーが爛々と輝いていた。
「わぁ…」
「凄いね」
そっと肩と肩が触れ合う。そのまま視線が重なって…。
「ダメだよ」
「シュウ〜!」
「人前はダメ!」
帰ってからね、と言うとルカの目線が泳いだ。何かを隠している時、本当にわかりやすいんだから。
「…シュウ」
「はい、なんですか」
「顔怖いよ?」
「ルカが隠し事してるからね」
「えっ! なんでわかっ…や、その…」
ぎゅっと、繋いだ手に力がこもる。
「…ホテル、予約してるんだけど。 来てくれる?」
「…ル〜カ〜? そういうのはお互いで折半してっていったでしょ」
「びっくりさせたかったんだよ! 来てくれないの?」
「…行くけどさ」
「よかった!」
じゃあすぐ行こう、とグイグイ引っ張られる。焦らなくてもホテルは逃げないよ、と言うと「すぐシュウとキスがしたいの」なんて言われて。
「ルカ、ほんと…そういうとこある…」
「?」
これで無自覚なんだから、本当にタチが悪い。火照る頬が自分の期待を知らしめているようで居心地が悪い。別にどうしても、今すぐキスしたいなんてわけじゃないし、期待なんてしてないから。
ホテルに着くと、ドアを閉めた途端ルカが腰を抱いてくる。
「ちょ、ルカ早いって」
「…ダメ?」
「部屋入ってから…ん」
ちゅ、と軽いキスをされ、何度も角度を変えて愛が落とされていく。心地良さに力が抜け、くたりとルカの胸に体を預ける。
「はは、シュウ可愛い」
ちゅ、と音を立ててつむじに触れられる。やられっぱなしは性にあわないんだけど。くっと力を入れ、ルカの唇に自分の唇を押し当てる。とんとんとノックすれば、ゆるく口が開いた。そのまま舌を進めれば、厚いルカの舌が自分の舌を絡めとっていく。気がつけば、マフラーを外されコートを脱がされようとしていた。
「ルッ、ルカ! ここすぐドア…!」
「わかってるよ」
ひょいと抱き上げられ、ベッドに恭しく寝かされる。
「ねぇ、シュウ。 いい…?」
「…ダメって言ってもおねだりするんでしょ」
ゔ、と顔が固まるのを見て思わず笑ってしまう。
「いいよ」
そっと、ルカの首へ手を伸ばす。待てができない悪い子に付き合ってあげよう。
「でも明かりは消して欲しいかな」