特別感 おれの兄弟は凄い。物腰柔らかで人に好かれて、勉強だって出来る。生徒会なんかにも勧誘されてて、縛られるのが面倒だって逃げ続けてるらしい。今日もシュウは人に囲まれて笑っている。
(…ま、シュウといるの楽しいもんな)
おれはというと、教室の隅っこで外を眺める日々だ。愛想がいいわけじゃないし話がうまい訳でもない。人と関係を作るのが苦手で、話しかけてもらっても上手く返せない。そうしたら、一人になっていくのは必然で。
(おれもシュウと、話したいな…)
机に伏せ、周りの音を聞く。あぁ、騒がしくて耳障りだ。それでも、シュウの声だけが澄んで聞こえていた。
学校はあんまり好きじゃない。家じゃ仲良くしてるシュウが色んな人に取られるし、勉強だって嫌いだし、楽しいって思うことが特にない。素行がいい訳でもないから、先生からもつっかかられる。好きな格好してるだけなのに息苦しい。耳に空いたピアスをいじるのはいつからの癖だったか。くるくると回るそれは何となく心を落ち着かせる。
「あ、ミスタいた」
長いこと聞きたかった声が聞こえる。屋上前の薄暗い階段に、似つかわしくないシュウの姿が見える。
「何してるの? もうチャイム鳴るよ」
「シュウこそ。 どしたん?」
「ミスタいないなーとおもって、探しに来ちゃった」
「なんで」
ひくり、喉が震える。まるで必要とされてるみたいじゃないか。思い上がるな、シュウはおれなんかがいなくても上手くやってる。黙れ、うるさい、期待するな。
「ミスタ、なにか難しいこと考えてるでしょ」
べちゃ、と頬を潰される。
「ミスタがサボる気分ならぼくもサボっちゃお〜」
「は、はぁ?! おま、シュウは優等生ポジなんだからダメだろ」
「誰がそんなこと決めたの? ぼくはぼくのしたいようにするよ」
お菓子持ってきたら良かった〜なんていいながら、シュウは屋上のドアをガチャガチャと捻る。
「流石に鍵かかってるね」
「そりゃ」
「開ける?」
「やめてください。 あーもう、戻る、戻るからシュウも戻って」
「ええ? もうサボる気持ちなんだけど」
「いいから戻る!」
シュウの手を引いて、教室へ急ぐ。おれのせいでシュウの印象が悪くなるのは嫌だった。それでも、胸にこびりつく特別感が拭えなくて、そんな感情持ちたくなかったなと苦笑いを零すのだった。