ミスタが足早に広間を出ていった瞬間、4人はジロッと3人の魔女を睨んだ。
「あらやだ怖いわ。あなた達のママに言いつけちゃおうかしら」
「こちらの台詞だ。他の上位種たちが貴女たちを何千年も探している。居場所を教えたっていいんだぞ」
グルルと唸るようにヴォックスが言えば、3人の魔女たちは笑い始めた。
「あのな、この魔女のお茶会では見たこと聞いたことは他言できない『ルール』なんだよ。伝えることが出来ないのは勿論、教えた者が嫌ならお茶会から退出した後に参加者たちの記憶は無くなる。都合がいいだろう?だから私たちの居場所をお前たちが誰かに教えることはできない……」
「…もっと言えば君たちが坊ちゃんと共にいた事を知られたくなければ参加者たちの記憶から消えるわけだ………そんなことも知らないのに馬鹿正直に名乗ったのか?何考えてるんだ?」
細身の魔女が困惑したように言えば4人は言葉に詰まっていた。
「………………魔術をかけてました。僕たちを僕たちだと認識されないように…」
「認識阻害の魔術ね。残念だけどここにいるのはあなた達より何千年も年を重ねた魔女なの。一定数には効いてないと思うわ」
バツが悪そうに視線をそらした4人。
クッキーをつまんだ背の高い魔女が動きを止めた。
「…………というか…お前たち、嫁さんは放っといて良いのか?わざわざ人間界から連れて来て囲ってるんだろう?」
ビクンと4人の肩が跳ねた。
「聞いたわ聞いたわ!お嫁さんも承知でいらしたんでしょう?ロマンチックねぇ」
「別種の婚姻………しかも人間側の重婚は今ではかなり珍しい……というかほぼ無いことだからな。これで魔族と人間の交流が深まれば言う事無しなんだが……何で黙ってるんだ?」
ルカの冷や汗に気づいた魔女たちは眉を顰める。
しばらく視線を彷徨わせたふくよかな魔女は呟いた。
「………お嫁さん、ミスタちゃんの事じゃないわよね……?」
言葉に圧がかかる。
他の2人の魔女も顔色を変えた。
「ち、違うよ!周りが勝手に嫁って言ってるだけ!詳しく言うとバレる可能性があるからそのままにしてただけ!」
「…………おい待て。そうなると同意を得ずに連れてったな?坊はお前たちが魔族だって知らないんだもんな?」
「引っ越すというのでおすすめの場所を提示したら気に入ってもらえました。魔界だと言ってないだけです」
全く反省の色の無い4人に魔女たちはため息を吐いた。
「…………君たちのやってる事、色々マズイの分かる?」
「何を仰っているのかさっぱり。あの子はあの場所に越して、私たちと永遠に共にいることを誓ってくれた。貴女方の時代の契約と同じだ」
契約までしてるのかよ、と細身の魔女が呟いた。
「まぁ………ミスタちゃん嬉しそうだし……この子たちも悪さはしなさそうだけど………」
「…………何かあれば鏡使って逃げられるだろうしな」
鏡、の言葉に4人は眉を寄せた。
気づいた背の高い魔女がニヤッと笑う。
「囲ったはずなのに鏡が使えたんだろ?あれは私たち魔術師と錬金術師たちの合作だからな。どんな魔術も錬金術も無効化する逸品だぞ」
残念だったな、と笑う姿を睨んでいたルカだったが疑問を口に出した。
「あれって今は勿論だけど昔だって滅多に作れない貴重なものでしょ?友達とはいえ何で錬金術師の為に作ったの?」
笑っていた3人がゆっくり顔を向けた。
「友達?違うね。あいつは親友で、家族だ」
「家族のお願いは聞いてあげたいでしょう?錬金術師さんたちも同じ気持ちだったはずよ」
「それに彼女は錬金術師であり魔術師でもある。片方に括らないでくれ」
その表情がとても優しく慈しむような表情だったのでルカは言葉に詰まった。
ミスタが4人を見るときの優しい笑みにそっくり。
「………………それはあの子が錬金術も魔術も両方使えることと関係が………違うか、あの子は拾われたって言ってたから………」
「あの家には錬金術書と同じ量の魔術書があった。おばあさんがどちらも使えたことは間違いないし、魔術書を錬金術書と勘違いしてあの子は僕たちを喚び出してる……」
「魔術と錬金術を使える人間なんて聞いたことないよ。俺だってあの子が初めてだもん…………まあ本人は区別ついてないみたいだけど………」
「…………………本当におばあさんとあの子は関係が無いのか?」
ヴォックスの問いに3人の魔女たちは黙ったまま。
笑みを浮かべているところを見ると不快で黙っているわけではなさそう。
「…………………あの子が誰であれ、彼女の孫であることに変わりはないわ」
そう言って笑うふくよかな魔女はミスタを本気で思っていることが分かる。
他の2人の魔女も同じ。
自然とシュウの口が動いていた。
「あの子は一人なんだと思ってました……魔術師にも錬金術師にも頼れる人がいたんですね」
少し寂しそうな声に3人の魔女は首を振った。
「坊は私たちを頼らない。錬金術師たちにも助けを求めない。中立でありたいそうだ」
「『どちらかに肩入れしたらもう片方を裏切るみたいだから』…………なんて、私たちは気にしないんだがな。今のこの意味不明な対立のせいだ」
「私達は彼女の家族にはなれたけど、あの子の家族にはなれなかった………だからあなた達、しっかりなさいね?」
あの子の家族を名乗るなら、絶対に正体を隠しなさい。
あなた達が魔族だと分かれば契約すら打ち消してあの子は距離を取るわ。
あの子のそばに居られるのはあなた達があの子の『子供』だからよ。
「肝に銘じておきなさい」
「……ああ、勿論だとも」
広間の扉が開いた。