もう揃わない三角関係　昔の夢を見た。
　うっすらと目覚めながらも、瞼の裏に残った面影を惜しむような気持ちで目を閉じたままでいると、布団の上に投げ出された手に誰かが触れた。ためらうように、指先で手首の辺りをそっと撫でる感触。
　こんなふうに触れられた事もあったな。
　夢で会った人物がまだ隣りにいるような気がして、引玉はそっと呟いた。
「……鑑玉？」
　その途端に、引玉に触れる指が止まった。
　ん？　と思っていると、今度はがしっと強く手首を掴まれた。骨が折れそうなほどの馬鹿力に、夢の余韻が一気に吹き飛ぶ。
「師兄」
　目を開けると、隣りにいたのはかつての親友ではなく、寝起きで癖っ毛が爆発している権一真だった。
「一真、どうした？」
「……おれのこと、鑑玉だと思ったのか？」
　いつもは裏表のないわかりやすい表情で引玉を見つめてくる瞳に、何だか底知れず不穏な色が宿っている。
「あぁ、久しぶりにあいつの夢を見たから、寝ぼけていたみたいだ」
　まだ頭の働かない引玉が弁解するように言うと、権一真はぎゅっと眉を寄せて険しい表情になる。
「あいつも師兄にさわったのか？」
「急にどうしたんだ。それより手が痛い、離しなさい」
　引玉が言うのも聞かず、権一真は引玉の手首をギリギリと握っている。そのまま片肘をついて身を乗り出すと、引玉の顔を間近で覗き込んで言った。
「あいつも師兄を抱いたのか？」
　引玉は目を見開き、羞恥と怒りで頭に血が上るのを感じた。
「なっ！　ばっ……馬鹿な事を言うな！　鑑玉は私の師弟で友人だぞ！」
「おれだって師兄の師弟で、こいびとだ」
「そ、それは……」
　思わず顔を背けようとした引玉を逃がすまいとするように、権一真は両手で引玉の頬を包み、自分の方を向かせた。手首が馬鹿力から開放されたのは良いが、どうも宜しくない状況になっている気がする。……っていうかこいつ今どさくさに紛れて何て言った？　恋人？
「何もなかったとは言わないんだな」
「そんな事、おまえに答える必要はない」
「……わかった。ならいい」
　意外とあっさり引き下がったな、と引玉が内心で胸を撫で下ろしたのも束の間、権一真の顔がすっと近づき、引玉の唇を塞いだ。
「んんっ……！？」
　権一真は息の続く限り口づけを貪ると、引玉の唇の端に垂れた唾液をぺろりと舐めた。続けて引玉の頬、首筋、鎖骨と口づけを落としてゆく。
「こら、何して……もう朝だぞ……」
　引玉が押しのけようとしても頑として動かず、今度は引玉の寝間着の合わせから手を入れ、昨夜さんざん舐めたり噛んだり弄り回したりした所をなぞり始めた。
「あっ……！　やめ……一真……！」
　権一真は顔を上げると、息も絶え絶えに抗議する引玉に強情な目で宣言した。
「あいつのことなんか思い出せないようにするから」