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    nene_011s

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    nene_011s

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    イザ武webオンリーで展示した作品です。
    支部の方は完成するまで非公開にしますので
    完成までしばらくお待ち下さい。

    関東事変を和解で終えた後、
    周りの優しさ(物理含む)や
    自身の心境の変化のおかげで
    少しずつ愛を知覚できるようになった
    イザナが知らず知らずのうちに
    武道に本当の愛を教えられる話。

    #イザ武

    夜明け 目を覚ました時、視界に入ったのは記憶の最後にある埠頭の空でも、見慣れた自分の部屋の天井でもなく知らない場所の知らない天井だったけれど消毒液のような独特の匂いで気づいた。

    「びょう、いん…か」

    思ったほど声が出ず呟く程度になったが、言葉を発した直後、左手を一瞬だけキュッと弱く握る感覚がしてそちらを見るとベットに頭を預けて眠りそうだったのか崩れた前髪に、今にも涙が溢れ出しそうな潤んだ瞳で俺を見つめるエマと、その隣で丸椅子に腰を掛け少し驚いた顔でこちらを見るマイキーが居た。

    「にぃ…」

    掠れた弱々しい声で呼ばれ、大きな瞳の容量を超えた涙がついにエマの頬を濡らす。

    「ニィ!!!」

    次は先程よりハッキリ大きな声をあげ、ガバッと両手を広げて俺の腰の辺りに飛びついてきた。

    撃たれた以外にもマイキーに蹴られ、殴られした傷があるせいで思わず「ゔっ」と声が出そうになるが掛け布団に顔を押しつけてわんわんわんわん大袈裟な程泣いているエマには俺の怪我の具合は関係ないらしい。

    意識が鮮明になってくると声もしっかり出せるようになる。

    「オマエ、俺に殺されるとこだったのに何普通に泣いてんだ…?」と問いかけたが、エマは泣くことに必死でまるで聞いていなかった。

    あの日…抗争の数時間前、エマを迎えにきたフリをして騙し、マイキーや東卍の奴らの目の前で殺そうとしていた手前これ以上 傷付けることもできず、させたいようにすることにした。
    血の繋がりがないとは言え一度は共に暮らした妹だ…今この場に抗争の時のような興奮と狂気の混ざった空気はない。

    ならば、触れることも許されるだろう…

    点滴で不自由な左手は使わず、右手だけでエマの柔らかな金糸の髪を撫でようとすると腕を掴まれ止めが入る。

    「イザナ、待てよ。俺との話が先だろ?」

    掴んだ張本人であるマイキーの目を見れば言わんとしていることは分かった。

    あの日、多くの人間を巻き込んで散々ぶつかり合った果てに稀咲に撃たれ死を覚悟したが、今こうして生きているのだから尚も喧嘩を続けようと言う方がきっとどうかしている。

    「たしかに、俺もエマも真一郎もイザナとは血は繋がってない。でも、真一郎は俺に『もう一人、兄がいたらどう思う?』って聞いてきた事があったんだ」

    「…」

    「そん時俺さ『きっと好きになる』って答えたし、真一郎も笑ってた…。イザナにとって血の繋がりが何よりも大事なんだって思うのは分かった。でも、真一郎も俺もエマも、とっくの昔からお前を家族として見てる。だから、仲直りしようぜ…兄貴!」

    抗争から数日経っているはずだが、まだ傷の残る顔で真一郎とそっくりな笑顔を浮かべて手を差し出す。

    俺は、あぁ…やっぱりきょうだいだなと真一郎の面影を感じながらマイキーの手を握った。



    ✳︎



    退院してすぐに俺とマイキーは横浜埠頭に
    横浜天竺・東京卍會の全メンバーを集めた。

    季節は冬、加えて海の側であるだけに寒さも
    一段と強く風が吹くたびに身を震わせたくなるが、あの日と同じく埠頭の照明がまるで自分達のために用意されたスポットライトのように燦然と輝いているため自然と背筋も伸びる。
    が、ほんの数日前にぶつかり合った者同士、殴り合いこそないにしても雑踏の中に互いの文句や、この状況に対する考察をしている者の声が所々から聞こえてきた。

    「なんで、東卍の奴らもいんだよ。お前らなんか聞いてる?」

    「はぁ? 聞いてるわけねぇだろ」

    「おい、目の前のコンテナのとこ見てみろよ。天竺も総長から幹部まで全員集合だぜ…」

    「ほんとだ。マジでおっかねぇよ…何が始まんだ? まさか、天竺が傘下になるとか!?」

    「バカ!余計なこと言うな!…万が一聞こえたりしたらどうすんだよ。下手したら殺されんぞ」

    いくら小声で話していてもこれだけの人数が居れば囁きさえも束となって、普段の声量と変わらない程度のざわめきになる。

    「そろそろいんじゃね?イザナ」
    「…だな」

    埠頭のコンテナの上、横浜天竺が総長 黒川イザナと東京卍會総長 佐野万次郎が並び立ち佐野が先に声を上げた。

    「聞いてくれて!!今日、ここに集まってもらったのは大事な話があるからだ。……もしかしたら、もう想像ついてる奴もいるかもしんねぇけど、横浜天竺と東京卍會は前回の抗争をもって、和解したこととする!」

    聞いていた者達の中には、納得したような表情を見せる者もいれば、ザワザワと再び個々の意見を述べている者もいたが構わず続ける。

    「今回の抗争は、言わば俺とイザナの兄弟喧嘩だった…。俺とイザナには兄貴がいて、どっちが本当の弟かって、アホみたいなことで喧嘩してた。でも、あれだけ殴り合ってぶつかり合った俺達だからこそ分かったことがある。大事なのは血じゃねぇ、相手を想う心だ。だから俺達は和解して天竺は天竺の、東卍は東卍の夢を歩む。もう喧嘩はなしな!」

    あまりに屈託のない笑顔と眩しさに、集まった一同誰一人として意見する者はいなかった。
    (そもそも意見したところで勝てやしない)

    「もし、天竺ウチの奴らと東卍の奴らで揉めるようなことがあれば、オレと万次郎が相手してやるから覚悟しとけよ」

    つい先日、撃たれて瀕死だった人物とは思えぬほど鋭い視線で睨まれ、遂にざわめきの一つさえなくなった。
    その隣で「イザナ怖ぇ〜」とケラケラ笑いつつも牽制するようなマジな目をしている弟を見て一同の心は固まった。

    絶対に仲良くしよう。

    こうして、波乱の集会が終わったところで万次郎が一目散に龍宮寺や花垣のところへ駆けていく。

    「マイギィーぐんっ、ずっ…よがっだズねぇ」と涙と鼻水で乱れきった汚ねぇ面を晒す花垣に「ありがと、タケミっち♡」と頭を一撫でし、緩んだ表情を見せた万次郎を呆れたような優しい笑みで龍宮寺が見守っていた。

    あれが本当の絆か…。

    そう思いながら自らも大切な家族のこと思う。
    集会中、姿を見せてはいたものの、どう接するべきか分からず、避けてしまった大切な存在。あれほどまでの醜態を晒しても尚、アイツ…
    鶴蝶は俺に話しかけるべく機会を伺っていたが俺は全て知らないフリをした。
    結果、集会が終わり気付いた時には鶴蝶の姿はなかった。

    「はぁ…」

    一人、ため息を吐いていたらいつの間に後ろに居たのか背後から万次郎が声を掛けてきた。

    「イザナ…今度さ、ウチに来ねぇ?エマとじぃちゃんがイザナと飯食いたいんだって。エマなんか張り切っ」

    「悪い…まだ片付けることがあって行けねぇ」

    無邪気そうに見えて、どこか顔色を窺いながら聞いてきた万次郎の言葉を遮って断る。
    片付けることがあるのも本当だが、鶴蝶然り
    未だ"家族"と言うものを実感できない俺はその輪の中に入ることが怖かった。

    「そっか…エマもじぃちゃんも俺も、いつでも待ってから」

    「……」

    万次郎からの言葉に頷き一つで返してその場を後にした。

    今まで散々望んでいたものが急に手に入って、何をどうしたらいいのかさえ分からないのに
    どうしろってンだ。



    ✳︎



    和解を宣言してから一週間近くが経った頃、
    蘭と竜胆に話があると呼び出されていた。
    六本木で合流するなり「甘いもの食べに行こ♪」と女子のようなことを言い出した二人に連れてこられたのは知る人ぞ知るスイーツの名店らしい。

    暖房の効いた店内で飲食を始めて十数分。
    モンブランを食べ終え、水を飲んでいた蘭が徐に口を開く。

    「たいしょ〜、そろそろ鶴蝶と向き合ってやんねぇと可哀想なんじゃない?」

    話し方だけで判断すれば呑気に聞こえるかもしれないが、その声音には確かに心配の色が滲んでいた。

    そんなこと、言われずとも分かっている。
    そう言い返したいのに言葉にできないのは
    まだ自分の中に迷いがあるからだ。

    「…そうだぜ?俺も兄ちゃんと喧嘩すっけど、
    今までの経験上、意地張って時間空けたって
    イイことないし、余計に雰囲気悪くなっただけだし…」

    竜胆が少しバツが悪そうに言うが、それも当然分かっている。俺だって、鶴蝶と喧嘩するのは初めてじゃないし、施設で出会ってからもう何年も一緒にいる。

    アイツには確かに"下僕"という名を与えたけれど、決して見下しているわけでも、自分より下の存在だとも思っていない。
    それは鶴蝶も同じであって逆らいこそしないが、あくまで対等な関係でいたからこそもう数えきれないほど言い合いだってしている。

    「はぁ……」

    思わず重たいため息を漏らすと、見かねた蘭が再び口を開いた。

    「イザナ…、イザナは鶴蝶に対して何を悩んでて、どうしたいワケ?俺ら聞かなかったことにしとくから一人で話してみたら?」

    ん?と軽く促すように眉をあげ、小首まで傾げた蘭をチラリと見てから話し出す。

    「……俺は、アイツの王、だったんだ。
    なのに俺は…死んだ奴との血縁や自分の中の孤独ばかりに囚われて、オマエらや他の幹部連中、下僕のことまで忘れて一人で勝手に彷徨って、銃なんかヘタなもんまで持ちだして下僕に『そんな醜態を晒すな。オマエの情けねぇ姿を見たくねぇんだよ』とまで言わしめた挙句、庇われて怪我させて…俺が最初に下僕に『死んだ奴のことは忘れろ』とか言ったくせに世話ねぇな…」

    「…どんなツラしてアイツに会えばいいのかわかんねぇ」

    少しの沈黙の後、キョトンとしていた蘭と竜胆が顔を見合わせてクスクスと小さく笑っているのを見て思わず凄んでしまった。

    「あ?」

    「フフッ…あぁ〜大将ごめんって、つまりそれって気まずいってことデショ?」

    「……」

    「なら、きっと向こうも同じハズだから腹括って話に行くしかないと思うよ」

    そう言って、いつもの悪い笑みではなく柔らかい笑みを浮かべている蘭と何故か満足気に笑っている竜胆に一言だけ伝えて店を出る。

    「…行ってくる」

    この寒さの中バイクに乗るのは気が引けたため電車で来ていた俺は、六本木から横浜まで30分弱かけて移動し鶴蝶の自宅へ向かう。

    電車でも、最寄りで降りて徒歩で向かっている今でも、何を話すか考えていたら気づいた時には目的の建物まで来てしまっていた。

    「はぁ…」

    エレベーターで鶴蝶の部屋がある階へ移動し、ドアの前で呼吸を整えチャイムを押す。

    ピンポーン

    鳴らして数秒後、パタパタ走る音と共に明らかに鶴蝶ではない緩い声が聞こえてきた。

    「はぁ〜い!ちょっと待って下さい」

    開いたドアの先から現れたのは、どこかで見かけた金髪に輝く海のような青い瞳を持つガキ…花垣武道だった。

    「は?オマエ…」

    「え!?黒川、イザナ?」

    お互い予想外の人物だったせいで会話が進まないでいると部屋の奥から楽しそうな鶴蝶の声が聞こえてきた。

    「おーい、武道?急げよ焦げるぞ!」

    「あ"〜〜」

    昼食にしては少し遅いが二人でメシでも食うつもりだったのか、部屋から微かに焼きそばの匂いが漂ってきている。

    「…帰る」

    真剣な話をしに来たはずが、空気も気持ちも完全に切れた。
    何より、他人が居て話せる内容ではない。

    もと来た道を戻ろうとすると手首を掴んで呼び止められる。

    「ちょっ!待って下さい!!俺、帰るんで、カクちゃんと話してあげて下さい!」

    ね?とぎこちない笑顔を浮かべ、何故か話をしに来た俺や当事者であるはずの鶴蝶よりも花垣が一番焦っていた。

    「あ"?ンな気遣いらねぇーから離せ」

    「でもっ!」

    花垣の戻りが遅いのを心配したのか鶴蝶が部屋の奥からこちらへ向かってくる。

    「おい、武道何やって…!」

    「チッ」

    俺を見るなり目を見開いて固まった鶴蝶。
    その表情からは恐怖や困惑のような感情は読み取れず、ただただ驚いていることだけが窺えた。

    「イ、ザナ…どうして」

    「カクちゃん!俺、今日はもう帰るから!焼きそばはイザナくんと食べて!イザナくんも失礼しますね!じゃあ」

    「はっ?おい、武道!?」

    言うが早いかあっという間に俺たちの前から
    消えた花垣に俺と鶴蝶は少しの間唖然としていたが、ふと鶴蝶が笑いを溢す。

    「ははっ、ほんとアイツらしいな。…イザナ、中で話そう」

    それから俺と鶴蝶は互いの胸の内で思っていた事を話し、ぎこちなかった関係からようやく元の関係に戻ることができた。

    「そういえば、さっきのアイツ…花垣だったか?ヘンな奴だな」

    「あぁ〜、武道は…まぁ、たしかに少し変わってるかもな。ただ、アイツの笑顔って不思議でさ、アイツが笑って言えば何でもそうなりそうな気がするんだ」
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