想い出を下さい。「あかん…もう耐えられへん…!」
練習が終わり、自宅へと帰宅途中の事だった。いきなり叫んだ兄弟に「なにが?」と治は言った。
「なにがて!わかるやろ!烏野と試合した時にあんな事言ったんに、会えとらん…話したい…バレーしたい…」
「…なに、お前そんなに気に入ってたん?」
あの子とは、烏野10番日向翔陽の事である。初めて会ったのが春高での事。まさか負けるとは思ってなかった試合だ。
試合の直後に言った台詞「俺はいつかアンタにトスを上げるで」それはいつのつもりで言ったのかは定かではない。
「かっこ良く決めた手前、やっぱもっと強なってから会いたいやん?」
「俺には負け犬の遠吠えにしか聞こえへんかったけどな」
「うっさいわ!!」
「もしかしてあの試合で惚れたんかww」
冗談で言ったつもりが、本当だったようで。見たこともない兄弟の姿に心の中で「マジかコイツ」と叫んだ。
「あんなん、あんなギャップ有るなんて卑怯や…」
恋する乙女かよ、同じ顔してきしょいわ!と言おうとした矢先、交差点の反対側できょろきょろと挙動不審の子供が居た。髪の色はオレンジに学ラン姿。どこかで見覚えあるなぁ、と眺めていると此方に気付いた様子で走ってきた。
「あああの…!!!!!」
「翔陽くんやないの~!!」
翔陽だと気付いた瞬間の侑は、それはもう治からは見てられない程の顔で。「え、付き合ってんの?」と言わんばかりの好意の寄せ方である。
「治さん…!会いたかったです~!!」
「ハァ?!」
「え、俺?」
涙目で嬉しそうに話しかけてくる翔陽と、物凄い睨みを効かせてくる兄弟に治の方は「誰か助けてくれ…」と思った。ふと、何故翔陽が治に話かけたのかを考えた。
「…ああ!もしかして言ってた修学旅行て今日なん?」
「そうなんですよ~!!行先京都だし、宿の近くに稲荷崎高校あるみたいだから行こうと思ったら迷子になっちゃって…九死に一生?はこの事だな!って!!」
「なん、その話…俺は、知らん……修学旅行…?翔陽くんが京都に来ること治は知っとったんか…」
わなわなと悲しいような、怒っているような、そんな侑の反応に内心笑いを堪えながら「俺ら連絡先交換してんねん」と追い討ちをかける。
「何でお前だけ……」