君のいない夢 これは夢だ。
東海岸にある、ブラッドリーの単身者用の住まい。部屋の中は整然としている。鍵とキャップが玄関に置かれ、外を散々歩いた靴は玄関マットの上。一人暮らしにはちょうど良い、狭くも広くもない部屋。
僕は部屋を歩き回る。ブラッドリーはいない。テレビをつけるも、音が聞こえない。音量を上げても電源を入れ直しても、この夢には音がない。
「なんだよもう」
悪態をつく自分の声だけは聞こえる。
辺りを見回すと、人が住んでいる気配を感じない。ソファの上で丁寧に畳まれたTシャツや中身が入っていないマグカップ、未開封のチップスなど、所々に置かれているのは全てブラッドリーの私物だ。だけど肝心の、ブラッドリーの存在を感じることが出来ない。贔屓の球団のロゴが描かれたTシャツは、何度も彼が着ている姿を見た。だがそれを広げると明らかに新品で、繰り返す洗濯に耐えかね剥がれ始めたプリントや色褪せたボロボロのタグが見当たらない。
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