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    カリフラワー

    @4ntm_hns

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    カリフラワー

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    マ右ワンライ/ルスマヴェ/お題「夢」
    ルスがいない方が夢、ルスがいる方が現実!👩🏻‍🏫
    歯磨く前に飲み物飲めるタイプなので2人にも飲ませた☕️

    #TGM
    #ルスマヴェ
    rousmavet
    #roosmav

    君のいない夢 これは夢だ。
    東海岸にある、ブラッドリーの単身者用の住まい。部屋の中は整然としている。鍵とキャップが玄関に置かれ、外を散々歩いた靴は玄関マットの上。一人暮らしにはちょうど良い、狭くも広くもない部屋。
    僕は部屋を歩き回る。ブラッドリーはいない。テレビをつけるも、音が聞こえない。音量を上げても電源を入れ直しても、この夢には音がない。
    「なんだよもう」
    悪態をつく自分の声だけは聞こえる。
    辺りを見回すと、人が住んでいる気配を感じない。ソファの上で丁寧に畳まれたTシャツや中身が入っていないマグカップ、未開封のチップスなど、所々に置かれているのは全てブラッドリーの私物だ。だけど肝心の、ブラッドリーの存在を感じることが出来ない。贔屓の球団のロゴが描かれたTシャツは、何度も彼が着ている姿を見た。だがそれを広げると明らかに新品で、繰り返す洗濯に耐えかね剥がれ始めたプリントや色褪せたボロボロのタグが見当たらない。
    「これは…ブラッドリーのじゃない」
    ではこれは誰の物なのか。今そんなことを追求する必要はない。どうせ夢の中だから。
    一体彼はどこにいるのだろう。彼の私物を数えながらバスルームへと向かう。しかしそこにもブラッドリーはいない。洗濯カゴには脱ぎっぱなしで裏返ったTシャツや、くしゃくしゃに丸まった下着が何日分も積み上がっている。試しにタンクトップを一枚拾い上げた。大きなサイズは確かに彼の物で、実際に彼が着るとそのサイズが錯覚であったかのようにぴったりと彼の身体に沿う光景も容易に想像できる。
    「これはブラッドリーのだ…たぶん」
    タンクトップを鼻に近づけ軽く息を吸う。彼の匂いがしない。汗の匂いも、制汗剤の匂いもしない。つまらないほどの無臭。匂いがしないのは夢だから? それともこれもまた新品なのか? シャワールームに置かれたシャンプー類や、洗面台のスタイリング剤などもやはり彼の愛用品だが、中身が減っていない。
    「なんだ、気味が悪いな」
    早々にバスルームを出て、次はベッドへ。ピンと張ったシーツに、綺麗に並んだ枕とクッション。ベッドサイドにはランプが置かれ、数冊のペーパーバックが端がぴったりと重なるように積まれている。写真の類は一枚もない。まるで展示品のような、ただブラッドリーの私物を並べただけの部屋。
    「そう…展示品、それだ」
    演出されたように物が整然と置かれ、空っぽの部屋を無理やりブラッドリーの部屋だと呼んでいるかのようで虚しい。こんな部屋は嘘だ。皺のないベッドシーツにも、乾いた洗面台にも畳まれたTシャツにも、彼の温度を感じない。ここにある全ての物に彼は触れたこともないはずだ。そもそも、ここが本当に彼の部屋かどうかもわからない。たしか僕は今夢の中にいるはずだ。どうやって抜け出せばいい? ブラッドリー、僕を呼んでくれ。僕をここから出してくれ。

    「ブラッド…」
    丸まったシーツの中で身じろぎをする。長いあくびの後、ベッドの広い方へ腕を伸ばし身体の緊張を解くと、空いた枕に手の甲が触れた。
    「ん…?」
    窓からは陽が差し込み、レースカーテンが白く照らされている。鼻を啜ると、洗ったばかりのシーツに微かに残る洗剤の香りが鼻を通り抜ける。隣の枕に目をやると、その真ん中が丸く凹んでいる。その向こうのベッドサイドチェストにはゴムが柔らかくなった充電コード、開き癖がついたペーパーバック、文字盤を覆うガラスが光を反射させる腕時計などが、規則性もなく置かれている。人の形に皺の寄ったボックスシーツをそっと撫でると、合図を受けたように鳥のさえずりが耳をくすぐった。重力に逆らい身を起こし寝室を出ると、どこかから足音が聞こえる。耳をすますと、スリッパの軽やかな音がこちらへ近づいてくる。
    「あ、マーヴ、おはよう」
    振り返ると、朗らかに笑う口髭の恋人が立っていた。両手には湯気を立てたマグカップ。
    「ブラッドリー…」
    「今朝はマーヴがお寝坊さんだね」
    そう言って彼は僕の額にくちづけた。その瞬間、なんとも形容し難い、僕にしかわからない彼の匂いがした。ああ、これだ。これがブラッドリーの匂い。すん、と音を立て息を吸う僕を見て、彼は自分の肩へと鼻を寄せた。
    「変な匂いする?」
    「あ、いや…君の匂いがする」
    「俺の? それって臭いってこと?」
    「ふふ、違うよ」
    自らの身体を嗅ぐ彼の心配そうな眉があまりにも愛らしくて、僕はただ笑って一言否定することしか出来なかった。
    「…おはようブラッドリー」
    「ん、おはよ」
    「そのコーヒー、どちらか貰ってもいいかな?」
    ブラッドリーはそうだった、と小さく呟き、右手のマグカップを差し出した。ラスベガスで2人揃って羽目を外した記念のマグカップ。
    「マーヴはこっちね、俺のはミルク入りだから」
    言いながら彼は左手に持ったマグカップの中身を見せた。受け取ったブラックコーヒーにも鼻を近づけてみる。湯気と共に香ばしい朝の香りが顔を覆う。
    「マーヴ、鼻詰まってるの?」
    「いや、大丈夫。今日は匂いを感じたい日なんだ」
    ふーん?と彼は納得していない顔で頷いた。
    「さ、ベッドに戻ろ」
    「起きないのか?」
    「いいから」
    彼は空いた方の手で僕の背中にそっと触れた。その手は熱く、背中を全て覆われているような感覚がした。
    ベッドはついさっき目を覚ました時とまったく同じ様相で、人間がここで生活を営んでいることを示していた。ブラッドリーは僕が寝ていたところに腰をおろし、カフェオレを啜った。昨日も、一昨日もその前の日も、僕はブラッドリーと生きていた。彼の姿を見ていた。だがベッドに座って僕に微笑みかける彼の大きな身体や陽の光を纏ったその眩しさに、目の前にある現実の素晴らしさに、感謝せずにはいられなかった。一体僕が誰に感謝しているのかはわからないが。たぶん、ブラッドリーに感謝すべきだろう。くるくると遊び回る髪と首周りがヨレたTシャツに彩られた彼に。
    もちろん夢を抜け出して飲むコーヒーは熱かった。息を吹きかけ冷ましてもなお、白い湯気が顔を湿らせた。分厚いマグカップで両手を温めながら、隣のバスルームへと向かう。洗濯カゴには一日分の服が積み上がるのみで、それより前の洗濯物はすでにランドリールームを経由しクローゼットへと帰っていた。洗面台にコーヒーを置き、見覚えのあるタンクトップを拾い上げた。匂いを嗅ぐと、ブラッドリーの体臭と微かな香水の香りが鼻腔をくすぐる。昨夜の気取った夕食が脳裏を掠めた。
    「マーヴ、また匂い嗅いでる」
    ブラッドリーはドアの隙間からこちらの様子を伺っていた。
    「ああ…つい」
    「昨日の洗ってない服はさすがに恥ずかしいんですけど」
    「ごめんごめん」
    タンクトップをカゴに放り、マグカップを取り上げた。コーヒーは幾分か温度が下がり、躊躇いなく飲める程度になっていた。
    「ねえ、こっち来て」
    優しく呼びかけられ振り返ると、彼はお気に入りの球団のTシャツを着ていた。着古したTシャツはパジャマの仲間入りを果たしていて、昨夜酔って帰宅した後彼が着替えていたことを思い出した。
    「…それ、」
    「ん? ああ、まだ着替えてないんだよね」
    腕を伸ばして彼のTシャツの胸元に触れた。剥げかけたロゴプリント。襟を捲ると文字が霞れたタグに触れた。彼は不思議そうに僕の腰に手を沿わせ、朝の潤んだ目で僕を見上げた。僕の手は無意識のうちに移動し、彼の頬に触れ鼻をなぞり、唇を撫でた。彼の顔とその輪郭を学習するかのように。その間彼は一言も発することなく、ただ僕を見つめていた。
    「マーヴ、キスしていい? まだ歯磨いてないけど」
    ブラッドリーは返事を聞く前に僕の手からマグカップを受け取り、彼のカフェオレの隣にそっと置いた。
    「はは、いいよ、僕もまだ磨いてない」
    僕は心の底から笑っていた。
    ブラッドリーは腰にあてた手に力を込め、彼の脚の間に僕を引き寄せた。僕は空いた両手で彼の頬を包み、唇を重ねた。彼の頬は温かく滑らかで、唇は溶けそうなほど柔らかかった。そう、これがブラッドリーの感触。
    ベッドサイドでは、フレームの中でブラッドリーと僕が笑っている。
    「君のいない部屋はつまらなかった」
    「へ? なに?」
    「君の匂いも音も感じられないんだ。君の感触や温かさも存在しない」
    「どういうこと?」
    「君を感じられる今のこの世界が一番好きだ」
    「? お、俺もマーヴのいる世界が好きだよ…?」
    「…ところで、そこにある袋は何だ?」
    ブラッドリー側のベッドサイドに置かれたチップスの袋を顎で示すと、彼は慌てて振り返り腕を伸ばした。残念、誤魔化すにはもう遅い。

    東海岸の彼の部屋は、結局一度も行けずじまいだった。彼の暮らしぶりを見せてもらう前に、彼は真っ先に西海岸へと降り立ち僕との生活を始めた。彼が一人だった頃、あの部屋でどうやって生きていたのか、僕にはそれを想像する術がない。空っぽの部屋に彼の物を置いてみることしか出来ない。それでもいい。今は五感の全てを使ってブラッドリーと繋がれるから。そして毎日彼に触れ、彼の声を聞き、彼に返事をすることが出来るこの生活こそが、夢のようだから。
    彼も僕と同じように感じて生きてくれていたら、僕は嬉しい。あともう一つ望むことがあるとするなら、今夜、夢で君に会いたい。
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    カリフラワー

    MENU12/17新刊サンプルです。『今日の同棲ルスマヴェ』ツイート群をSSにしたものの第1巻です。(来年作る予定の『同棲ルマ』ツイログ本とは別物になります)
    ・『Past Ties, Present Love / The Diary of Roosmav 1』
    ・A5/62ページ/全年齢向け
    ・400円(予定)
    ・ほぼすべて書き下ろし
    本になっても変わらず低ハードルでご覧ください。
    12/17新刊サンプル3※連続した日々の記録ではなく、ある一日を日付を特定せず抜き出したもの(という設定)です。
    ※二人の薄い設定としては、ルスはノースアイランドでトップガンの教官をし、マーヴは退役後乗り物の知識と趣味が高じて車やバイクの修理店でバイトしている(免許とか取りそうだし…)…みたいな感じです。

    ※上記の設定は完全に筆者の趣味であり、設定を無視しても問題なく読み進められる内容になっていますので、どうしても二人の設定が気になる!という方はご参考までにどうぞ…笑

    ↓以下本文↓


    ―マーヴとの生活は、言ってしまえばとりとめのないものだ。愛する人と生活しているからといって、毎日重大なことが起こるわけではない。ただ、何も起きない日にもマーヴはここにいて、何も始まらず何も終わらない日々にマーヴという唯一の奇跡が光るのだ。
    18876

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    カリフラワー

    DONEマ右ワンライ企画のルスマヴェです🐓🐺
    お題は「バレンタイン」
    イメージは平日のバレンタインです。イベント事の話が苦手な自分なりに、自分らしく書けたかなと思います。
    サンスベリアの和名に由来する花言葉「永久」「不滅」をタイトルらしくなるようにもじってつけました🪴
    永遠に続けば 今日は何の日か知ってるか?
    目が合った途端、二言目にはこの質問をされた。ただし、質問をしたのは恋人ではなくただの同僚。答え甲斐など何もない。
    「…知ってる。けど言いたくない」
    力の無い答えになんだよそれ、と同僚が笑う。もし目の前にいるのがマーヴだったなら、これ以上ないほどの甘い声できちんと一言答えられるのに。今日はバレンタインだね、と。
    どれだけ瞬きしようが目を擦ろうが目の前の同僚がマーヴに変わることはないし、残業のためPCや書類と向き合った時間を後から取り戻せたりもしない。

    俺はバレンタインに、残業に勤しみ恋人を一人で待たせているのだ。そうか、こんなバレンタインの過ごし方もあったわけか。…当然これは嫌味だが、勤務態度の良い俺は決して口には出さなかった。その分一刻も早く仕事を終わらせ、残業仲間の同僚と別れ駐車場へと向かった。
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