男子高校生 吸血鬼スケくんの日常2023-3日目_兄、現る※ https://poipiku.com/6069970/9337562.htmlの続き
秋もいよいよ深まり始めた10月下旬、モブ子ちゃんに恋するモブ男くんは今日も今日とて放課後の教室に居残っていました。
でも今日は陸上部のモブ子ちゃんを眺めるためではありません。今週は進路相談会のため部活動は特例を除いて全てお休みなのです。
じゃあどうして教室に居残っているのかというと、モブ男くんの進路相談の日が今日だったからです。他にもいつもなら部活や委員会に行く面々が教室に残り、それぞれワイワイガヤガヤ、自分の順が回ってくるまで待機しています。
この進路相談会はそんなに堅苦しいものではなく、保護者も含めての三者懇談を希望する人は広い多目的室での待機となりますが、モブ男くんのように二者懇談を希望する生徒は自教室で待つようにと言われています。
進路をそろそろぼんやりとでも考え始める高校2年生の秋。けれど、まだまだ受験生という意識は希薄で、とりあえず二者懇談でいいかと多くの生徒が教室には残っていました。
学校一のイケメンにして美少年、うちはサスケくんもその一人。
彼はいつものようにパーカーのフードを目深に被り、時折話しかけてくるクラスメイトに「ああ」とか「いや」とか、興味関心がなさそうに相槌を打っていました。
モブ男くんはうちはサスケくんと親しくはありませんが、一度だけ彼の本音のようなものを聞いたことがあります。
モブ男くんがモブ子ちゃんに「付き合って」と言えないように、あんなに女子からキャーキャー言われているうちはサスケくんにも「付き合ってほしい」と言えない相手がいるようなのです。
サスケくんほどの人が言い出せない相手って誰なのだろうなあ。
モブ男くんの「付き合って」とは意味が違うと言っていたなあ。
どういうことだろうと、ついいつもの習慣で窓の外を見ていたモブ男くん。その目に、
「へっ!?」
校門を潜って、校舎の方へと歩いてくる怪しい人影が飛び込んできました。
モブ男くんの声が大きく、何より驚きの声だったからでしょう、窓の近くにいた生徒たちも何事かと教室の窓に群がります。
ざわざわざわ。
ざわざわざわ。
なんだ、あいつ。怪しい。明らかに怪しい。
だって女優のようなつば広の帽子を目深に被り、顔には芸能人のお忍びかと思うほどの大きなサングラスをかけ、まだ秋だというのにトレンチコートの立てた襟で口許を覆った人物なのだから、もうめっちゃ不審者。
生徒たちが口々にどうしようどうしよう怪しい怪しいと言っていると、普段はとってもクールなうちはサスケくんも慌てた様子で立ち上がり、窓辺の生徒たちを掻き分けて、窓から乗り出すようにして校庭を覗き込みます。
そして盛大な舌打ちをしたかと思うと、猛ダッシュで教室を飛び出していきました。
呆気にとられるクラスメイトたち。
ただいち早くはっとしたモブ男くんはサスケくんを追いかけることにしました。もしかしたらサスケくんはみんなを守るため、あの不審者の前に立ち塞がるつもりなのかもしれない。サスケくん、そういうところあるから。
それにしても文武両道のうちはサスケくんの足は速い。あっという間に姿を見失ってしまったけれど、行く先は校舎への入り口、玄関でしょう。
そうあたりを付けてモブ男くんが息を切らして玄関に辿り着くと、やはりうちはサスケくんは不審者と真っ直ぐに向かい合っていました。そして、
「兄さん!」
えっ……
ニーサン……?
いつの間にか集まっていた他の生徒たちもお互いに顔を見合わせてざわざわざわ。
そういえばうちはサスケくんはお兄さんと二人暮らしだと言っていたような?(2023年第1話参照)
じゃあ本当にこの不審者さんはサスケくんのお兄さん…?
と、モブ男くんたちがごくりと固唾を呑んで見守る中、不審者の男は周囲に視線を気に留めた風もなく帽子とサングラスを取り、立てていたトレンチコートの襟を開きました。
すると、なんということでしょう。うちはサスケくんそっくりな、というより、うちはサスケくんを大人の青年にしたような、黒髪長髪の大変端正な顔立ちの男が姿を現したではありませんか。
誰がどう見ても、うちはサスケくんのお兄さんです。ついでに帽子を目深に被ったり、厚着をするところまでそっくりだなと思うモブ男くん。
そんなモブ男くんやキャッキャッと騒ぎ始めた女子たちのことは意にも介さず、サスケくんは強い語調でお兄さんに食って掛かりました。
「アンタ、どうしてここに」
「今日は進路相談会だろう?おれにも知らせが来ていた」
と、スマートフォンを取り出して見せるサスケくんのお兄さん。
どうやらサスケくんは進路相談会をお兄さんに内緒にしていたようです。
それがどうにもばつが悪いらしく、サスケくんにしては珍しくもごもごと言い淀みます。
「…二者でもよかったから」
「だが、保護者との三者でもいいと書いてある」
「……」
いつもはクールで格好良いあのサスケくんがいとも簡単に言い負かされているというよりは、最初から気圧されている姿はモブ男くんたちにとっては新鮮です。
「おれはここではお前の保護者だ。父さんと母さんともそういう了承だっただろう」
「それは…そうだが…」
「じゃあ決まりだな。多目的室は?」
「…こっち」
すたすたと歩いていくお兄さんと、ちょっと肩を落として付いて行くうちはサスケくん。
でもモブ男くんには何となく分かりました。
あのときサスケくんが「付き合ってほしいと言えない」と言った相手、あれはきっとお兄さんのことだったのでしょう。
だって、
「久しぶりに帰りは何処か寄っていくか」
と、お兄さんに話しかけられて、
「べつにいいけど」
なんて口では素っ気なく答えるサスケくんは、モブ男くんたちが見たことのない少しはにかんだ顔をしていたのですから。