冬に添う 思えばこそ(後編) 鼻に届く鋭い匂いはブリザードの気配を滲ませていた。ブラッドリーは心中で舌打ちし、駆ける速度を速める。雪に沈まない四つ足のおかげで何ら不自由はなく、ネロとシグが去った位置へはすぐに辿り着くことが叶った。
僅かに残る花の香りを頼りに、周囲を見渡す。彼らの足跡は崖に沿って残っており、それも上方へ向かっている。自ら春の国に帰ってやろうとしているのなら、方角は真逆であり不可解だった。
上方には此処以上に切り立った断崖と、暴風吹き荒れる峡谷しかない。
更に歩を進めて数分、こうもこの足で追いつけないかと思う傍から、獣の影を見つけた。
『あ、ボ、ボスー!』
涙目で飛びついてきたのはシグだ。どうやら一匹でおろおろとしていたらしい。
その目の前は、断崖絶壁だった。一時息が止まりそうになる。何故此処にネロがいない。
「ネロは」
『あの……あちらに』
シグの青い目がゆるゆると下方に向けられる。
急ぎ崖に爪を掛けて下を覗くと、吹き荒れる風の中にネロがいた。彼が頼りにしているのは、今ブラッドリーたちが立つ崖に一本だけ生えている凍結した木の、それに結えつけられた鉄縄のみ。その割には平然とした顔つきをしているのが不思議だ。
一体何を、とブラッドリーは唸った。
「てめえ、よくもまぁこんな状況であいつを行かせたもんだな」
狼の体ではどうしようも無い。息を抜いて体を紡ぎなおし、普段のひとの身へと還る。出立ちは普段のものと変わらないものに仕立てた。
『俺が止める間もなく降り始めてて……』
「撒かれかけたってか。シグよぉ、情けねえな」
『ボス〜……』
きゅうきゅう言いながら鼻面を押し当ててくるのを退けながら、鉄縄に触れる。特殊な魔鉱石が含まれているが故にこの寒さでも凍てつくことなく、ネロを支えているに違いはない。しかしあんなものは部屋に置かせていなかったはず。それに、
「何だってあんなところに……」
『……あの、ボス』
シグが申し訳なさそうな顔をしたままブラッドリーの前に座る。視線を向けると彼は恐る恐る口を開いた。
『ネロさん、ボスの食事の用意してるんです』
「……なんつった?」
『え、あの食事の用意……』
顔面を両手でわしりと掴む。シグはまた涙目になった。こいつ顔やわらけえな。
「何で俺の飯の準備が氷獄の崖下りになるんだ? あ?」
『ボスぅ……笑ったまま怒らないでくださいよぉ』
ブラッドリーに顔面を掴まれたまま、シグはしどろもどろと説明し始めた。
初めに、ネロは腹が減ったと呟いた。冬の国においてはネロは余所者で、春の国では娯楽の一種と化していた食事をする必要がある。
その主な対象はブラッドリーが領地とする谷に咲く青い花で、それは常と変わらずネロの力になってくれていた。
『取ってきましょうか?』
シグが問えども、ネロは「うん……」と頼りない返事しか寄越さない。シグは考えた。
多分、自分の腹が減っているのだから、先まで話していたボスも腹を減らしているのでは無いか。恐らく、そんなことを思っているのだろうと。
『昨日、皆で肥えた鳥を捕りましたよ。ネロさんがいない間、ボスはあれを揚げた奴、また食いてえなって言ってました』
「……ほんとか?」
『はい。戦で苦戦してる時とか、大体』
口にしていたのは酒ばかりで、彼は特段美味そうな顔をするでもなくそれを飲み干していた。ネロの飯が恋しいな、と呟いていたのもシグは聞いている。
それを伝えるとネロが少しばかり瞳を輝かせた。
「仕方ねえなぁ。……強制帰還の前に用意してやらねえと」
思えば、その折にはネロも帰ることを諦めていたのだろう。そうでなければそんな言葉は生まれないはずだから。ネロが立ち上がったのでシグもついて行くことにした。
『手伝います』
「お、本当か? 悪いな」
優しく首周りを撫でられて、頭も撫でられる。
ボスはいつも乱雑にしか撫でてくれないので、丁寧に撫でてくれるネロのことが好きだった。
居室を出て、回廊を通り、調理場へ移る。
手前にある貯蔵庫には寒冷地帯でも育つ根菜や、肉、魚が置かれていた。自国生まれの精霊は食事を要としない。これだけの食材が置かれている理由は、ネロが好きなだけ料理ができるように、という計らいである。
ネロもそれは分かっているようで、食材の一つ一つを愛しそうに見つめて籠へ入れていった。
その籠を咥えさせてもらい、シグはネロの後を追う。調理に気が向いているのか先ほどよりも機嫌は良さそうに見えた。
だがその足が止まる。はて、と彼の傍から顔を出すと立ち止まっているのは調味剤が置かれている場所のようだった。
『……ふぇろさん?』
籠の取っ手を咥えたままなので上手く口が利けない。ネロの視線は一つの瓶に向かっていた。
「龍……の……実がねえのか。あれがねえと物足りねえんだよなぁ……代用品になるもんもねえし」
何やらぶつぶつと呟いている。耳を立てて聞き取るのが精一杯で、しかも口元に手を当てているため余計に聞き取りにくい。首を伸ばそうとしたところで、ネロは不意に踵を返してしまった。
「取ってくる。シグは待ってな」
『え!?』
驚きすぎて籠を取り落としてしまったが、それどころではない。慌てるシグを前にネロは歩みながら毛皮を羽織り、着々と装備を整えていく。
『ネ、ネロさん! ボスに訊きましょう! 材料なら地霊のおやっさん達から貰えるかもしれませんよ!』
「俺の都合で迷惑かけるわけにはいかねえよ。大丈夫、心配ねえよ。何処にあるかも知ってるし」
『えぇ、でもぉ……』
シグは迷った。このままネロを追うべきか、それともボスに報告するべきか。
思えば、追いながら遠吠えで館の他の狼に知らせれば良かったのだ。されど、残念ながらシグにそんな余裕はなかった。後で存分に叱られることになるのは、何となく目には見えていたのだが。
しょんぼりと項垂れている狼の両頬を離して、ブラッドリーは嘆息した。
ネロが言うのは龍笛の実だろう。断崖の奥深くに生える小ぶりの実で、生のままでは食えたものではない。ただし乾燥させれば独特の風味が生まれる高価な嗜好品となるために、危険を賭してまで採取する人間も多かった。
龍笛の実の中央には小さな穴が開いており、風唸る谷に自生するが故にそれが鳥のような音を立てる。その音で自らを好物とする竜種を呼び寄せて食わせて種を運ばせる。名の由来は此処にある。賢しらな植物だ。
つまりだ。龍笛の実があるということは竜種も近くにいるということになる。奴らは実も食うし、崖から落ちてしまった人も食うし、実を採取している人も食う。当然、精霊だって大好物だ。木っ端のようなワイバーンはネロにも相手ができるだろうが、それ以上にまずい存在がここには巣食っている。時期があまりにも悪かった。
「《アドノポテンスム》」
手中に長銃を出現させ、ついでに宙に腕を振るう。真白い霧が纏わりついて、一条の長縄となった。
ネロが手がかりにしていた木に縄を結び、それをベルトに結えて断崖から身を乗り出す。
折に、すん、と空気を嗅いだ。途端に眉間に皺が寄ってしまう。ブリザードが近い。自身はともかく、ネロがあれを生身で受けるとまずい。
「明日遠吠えで知らせる。大橇持ってこい」
狼達は頷き、即座に踵を返して去っていく。それを見届けた後、ブラッドリーは崖を蹴った。
⁑
何となく意地になっているのは自分でも分かっていた。こんなことをしてまで食材を採る必要がないということも。
でも全てを彼に頼り切るのは、癪だった。
詰まるところ、この馬鹿みたいなクライミングをしている理由はそこに尽きる。
(怒られんだろうなぁ……)
小型のピッケルを崖に突き立てて、目標の植物に身体を傾けつつ、ブラッドリーの怒り顔を想像する。
だが、上手く想像できない。思えば、彼はネロに対して怒りを露わにすることはあまりなかった。そりゃ、叱られたことは沢山ある。でもそれだけで、内容はいつだってネロが理解できるものだった。
今回も、きっと。そう思った瞬間だった。
「……何だ?」
空気が震えている。金切り声が一点、谷間の向こうから向かってきた。
双翼、顔は小さく、首と尾は長くて細い。
手はなく、足のみ。色は珍しいが、小型の部類だ。
「よし、ワイバーンか。あれくらいなら」
喚きながら飛んできたそれは、初めは龍笛の実を狙っているものかと思ったが明らかにネロに向けて口を開いている。
腰から霊刀を引き抜き、ネロは壁に手をついた。
耳障りな喚き声を上げて食らいつこうとするワイバーンの一撃を、固定する縄に魔法を付して避ける。
一時的に浮き上がった身体を掠め、ワイバーンは空振りした口を不可思議そうに閉じ、首を捻り上げて身を反転させた。
「《アドノディス・オムニス》」
付した魔法を解く。反転させた胴体を狙い着地した。長首を持て余したワイバーンは怒りに吼えて、身を攀じろうともがく。
ふ、と呼気を吐いて霊刀に魔力を込めた。同時に攀じろうとするワイバーンの首根に手を当てて、力を貸してやる。竜種の口が、かぱりと開いた。
「良い肉付きじゃねえか、貰ってやるよ」
後は刃を当てて回転に任せるだけ。悲鳴もあげずにワイバーンは空中で断頭されて、首から下は力なく落下していった。
ネロの手に残ったのは血泡を噴いたワイバーンの首のみとなる。確か、狼達のご馳走になったはずだ。
良いものが手に入ったと背負い籠にそれを放り込み、再び龍笛の実の採取にかかる。
鐘のような音が響いたのは、幾つかを籠に入れた時だった。春の国でよく聞いた、時刻を知らせる巨大な鐘の音だ。そんなものが、何故、こんなところで。
それも、徐々に近くなっている。途端に空気が収縮して、一挙に震え、大気が吼えた。
音の出どころは、下方。
ハッとして目をやると、巨大な赤い光が二つ、いや、六つ、並んでいた。
それが急速に近づいている。生き物だと分かったのは、血生臭い呼気が身に届いてからだった。
「ネロ! 壁に伏せろ!」
声に応じ、身体が反射的に壁に伏した。身の近くを熱の塊が剛速で駆け降りて、消える。籠が打ち砕かれて、落ちていった。
「無事か! 良いな、目閉じてろ!」
身を包む、暖かく、力強い感覚。名を呼ぶ間も無く、後頭部を抱き寄せられて胸に押しつけられた。
「《アドノポテンスム》!!」
ブラッドリーの怒声が耳元で響く。目を伏せて、顔を守られて尚、目に届くほどの極光が断崖の谷に溢れ返った。
一拍置いて、地の底から潰えるような鐘の音が響き渡る。バタンバタンと何かが暴れ回り、吼え続けていた。さっきのは、何だったんだろうか。
「チッ……怯まねえか。ネロ、てめえの縄解け。邪魔だ」
「……分かった」
つべこべ言う前に腰に固定していた縄を解く。ブラッドリーが抱き寄せてくれるので、それを頼りにしがみついた。
同時に咆哮が生臭い風と共に吹き付ける。瀑布のような風が顔を叩いた。
「な、んなんだ、あいつ」
「説明は後だ。舌噛むんじゃねえぞ」
強く抱き寄せられたまま、身体がぐんと引っ張られる。ブラッドリーは片腕でネロを、片腕で長銃を繰って谷の底から迫り来る何かと相対していた。
引っ張られ、振り回され、必死にブラッドリーにしがみつく中で、頭上から彼の舌打ちが聞こえた。
「ブリザードが来やがる。ネロ! この辺の崖はワイバーンの営巣地だ! 壁に穴がねえか探せ!」
「あ、穴?」
「てめえは目が良い! このまま諸共あいつの餌になりたくなきゃ、見つけろ!」
がなり立てながらブラッドリーは銃をぶっ放している。ブリザードとは何のことだろうか。
いいや、それどころではない。何か得体の知れない化け物と、なんだかやばそうなもの。その双方を相手に、自身を庇い続けているブラッドリーの、迷惑をかけてしまっている彼の役に立たねば。
「ッ……二時の方角! 深さはわかんねえけど、でけえのがある!」
「あ?! ……よし、あれか。でかした!」
「でもあんな穴どうすんだって……ちょ、あんた何して」
「何って……走るに決まってんだろうがよ」
ふつ、とブラッドリーを支えていた縄が消えた。
ネロはぽかんとそれ見、ブラッドリーを見、うそだろ、と口にした。
「俺様の足が長くて良かったなぁ、ネロ」
ネロを抱き上げたまま、ブラッドリーが宙を駆ける。いいや、正確には、宙に張った方陣の上を。
彼が踏み、跳ぶや否やそれは閃光を放ち消えていき、光るたびに割れ鐘のような怒りの咆哮が響く。
光に弱いのか。察しはついたが、こんな空中闊歩は聞いていない。ぐわんぐわんと視界が揺れて、頭を守れ、と命じられてなんとか抱えた瞬間、地面にぶつかった。
頭を上げて、そこがようやく先に目指していた洞穴であると言うことがわかる。
は、として振り向いた瞬間、また手を引っ張られてブラッドリーに抱き寄せられた。
洞穴の淵、そこを掠めるように巨大な顎が寸時、見えた。凄まじい速さでそれは上方へと駆け抜けていく。あれほどの速さで昇っているというのに、どこまでいっても腹しか見えず、一呼吸置いた頃、ようやく金の煌びやかな尾が見えて、消えた。
遠くで口惜しげな鐘の音が聞こえる。ネロは思わず腰の霊刀を手に取ったが、ブラッドリーに止められた。
「あいつは此処には入れねえよ」
「そ、うなのか……?」
「おうよ。何しろ口がでけえからなあ。この谷の中じゃ、上下の方向転換しか出来ねえよ」
ブラッドリーが宙に絵を描く。煙のような白線がゆるゆると形を作り上げていった。
口ばかりが巨大な、身体の長い龍。見え得る目は六つだが、実は十あるのだとブラッドリーは言った。
「この断崖はな、秋の国にまで続いてんだよ。あの大食らいは一所には居付かずに国の間を回遊して、その時々で一番繁栄してるもんを食ってる」
ちら、と彼が後方を見やるのでネロもつられて見ると、とうの昔に捨て去られたらしい藁巣があった。
「今はちょうどワイバーンの巣立ちの時期だから子どもを飯にしてんだろ。にしても出遅れくせえが……何処かで寄り道でもしてたんだろうよ」
「危険なやつじゃねえのか……?」
「目につくやつは何でも食うが、回遊の時期に出食わさなけりゃ特段問題はねえよ。あいつがいねえと、寧ろ特定の種が繁栄しすぎちまう。調整役だな」
「だから目眩しばっかりやってたのか……って、うわ」
洞穴の入り口に再度目をやって驚いた。
いつの間にか嵐のような猛吹雪が吹き荒れている。手を出せばそのまま引きちぎられてしまいそうなくらいの勢いだ。
「これが、あんたの言うブリザード?」
「そういうこった。春走りの奴は一番きつい。俺だってあん中にいたら風邪引くかもな」
「風邪で済むのかよ……なぁ、傍に行っていいか」
「ん? さみいか? 来な」
大きな手が抱き直してくれるのを感じ、甘んじることにする。毛皮付きの外套が肩にかけられる。それだけで格段に暖かくなるのだから不思議なものだ。
暗い洞穴の中で、柔く頭を撫でられていると、安堵と共に深い後悔の念が押し寄せてくる。
「……ブラッド」
呼びかけると、赤い瞳がこちらを向いた。
「悪かった……ワイバーンが巣食ってんのは知ってたんだけど、あんな大物がいるなんて、知らなくて……あんたを危険な目に遭わせちまった」
「んだよ、しおらしいな。むくれてるなら叱り飛ばしてやろうと思ってたのによ」
「そんな根性は流石にねえよ……」
「ま、反省してんなら構わねえよ。時期が悪すぎた。そんであの大食らいが回遊する時期をてめえに言ってなかった俺にも責がある。だから相子だな」
「ブラッド……」
不意に大きな手がネロの頭をわしわしと撫でた。
「何すんだよ!」
「ワイバーンを裂いたあの手際、見てたぜ。大したもんじゃねえか。この洞穴を即時に見つけたのも良くやった。……春の国の連中は腑抜けが多いがよ、てめえはただの春の精霊じゃねえって、よく分かった」
「それは……あんたが、竜種との戦い方や、魔力の使い方を教えてくれたから、出来ただけで……」
「なぁにしょぼくれてんだよ。俺は力の使い方を教示しただけだ。実戦で用いることができたのはてめえの実力だろうが。……なぁ、ネロ」
褒められるだなんて思ってもいなかったため、ネロは視線を地面に向けることしかできなかった。それでも促されるので仕方なくブラッドリーを見上げる。
「おまえを春の国に帰そうと思ったのは、弱ってたおまえを国の魔力に食い潰されるなんていう、つまらねえ理由で失いたくねえからだ。ガキだ何だって理由なら、最初から首根掴んで外に放り出してら」
こちらを見つめる視線と口調は、ひどく穏やかだった。
それよりも、その言葉。その意を聞き、ネロの心が小さく揺れた。
「俺を、失いたくないから……って」
「このブラッドリー様に並び立つ精霊なんて、てめえくらいだ。誰が好き好んで帰してやろうだなんて思うってんだよ」
「……俺が早合点しただけってことか」
「いいや、互いの本懐が通じてなかったってだけだろ。俺だってザウエルに説教食らわなかったら、てめえが何で怒ったか分からなかった」
何しろずっと一人きりだったからな、とブラッドリーは苦笑する。
「今回のことでおまえの体調が回復してるのは分かった。何しろロクな加護なしで動き回ってんだからな、おまえは。すぐに帰そうとは、もう思ってねえよ。ただ、格段に冬の力が強くなる厳冬の時期だけは、春の国に里帰りしな」
「……分かった。でも一応理由聞いても良いか」
「嫌でもおまえの身を蝕むのが第一。あとは……ま、一年に数ヶ月くらいは兄弟に顔見せてやれよ。どっちの精霊でもいてえんだろ、おまえは」
「ん。……ありがとな。そうする」
あれだけ反抗心しかなかった心が、するすると解かれて解放されてしまう。
ネロが頷けば、ブラッドリーは笑んでより抱き寄せてくれた。逞しい腕を抱かせてもらい、肩に凭れる。
ブリザードの向こうは既に夜で、その闇に釣られてぽつりとネロは呟いた。
「折角熱下がったのに、初の同衾が野宿なんてなぁ」
安堵する香りに包まれて、思わずそんな言葉を漏らしてしまう。
「んだよ。今までだってそうしてただろうが」
「百年前と一緒にすんなって……その、今は意味合いが違うだろうが」
ネロがしどろもどろと応じるも、ブラッドリーは何故か不可思議そうな顔をしている。
「意味合い、なぁ。そんなに変わるもんか? まさかおまえ、百年経っても一人で寝られねえってか」
「ばっ……違えよ! ……あ、まさか」
隣に並び立つ存在としては認められても、それ以上の存在には、まだ。
ネロはブラッドリーを見上げたまま、静かに決意した。この一年で、何とか落とさねばなるまいと。
猛吹雪と共に、夜は暮れゆく。
この年若い精霊が本当の意味での伴侶となるのは、まだ遠い先のことになる。