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    素直になるお札効果で「あ〜消えちゃいたい」に素直になった江澄が死んでなんやかんやで蓮花塢の蓮の精霊に生まれ変わる話のネタ書きです(続かせたい)

    蓮の精霊江澄なんか最近江澄とお兄さんいい感じじゃない!?て思った魏嬰、だけどやっぱり素直じゃない江澄の恋(?)を後押しするために、ジョークグッズ的な素直になるお札を作ってあげることに。一度ひとつの感情に素直になるとじゅっと軽く燃えて消えるので、自動的にちゃんと一回で短く終わるやつ。
    ある日お仕事で江澄が雲深不知処に来たので、仕事終わりにここぞとばかりに絡みにいく魏嬰(関係を新しく前に進めたいので)。江澄、最初はスン……てしてるけど頑張って話しかけたら、だんだんギャンギャン話が盛り上っていい感じに。見張りにきた藍湛とか通りがかりの小双璧とか巻き込んでお話タイム……で、お兄も来る。めっちゃ早歩き。よほど江澄とお話ししたいと見た魏嬰、今がチャンス!と思って江澄の背中にお札を貼り付ける。
    魏嬰は、江澄が沢蕪君に向かって「あなたに会いたかった」とかなんとか言って笑ったりしないかしら、て考えてたんだけど、ところがどっこい……江澄、急に無表情になったかと見えたら、おもむろに三毒を引き抜いて、誰かが止める間もなく自分の胸を刺しちゃった。
    え……?てみんな呆然としているうちに、虚な目を半開きにした江澄が地面に崩れ落ちて、ぶるって一回震えたら、それっきり動かなくなって、魏嬰は、あれ、これ、え?てもう何が何だかわからない。
    そうしているうちに、血相を変えた藍湛が江澄の胸に手をやって、目を見て脈を見て、三毒が心臓の真ん中をぴったり穿っていて、もう江澄がとうに事切れているのを確認したんだけど、あんまりな状況に言葉が出ない。
    じゃんちょん、て震えた声でつぶやいた魏嬰が、地面に膝をついて、四つん這いでふらふら江澄に近寄って、体のあちこちを触って、頬を撫でて、でも江澄はぴくりとも動かなくて、だから魏嬰は心臓が動くように三毒を引き抜いて、思いつくかぎり術をかけてみたけど、それでもやっぱり江澄は動かない。まあ、だって死んじゃったので。
    なんで、て景儀がつぶやいて、で、魏嬰は、あ、素直になったんだ……て気づく。あのとき、一番大きな感情に素直になったんだ……て。そう思ってから、魏嬰の記憶はあんまりない。


    江澄、気づいたらなんか真っ白でもこもこふわふわの地面に立ってて、あれ???てなる。なんじゃこれ。とりあえず何してたっけ?て考えてみる……あれ俺、雲深不知処にいたよな、で魏無羨に絡まれて、冷静に対応しようとしたけどやっぱり乱暴に喋っちゃって、藍忘機の奴は殺すぞって睨んでくるし、小双璧は呆れ顔だし、ああもう嫌だなって思って、で、そしたら手元に三毒があって、あ、ここれだ!て思って、これ使って死んだらいいんじゃん!て思い立って、胸刺して……あれ、じゃあ俺、死んだのか?
    そしたら、目の前にでっかい何かが現れる。形容し難いでっかい何かが現れて、男みたいな女みたいな、子供のような大人のような老人のような声でなんか言う……「そう、江晩吟、江澄。きみは自分で自分の胸を刺して死んでしまった。ここは、きみたちが言うこの世とあの世の境目。きみの魂の進路を定める場所」
    江澄は、そうか、て思う。俺はあいつらの前で、金凌や門弟や民を残して自殺してしまったんだ、て。妙に冷静なのは、もうどうにもならないってわかっているから。俺は全部置いて、死んでしまったんだ……数多の屍に守られ踏みつけにして生きて生きてきたというのに、この手でもって死ぬとは……自分のこと、ほんとうにクソッタレのどうしようもない人間だと思ってたけど、まさかここまでとは……「いいや、江晩吟。きみがここしばらく希死念慮を抱いていたのは事実だが、突然の自殺衝動はちがう。魏無羨がその背中に貼り付けた符によるものだ」
    は??てなる江澄だけど、あの男がそんな呪符を作るわけも俺に使うわけもねえだろって怒りがブワってきて、そしたら何かが「どうどう、魏無羨はもちろんきみを殺そうとはしていないさ。彼はただ、何かと口の悪いきみを素直にさせようとしただけ」「……素直に?」「そう。彼は最近、きみと藍渙──藍曦臣が良い仲だと見てね」「は?!?!?」いや、この人の隣だとわりかし落ち着いていられるなあと思ってたくらいだが?「きみたちふたりの仲がもっと進展するように、といういたずらさ。きみが藍曦臣の前で、好きという感情に素直になるようにってね。結果としては、きみはそんなことよりも、この場から消えてしまいたいと思っていたから、その感情に素直になって自殺したってわけ。わかった?」
    わかった?て言われてもよって感じの江澄、あいつ、大丈夫か?て思う。札貼り付けた途端に、俺がうじうじくだらないことで悩んでいたせいで自殺しちまったから、自分が殺したって考えてヤケになってねえか?て。なんか、妙なことするんじゃあるまいか……
    「きみ、自分の感情をくだらないと一蹴するのは感心しないが、死んだあとすぐに他者を慮れるのはすごいね」とかなんとか、何かが。「くだらんだろう」て江澄。希死念慮とか、消えてしまいたいってなんだよって。
    確かに自分はここ最近、ほんとは魏無羨のものな金丹にまつわることとか、いつまでたっても感情の波が抑えられなくて嫌味言ったり当たり散らしたりとか、自分がいなくても回るようになってきた蓮花塢とか、これ以上俺の仕事に手を出すなと金凌から割とガチめに怒られたりしたこととか、そういうの考えるとやるせなさみたいな、思考が止まるというか、なんというかずっと寝ていたいなあみたいな気持ちになるというか、そういう日々が続いてたけど。そうは言っても仕事はあるし、雲夢の民の生活とか大きくなった金凌の背中とか見守っていきたいなって考えてたし、そういうのと比べたらやっぱりくだらない。まあ、もう死んじゃったから、置いてきたものに思いを寄せてもどうにもならんのだけど。
    「で、俺はどうなるんだ?」「うん、あー、どうしようねえ」「どうしようって、お前が決めるのか」「ああ。私は神みたいなものだからね」「ふうん」「どうしようねえ、自殺はよくないし、きみ、それ以前にもいろいろやってるしなあ。天国とはいかないね」まあそうだろうな、と江澄は思って、それから自分より先に死んだ心が良いみんなは、ほんとうにあったらしい天国でいい感じに過ごしてるんだなあ、そりゃいいことだなあ、みたいなこと考えてたら、何かもとい神が、「だが自殺は本意ではなく他者の介在があるし、功績もあまりある。口も態度も悪いが性根の清さもまあまあ。頑張りやだし。地獄には行かせたくないな。よし、決めた」死んだあとってみんなこんな感じで決まるのか、なんかやだな……て江澄は思ったけど、とりあえず神を見上げてたら、「きみを蓮花塢の蓮の精霊にする。それがきみへの罰であり、救いとする」はあ?
    「さて。そうなれば精霊に相応しい格好にしよう。生前と印象変えてふんわり系にしようか」で、いつのまにか江澄は薄い紫色であちこちふんわりした布に巻かれてて、髪はハーフアップでガラスでできた大きな蓮花の髪飾りまでついてる。「なんだこれは!?女物じゃないのか!?」「似合う似合う大丈夫」「他人事のように!というか精霊とはなんだ!?」「肉体に縛られずに存在する気の集合体みたいなものだよ。下界で過ごしているうちにわかる──さあ、そうと決まれば行くんだ。世界が終わる頃にまた会おう」
    どういうこと!?て江澄、足元が抜けて落下。ぎゃ──って悲鳴上げてクソッタレ!て叫んだら、ふわふわの隙間からお姉ちゃんとかお父さんとかお母さんとか、死んでしまった同胞とかそれに金子軒のやつが江澄のこと見下ろしてて、あ、て思う。みんな笑ってるような、呆れてるような、心配してるようなそんな顔をしてて、もっと自分が良い人間で、真っ当な人生を送れてたら、今頃あそこに加われていたのかな、て、ちょっと涙出てきたけど、「阿澄!私たち、ずっとあなたを見守ってる!ずっとあなたと一緒にいるわ!大好きよ、阿澄!」て、女の人の声がして、ああそうだ、俺の姉さんはこんな美しい声だったって思い出して、またぼろぼろ泣けてきた。


    で、現世の蓮花塢は元宗主のお葬式中。江澄は月一で遺書を書き換えて準備していたので、それに則って大師兄が新しい宗主になって遂行中。評判はどうであれ大きな世家の宗主の葬式だから各地から色んな人が集まってる。雲夢江氏は、クソほどおっかねえけど頼りになる信頼して尊敬してた宗主がこんなことになって悲しくて悔しくて訳わからなくて、でも宗主のためにちゃんとやろうと頑張ってるけど、雲深不知処で自殺により急死って死因だからもうずっとひそひそ声が止まなくて、空気が悪いクソみたいな葬式になってる。
    金凌。叔父上と最後にあったのは雨の日で、仕事が色々うまくいってなかった上にいつまでも口煩い叔父上が煩わしくて怒鳴ったのが最後の会話。次会ったとき謝ろうって思ってたのに死んじゃったから、あのときの叔父上の悲しそうな顔ばかり思い出して吐き続けて、胃の中身がない。なんでこんなことに?なんで──てぐるぐる思考が回り続けて、ずっと寝てなかったけど、ある夜、てか叔父上が俺を残して死ぬ訳なくない?普通に考えて命より大事な俺残して死ぬ訳ねえし、雲深不知処で自殺なんてするわけねえ──ああそうか、叔父上、殺されたんだ、この世のどこかに俺の大事な大事な叔父上を殺したやつがいるって気づいた金凌が、参列者の最前列で、儀式全部終わったらそいつ拷問して殺さなきゃって顔して並んでる。
    藍湛は姑蘇藍氏の代表で参列中。兄上が虚な目をしてものを言わなくなってしまったから、代わりに。周囲からの視線が刺さってる。隣には江澄が目の前で死んでから錯乱して、体力が尽きたら抜け殻みたいになった魏嬰がいる。雲深不知処に置いていくのも心配で、それに魏嬰が行く、て小さな声で言ったから連れてきたけど、やっぱり静室で寝かせてくるんだったって思ってる。声が、ひどい、ほんとに。江澄のこと、正直言って気に食わないし嫌いだったけど、そんなこと言っていいような人じゃないって知ってる。あの人がどれだけ懸命に生きてたか、藍湛は愛する魏嬰をめぐって、けっこう、知ってる。
    で、ひそひそ声はどんどん大きくなってて、静粛にって門弟が叫んでも止まなくて、どっかのカスがでかい声で江澄の悪口言っちゃったから、ある若い門弟がとうとうそいつぶん殴って、その門弟をカスの付き添いがぶん殴って、その付き添いを別の門弟がすっ飛んできてぶん殴って、誰かをぶん殴るやつがどんどん増えていって、なんと葬式は乱闘大会になっちゃった。金凌は「江晩吟に似合いの葬式だ」とかなんとか言って笑ったどこぞの宗主に馬乗りになって顔面タコ殴りしてる。魏嬰は俺のせいだって錯乱して叫んで、藍湛は抑え込んでる。雲夢江氏は必死に事態を収束しようと走り回ってるけど、もうどうにもならん。こんなことあっていいのか?
    一方聶懐桑。宗主としての付き合いと一緒に、もう唯一くらい気のおけない友人として付き合ってきた江澄があんまりな死に方をして、その上こんな葬式になったのが悲しくて悲しくて物陰で蹲って泣いてる。探りいれたら雲深不知処で自殺したのは事実らしいけど、自殺するような要因が見当たらなくて、こりゃあ計画立てて犯人処分しないと連鎖するかも……てしてたけど、なにやら魏嬰の様子が怪しくて、まじかよって思ってまた泣いてる。あんまりでしょそんなの、どういうこと、て思ってたら、「なにをやっている──!!!」てがなり声が響き渡って、は?てなる。大声が、もう絶対に聞けないはずの声だったから。
    参列者みんな、は?てなって、動きが止まる。誰か、なんかバカでけえ声で叫んでる、上から……


    なんだこれってのが、蓮花塢に落ちてきた江澄の最初の感想。落下途中で自力で飛べることに気づいてふよふよ蓮花塢に向かってたら乱闘中だった。あたりの装飾を見てどうやら俺の葬式だなってわかったけど乱闘て。死んだ後も散々だな、俺の人望のなさ……てなんかちょっとまた涙出てきたけど、会場には雲夢の民もいて、彼らが恐怖で逃げ惑ってる姿を見つけて怒り爆発、思わず鎮まれ馬鹿ども阿呆どもとかなんとか叫んだら、みんなポカンって口開けて見上げてくる。それで江澄、精霊?になったらしいのにどうやら普通に見えてるらしいことに気付いて、どんどん声が小さくなる。だって死んだのにこうやって現れるって、化け物以外のなんでもないから。
    でも、「おじ……っ、ひぐ、おじう、ひぐ……っ」って金凌の声がして、あ、て思って地面に降り立ってみたら、やっぱり土気色の顔に血を付けた金凌が人混み掻き分けて出てくる。阿凌、て呼んだら、金凌はとたんに顔真っ赤っかにしてぶわって涙流して「叔父上、叔父上、叔父上っ!」て叫んで、血で染まった手を伸ばして抱きついてくる。それはもう凄まじいタックルだったので江澄はうしろにすっ転んで金凌にのし掛かられてぐえって潰れたカエルみたいな声出しちゃったけど、金凌が叔父上、叔父上、じうじう、じうじうって幼児退行したみたいにワンワン泣くから、江澄も阿凌、阿凌、て何度も呼んで頭を撫でて抱きしめてあげる。えーん、ええーん、じうじうだ、ほんもののじうじうの匂いだ、夢じゃない、えーん、て金凌が泣き声がわんわん蓮花塢に響いてる。
    そしたら、じゃんちょん、じゃんちょん?てカスッカスの声がして、そっちのほう見たら全身ぼろぼろでやっぱり顔が土気色の魏無羨、最近この姿にようやく見慣れてきた魏無羨がが四つ足で這って人の足の間から出てきて、目が合った途端に飛びかかられてまたぐえって声あげる江澄。やっぱり憔悴してたな、こいつ……
    うわーん、えーん、うわーん、て金凌の泣き声に耳が痛くなってきたころ、そしゅ?宗主?て聞き慣れた声がして、見上げたら大師兄、もう新宗主か、それと門弟たちが呆然としたまま集まってきてて、その顔に苦笑いしつつ、ああ、まあ、とりあえず色々置いておいて、事態を収束させるか、てなる江澄。
    で、そこから江澄は金凌と魏無羨とまだ幼い門弟たちに足にしがみつかれて、涙と鼻水と汗を衣に染み込ませながら、すっかり疲れ気味の門弟たちを引き連れて乱闘会場のお片付けに入る。どういうことだァ!!て参列者には後日手紙送るからさっさと帰れと追い出して、あ〜死んだのって誤報だったんだよかった〜て泣く参列者にも詳しいことは後ほど、て帰ってもらって、ものの2時間くらいで普段の蓮花塢に戻した江澄は、雲夢江氏と、それから残った金凌と魏無羨と、藍忘機と聶懐桑に、行きつけの食堂を頼りにあたたかい汁物を振る舞いながら、信じがたいんだが俺、なんか蓮の精霊になっちまったみたいで、て話す。自殺の理由はまだ、ぼかしながら。


    夜。みんな離れようとしないから、とりあえず今日のところは寝ろ、明日から仕切り直す、宗主はもうお前だろしっかりしろって叱って宿舎に返して、聶懐桑には馴染みの客間を、江澄にしがみついたままの魏無羨を辛抱ならずとうとう引き離した藍忘機にも部屋を与えて、金凌は目元を真っ赤にしてじうじう、て見つめてきたから今夜は十何年ぶりに一緒に眠ることにした江澄。かわいくて我慢できなかった。もう立派に大人になったように見えてたのに、なんだまだ赤ちゃんだったのか……て、金凌を抱き寄せて横になってる。「じうじう」「なんだ」「あのね、おれ、じうじうが大好きなの」大好き、なんてこの子から聞いたのいつぶりかな、て思いつつ、俺もお前が大好きだって頭撫でて、おでこにキスしてあげたら、また金凌がぐずりだして、「もうじうじうの助けいらないとか、ぜんぶうそだよ。ずっとね、ずっといっしょにいてほしい」てしくしく泣くから、「わかってる、お前がいくつになっても躾けてやるからな、泣き虫め」とか言って、ああ、もし俺が蓮の精霊になるなんて馬鹿げた罰と救いを受けなかったら、この子はどれほど深い傷を心に負いながら生きていかなければならなかったんだろうって、世界が終わるまで俺はこの世にいるのをやめられないらしいが、そうなってよかった、この子を残していなくならずに済むみたいだから、て思う江澄……


    恋したひとが目の前で胸を刺して倒れてしまったけど、たぶんあれ夢だったなあ、てお兄は思い直してる。だって、あのひとがそんなことするはずないから。だから、そうだ蓮花塢に行こう、みんな酷いんだよ、きみが死んだって大騒ぎして、そんなことあるわけないのにって言いに行こうって夜中に思い立ったお兄は、ぴゅ〜っと雲深不知処を飛び出して雲夢に向かう。
    で、蓮花塢についたらやっぱり喪中じゃなくて、なんだあ、て思いつつ、は?え、沢蕪君?て顔の門番に会釈して眠ってもらい、晩吟どこ、気配探ったら、なぜか祠堂と私邸の方とふたつあって、あれ?て思いつつ近い祠堂へ向かって、扉の前に立ってた門弟も眠ってもらいつつお辞儀して入ったら棺がある。膝をついて覗いたら、江澄がきれいな顔で眠ってて、かわいいなあ、て思うお兄。江澄、いつも険しい顔してるけど、ふとしたときに険のない穏やかな顔を自分には見せてくれることがあって、そんな表情がお兄は好きだった。
    いつこのひとを好きになったのかというと、いろんなことで思考がたくさんになってとうとう埋め尽くされてしまって、何を考えるのもままならなくて、そんな時間がもう数年は続いていたか、みんなが遠巻きで自分のこと横目で見るなか、江澄がイライラした顔でいいご身分だなと言って、ええそうですねと思ったら、とある形態の邪崇について簡単な質問をされて、答えたらまた何回か嫌味付きで質問に来るようになって、雑談が混じるようになって、だんだん調子がよくなってきて、そういえばこのひと、ほんのちょっとだけ目尻をさげて、眉間の皺を浅くして笑うんだって気づいたときにああ好きだなって思ったんだけど、思えば少年時代、青年時代から今まで、いろんな江澄の姿をよくよく覚えていて、なんやかんやずっと目で追ってたから、そういうことなのかもしれない。
    ともかく、好きなひとがなんでか棺で眠ってるんだけど、窮屈に見えるから、お兄、そうだ連れて帰ろ、て思う。ちょうど、江澄用に牀榻をあつらえていたので。よっこらしょ、て持ち上げたらもう重いしかっちんこっちんだし、あらまあ帰ったらまず湯船に浸けてあげようって考える。つまりお兄、全然正気じゃない。


    江澄、ぽかぽかの金凌を抱えて寝転んだはいいものの全然眠くならない。で、ああ俺、ほんとうに人間じゃないんだって思う。生物じゃないから睡眠がいらないんだって。そういえば腹も空かないし。仕方ねえ朝まで瞑想するか……て思ったとき、不穏な気配を察知。誰かが蓮花塢に今侵入している。大切な門弟の誰かが危うくなった、ああ今倒れた、てビビッと感じて、金凌からそっと離れて不穏な気配の方へ急ぐ。不穏って言っても危ない感じはないんだけど、これも精霊になった力か?て思いつつ祠堂へ向かうと、門弟ふたりが入り口前ですやすや眠ってて、おい、て声をかけようとしたら、中で真っ白な何かが蝋燭のあかりに照らされて動いてる。ガチ不審者!!!てばっと駆け寄ったら、お兄。
    「曦臣!?」て叫んだら、びくってお兄が飛び上がって、抱えた死体(死体!?……俺か!!!)とこっちを見比べて、え?????て顔してる。え?????はこっちだよ、と思いつつ、「何をしている!!」て言ったら、お兄がどう見ても正気じゃない目で「きみをね、連れて帰って、もっといいところで寝かせてあげようって、思って……」て正気じゃないことを返すので、「正気に戻れ!!戻れ!!」て江澄、お兄のほっぺをペチペチ叩いてあげる。お兄、前からたまにどこかに意識がトリップして、何十分もぼうっとすることがあって、たぶん過去の記憶に浸かってしまっているんだけど、そういうとき江澄はしばらくは放っておいて、あまりに長いときは揺すり起こしてきて、そういうときみたいにペチペチゆさゆさしたら、お兄、はっとして、「晩吟、これはどういうこと?」江澄はため息をついて、説明するからまず眠らせた俺の門弟にクソほど謝れって言ってお兄を立ち上がらせる。


    魏嬰、藍湛に抱きしめてもらっていて温かいはずなのにすっごい寒くて眠れない。藍湛も起きていて、震えがひとときも収まらないのに気づいていて、でもなにも言わずに肌を擦って頬にキスしてくれる。
    もし藍湛がこの世にいなかったら江澄の後を追って胸を貫いていた確信があって、藍湛もそうと気づいているから、ふたり蓮花塢の隅の客室で、大きな牀榻の上でぎゅうぎゅうに縛りあって横になってる。
    江澄が死んでから戻ってくるまでの数日間の記憶はほとんどないんだけど、蓮花塢に行くって言ったのは、行ったらなんで来た!!てすっげえ面した江澄が当たり前のように出てくるんじゃないかって思ったからで、でも行ったら葬式で、江澄は石膏のお人形みたいにきれいになって棺の中にいたから、ああ俺が殺したの、ほんとだったんだって。
    でも江澄は戻ってきた。絶対に自分じゃ選ばないようなふわふわ柔らかくて色の薄い衣を纏って、神さまみたいなきれいな姿で戻ってきた。抱きついたらちゃんと江澄で、頭と背中を撫でてくれた手もちゃんと江澄で……死んだのも葬式もぜんぶ嘘だったんだ!て嬉しくなったけど、でも、もう江澄は人間じゃなかった。纏う気が違くて、人ならざるものの気配だってわかってしまった。生きてる人の生気がない。江澄はすっかり江澄だけど、確かにちがう江澄で、俺が、この手で……また頭が真っ白になって、もう何が何だかわからなかった。
    事態が落ち着いてから江澄はみんなを集めて、あの世とこの世の境目の嘘みたいな話を大真面目にして、人ならざる気配の正体が精霊なのはわかったけど、江澄はいろいろぼやかして、自殺したときのことをなにも言わなかったし、江澄が言わないから誰も聞かなかった。
    それで今夜は解散ってなったあと、江澄は藍湛を呼び止めて、迷惑を、言おうとした。でもなんで死んだか知ってる藍湛は止めて、それから江澄は、らしくなく眉を下げて、口角をほんのりあげて、魏嬰に向かって、「俺が、自分で考え、この手でしたことだ」とだけ言って、それから「叔父上いっしょにいて、どこにいるの」て泣き出した金凌を迎えに行っちゃった。
    で、魏嬰、俺が作った呪符がきっかけなのに、もう何も言わないし俺にも何も言わせないつもりだ……って。俺のせいなんだ、ほんとうにごめんなさいって言って、それで江澄にもうどうとでもされたいのに、ぜんぶわかってる江澄は魏嬰がなにか言おうとするたびに遮って話を変えてしまうし、もうぜんぶひっくるめて終わりにする、なかったことにするつもりだ、て気づく。この手は、江澄の心臓から流れた血で真っ赤っかなはずなのに、江澄は、そんなものはないって……
    それに、江澄は、俺がこいつとこうして話せてうれしいなって思ってるとき、自分の胸を貫いてしまいたいほどの気持ちを抱えてたってことで、それを隠して、ああしてなんでもないように俺と話してくれてたんだって、俺、江澄に、ほんとだったら死んじゃいたいほどの気持ちにさせてたんだって……そんなの、そんなのって……
    この先江澄がどうするのか、自殺現場にされた雲深不知処がどうするのか、死の真相をどうするのか、しでかしたこの身がどうなるのか、そういう行き先を決める決定権は魏嬰にはなくって、だからただ今は、震えて夫の腕の中にいるしかないんだけど、すぎていく1分1秒が永遠に思えて、頼むから誰か俺のことをめちゃくちゃにしてくれって、魏嬰はそんな気持ちも無責任で嫌になりながら、必死に目を閉じている。


    寒くて目を覚ましたら、叔父上がいなかった金凌、ひゅって喉が詰まって、頭が真っ白になって、廊下に飛び出して、叔父上どこって叫んで走り回ったら、阿凌!て行燈持った江澄が出てきて、わあわあ泣きながら飛びつく。「なんで黙っていなくなるの!?ぜんぶ夢かと思った!!ずっと一緒にいてって言ったでしょ!!」て怒鳴ったら、そうだなってぎゅうっと抱きしめてくれて、やっと落ち着いて江澄の首元に顔をすりすりしてたら、すん……て瞳を薄暗くした沢蕪君が後ろに立ってて、ギャア!!!てなる。咄嗟に離れようか、て思ったけど、必要なくね?俺ってば甥だしな?て思い直して抱きついたまま特に意味なく沢蕪君を睨みつける。そういえばこの人いつの間に現れたんだ?葬式のときはいなかったじゃん。なに?てかここ私邸なんだけど?叔父上と俺の場所になに勝手に入ってきてんの?
    ってガンつけてたら、無情にも叔父上に離れろってべりってされて、叔父上、「じゃあそういうわけだから、あなたもとりあえず朝まで待て。部屋はそうだな、こいつの部屋でいいか。場所は……」なんて言い出すから、「え!?叔父上、このひとここに泊めるの!?俺の部屋に!?なんで!?」て抵抗したら、こんな夜中に新しく部屋用意しろって家僕起こすわけいかんだろ、お前の部屋ならいつもきれいだしお前今夜は俺の部屋で寝てんだから使ってないだろ、みたいなこと返されて、そうそう叔父上ったら俺がいつきてもいいように毎日俺の部屋整えてくれるんだよねへへんって気持ちと、うぎゃあ今こんないい歳になって叔父上に添い寝要求するやばいやつだってバラされた……て泣き喚いて抱きついておきながら今更すぎる気持ちと、いやせっかく一緒に寝てたのに叔父上起こしたらしいこいつが悪くね、部屋使わせたくないんだがって気持ちが混ぜこぜになってム……てなる金凌。
    そしたら沢蕪君、は?て顔して、「まさかまだふたりで寝ているの?」て言うんだけど、金凌がまさかまだってなんだよォ!?て返すまえにカ〜ッてなった叔父上が、「今夜だけだ、俺が急に死んだせいでこいつが情緒不安定になってるから念の為」とかなんとか捲し立てて、そうそう俺もうしばらく叔父上と引っ付いてないとおかしくなっちゃうから沢蕪君はおかえりあそばせ、て素早く吹っ切れてムン!て顔したら、沢蕪君、「では晩吟、私とも寝てくれるんだね」


    最高に「は????」て感じの江澄、左側にしがみついてくる阿凌、右側にすっごい綺麗に仰向けになるお兄ってなふうに挟まれてる。特注の牀榻はそりゃあ大きいけど大柄な成人男性三人はさすがに狭いし、阿凌が身動きするとミシ……ッていうからこれ朝になったら壊れてるんじゃねえか?て。お兄が私とも一緒に寝ようって言い出したときは叔父甥揃っては???て顔したのに、お兄ったら私だってきみが倒れてから生きた心地がしなくて情緒不安定だった金宗主と同じだもんいっしょに寝てくれなきゃやだもん、みたいなことをすっごい綺麗な言葉で言うから、江澄はなんか一瞬「そうか?寝てやったほうがいいのかもな?」てなっちゃって、そこにつけ込まれてこんなことになってる。阿凌は最後の最後まで抵抗してたけど、ああいうようわからん口の巧さに勝てるほどの経験がないので、にっこり笑顔のお兄に押し切られて川の字の一部になってる。
    あーあそういや宗主になりたての頃からこの人のこういうところに負けて条件飲まされたことあったなあって、江澄はイライラしてきたんだけど、確かにお兄は目の下真っ黒だし、死体を連れて帰ろうとする奇行を見せたわけで、自分が死んでからマトモじゃなかったらしいことは確かだし、魏無羨が「いい感じ」だと誤解したくらいには、お兄は自分のこと好きだったんだって思って、胸がむずむずしてくる。へえ、ふうん、まあ最近な、仲良いかもなって思ってたけど、ふうん、へえ、そうか……
    左からはくう、くう、て小さい頃から変わらない阿凌の寝息が聞こえてきて、一体全体この子はいつまでこんなにかわいいんだ、もしや爺さんになってもかわいいのかな、そりゃやばいな、なんて考えてたら、「……晩吟」てお兄の息だけの声。「……なんだ」て同じように返したら、「私はきみを愛している」は?て江澄の思考が止まってるうちに続けて、「きみに恋をして、浮かれていて、そして私は臆病で、だから言わずにいたけれど、私はきみを愛している」巷で流行りの演劇に出てくる告白みたいなことを言う、て江澄が首を傾げたら、「きみの唯一になりたい」てお兄。
    「なにを、」て江澄が辛うじて返したら、「いつか、きっといつかと信じているうちに、日々は過ぎてゆくのだね」て、お兄の吐息が震えて、鼻を啜る音がして、どうやら泣いてるってわかった。「だから、人生を共にしてほしいんだ」だからってなに、てかそういうのってほら、なんかいい感じの女人に言わなきゃいけないんじゃないの、なんで俺に言うの、そう、「無理に決まってる。俺はもう人間じゃないんだ。あなたならわかるだろう」そしたらお兄、「断る理由はそれだけ?」て言って、いや正気に戻れ、なにあの断袖どものようなことを言うんだ、俺たちはなんでもないだろ、て江澄が返す前に、お兄も眠ってしまって、それきり朝まで起きなかった。


    早朝の江澄、まだ眠いよう、てしてる寝不足気味の阿凌とお兄を起こして支度をさせつつ、俺は祠堂にいるからな、泣き喚くんじゃないぞ、て言い聞かせて自分の棺の方へ。そこには人形みたいな自分の死体があって、俺ってこんな顔してたんだって江澄、ううん幸薄そうな面してら、なんて。で、目的は別に死体じゃなくて、一緒に安置されてた紫電と三毒。紫電は死んだらすぐに阿凌に送られる手筈だったのに仕事しろよ、て門弟に文句垂れつつ、まず紫電持ってみたら、パチ、て一瞬輝いたあと、なにも起こらなくなった。で、三毒を持ってみようとしたら、「お……っもいな、お前……」持ち上がらない。
    まあ、薄々感じてたけどやっぱり、金丹なくなってた。精霊で人間じゃないから修士にもなれない。「……せっかくもらったのにな」て呟いてみたけど、もうずいぶん昔に自分の金丹を奪われたときを思い出しつつ、あいつが、まだほんの子どもだった魏無羨が金丹を譲り渡してくれたときとそのあとの心持ちをまた想像して、江澄は棺の隣に腰をおろしてしばらく呆けてた。
    で、これからどうしよう?て江澄は考える。戻ってきたけど、宗主の座に戻る気は全然ない。新しく宗主になった大師兄も他の門弟も、もしかして、みたいな顔してたけど、まじでまったくない。自分はもう死んで、人ではなくなったから。そこはきっちり線を引いとかないとな、て。
    蘇った魏無羨に、なにもう全部終わったことだしみたいな顔してんだ?終わってねえけど?過去から今まで全部地続きだけど?てすっごい嫌な気持ちだったけど、実際死んでみたら確かにもうこうなっちゃったからにはもういいだろ、みたいな気持ちにはなるなあ、て江澄。生きる縁にして必死にしがみついてたもの全部と自分はもう隔てたところにいて、世界が終わるまで見届けるだけの存在になってしまったけど、なっちゃったからにはもう、ねえ。
    とりあえず、私邸は片付けて新しい宗主一家に譲ろう、じゃあ俺はどこに住もうかな……譲ったはずの遺産でどっか土地買うのって、あり?なんて思いつつ、「叔父上ー!」て金凌の呼び声に腰を上げて、腹減ってないけど飯って食えるんかな、なんて考えた、江澄。


    ほわちゃん、蓮花塢に来たらいつも滞在する部屋で目を覚まして、きのうの昼過ぎまでは訳わからなかったのに、こうしていつもどおりみたいな朝で、江兄いるよね、夢じゃないよね、てどきどきしたから急いで支度して部屋を出たら、「おう、珍しく早いな」て、おとぎ話の天女みたいな姿の江澄がいて、寝たはずなのにどっと肩に疲れが乗った気がしてため息。「普通すぎない?」て思わず尋ねたら、「ああ、うん、まあ、こうなってしまったからにはなあ」て江澄。なんだよそれ、きみってば死んで精霊になっちゃったんだよってほわちゃん思うけど、江澄は起こったことにカーッとはなりつつもちゃんと対応する優れた宗主だった、て思い返して、またため息。今までとは訳が違うでしょうよ……
    江澄はなんだ朝から人の顔見るなりため息つきやがってボゲ、てイライラしはじめてたけど、「飯食うだろ」て付いてこいって仕草をしたので、ほわちゃんは大人しく付いていく。隣に並んだほわちゃん、服の袖にそっと触って「なにこの生地……初めて見た」て言ったら、「俺も知らん。神のやつが勝手に着せてきた。しかし軽いし、見た目に反して動きやすいし、いい」て。で、ほわちゃんが「校服に着替えないの?まさか脱げないとか」て尋ねたら、「いいや。俺はもうここの人間ではないから着ないだけだ。もう死んだし、役に立たないのに居座りはしない」て。はあ?


    客さん集めて朝ごはん……て思ったら、活動時間になってすぐに雲夢江氏大集合で元宗主がいるか確かめにやってきちゃったから、大広間でみんなで食べることになった江澄、へえ、食べても腹の様子が全然変わらない、ただ口の中がうまいだけだって確認しつつ咀嚼中。空腹じゃなくなっていくって感覚がない食事ってなんか味気なくて、あんまり食わないでおこうって思う。
    で、あたりを見渡したら、最初こそわちゃわちゃやってきたけど、普通にご飯食べ出した門弟がいて、うんうんいいぞって江澄。隣の金凌はばくばく食べてて、こっちもうんうんいいぞ、反対側のお兄はゆっくり食べてて、この人、夜にあんなだった割にめちゃくちゃ普通なのなに?て感じで、聶兄はなんかむっつり食べてていつ機嫌悪くしたんだよコイツ、だし、魏無羨はまだ顔が土気色のままぼんやりして藍忘機に世話焼かれてるし、どうしたもんかな、て考える。
    金凌は一晩そばにいたらかなり落ち着いたみたいだし、あと少しケアしたら向こうに戻れるかな、曦臣はよくわからんがこの人も落ち着いてるし代替わりしたけど引き付き雲夢江氏と程よい距離感でお付き合いを、てお願いして帰ってもらって、聶兄にもこれからも雲夢江氏との交流を頼んだってして、魏無羨は、たぶん俺なんかが余計なことしないで藍忘機と返した方がいいだろうな、だからともかくは残した門弟たちと、自分の身含めてこの先どうするか話し合うぞ、て決める江澄。
    で、客人たちにはひとまず退席いただいて、門弟たちと向かい合う江澄。先手を取って、わかってると思うが、お前たちはこれから俺がこの世にいないという想定で動け、て言う。新宗主と門弟たちはやっぱりな、て顔をしてからすっと覚悟を決めた表情をして頷いたので、ゴロつき集団みたいだったのが成長したなあ、て涙がちょちょ切れそうになる江澄。では俺の生前に定めたとおり、いや全部お前たちで決めろわかったな、て話していくんだけど、私邸は新しい宗主一家に明け渡して俺は雲夢のどっか適当なところに隠れ住もうと思うんだが、て話したら血相変えられて、やいのやいの言い合った末に江澄は蓮花塢の象徴?として新しくお家建てて住み続けることになり、外には「前宗主江晩吟は蓮花塢の精霊として住み続けるが運営には一切関らず公の場にも出ません」通告で済ませることになった。普通の引退と変わらんなあ、てなる江澄。てか精霊になったのでよろしくお願いします、て事が済むはずねえよなあ、改めてなんだよそれって先のことを考えてげんなりしてる。でも新宗主が、「我ら一同、血よりも濃い志を受け継ぎ、この雲夢を護り続けていきます」て言ったので、うん、まあ、見守るかあ、て江澄は思った。なんか死んでから涙もろくなった気がする。
    自分が突然死ぬとか、蓮花塢が襲撃されて散り散りになるとか、そういうのを想定した取り決めをずっとしてきたからかすんなり先のことが決まったので満足した江澄は、閉じてた扉を開けつつ、そうは言っても雲深不知処に話しに行ったり、清談会に一回は顔出して自分で釈明した方がいいんだろうか、蘇る系の術とは訳が違うしなあ、て思ってたんだけど、戻ってきた金凌に袖を引っ張られて、「あのさ、叔父上。誰も聞けないみたいだから俺が聞くけど」て。なんだ、てそっちを向いたら、「叔父上は一体誰に殺されたの?俺、そいつのこと殺したいからさ、わかってることあったら教えてよ。なあ、雲夢江氏の皆もそうだろ?」
    この子、なにを言ってんだ?て江澄、金凌が少しだけ口角を上げて、当たり前でしょ?て顔で「殺したい」て言ってんのを目を丸くして見たら、「やっぱり、心あたりあるんだ。誰?それとも何?言ってよ、叔父上」て、金凌。「叔父上が自殺なんてするわけないもんね。仕組んだやつがいるんだ。安心して、うまくやるから」そう言って笑うもんだから、昨晩から朝まで腕に抱いて眠ったこの子が笑うものだから、自分がやらかしたせいでこの子が負った傷は、考えていたよりずっとずっと深いのかもしれない、て思う江澄。いるかもわからない相手に復讐心や憎悪を抱いて……「……ええ、ええ、うまくやりますよ」そう続けて言ったのは主管で、江澄の執務を再建時からずっと支え続けてくれた男だった。「宗主、真実を教えてください。あなたの死の真相を──」いや、俺は、ほんとうに自分で死んだんだよ、恥ずかしいけど、それが事実なんだよ、言わせんなよ、てそんなようなことを江澄が言おうとしたら、「俺が殺した」て、声が。やめろ、言うな、それ以上口を開くなって思っても、「俺が江澄を殺したんだ」て、声の持ち主、つまり魏無羨が落ち窪んだ目を鈍く澱ませてこちらに歩いてきたので、ああ、もうお前はどうしてって、江澄は魏無羨を睨みつけて、それからお前なんでさっさとどうにかしないんだって、もう帰ったらよかったのに、て隣の藍忘機も睨みつけた。


    ふうん、ああそう、お前がね、て金凌、魏無羨に飛びかかって、手をかける前に藍忘機が間に入ろうとしたけど、魏無羨はそれを許さなかったから、そいつの首を両手で鷲掴みして押し倒してぎゅうって締めた。この人のこと、与えられた情報からよく知らないのに悩んだり恨んだりしてきたけど、でも自分の人生に現れて関わっていくうちに、きっと叔父上と同じようにずっと一緒にいたら、叔父上くらい大好きだったんじゃないかな、きっとこれから俺はこの人のこともっと好きになっていくんじゃないかなって、むず痒い予感なんかしてたけど、今は、もう、全部すっ飛んで、殺してやるって思った金凌は、「やめろ!!!」て叔父上に聞いたことないくらいの大声で怒鳴られて後ろに引っ張られた。
    「止めないでよ!!」金凌は叔父上の手を思い切り振り払って、「叔父上殺したって言ってんだぞ!!許せるもんか!!殺す!!殺してやる……」でもそのとき、叔父上がやけにすぐ離れたなって違和感覚えて振り返ったら、叔父上は後ろにすっ転びそうになったのを3人くらいの門弟に受け止められてて、叩かれた手を顔を歪めて抑えてる。「叔父上、ねえ、うそでしょ」金凌はぶるぶる震えてしまって、よたよた叔父上に向かって歩いて最後には膝をついて赤くなったその手にそっと触れて、「叔父上、やだよう、ねえ……」そしたら叔父上は、魏無羨の首を絞めた手をぎゅうぎゅう握って、でも力が弱いから全然痛くなくてむしろ叔父上の手の方が充血して痛そうなんだけど、「ほんとうに誰のせいでもない。俺がすべて選んだ」て言う。俯いて、横髪で表情が見えなくて、「すまない、金凌、俺は……」珍しく謝んないでよ、そんなこと言ったらさあ、て金凌は、全身の震えがおさまらないまま、「やだよ、あいつのせいだって言ってよ、ねえ」て涙ぐんで返したら、それに被さるように「俺のせいだよ、俺のせいだって言ってくれよ江澄、俺のせいだって……」て鬼みたいなしゃがれた声がして、思わず振り返ったら、首を赤くした魏無羨がこっち睨みつけてくる。その顔があまりにも恐ろしくて怯んだ金凌は、「ちがうと言っている」と言った叔父上の後ろに隠されて、ふんわり柔らかな背中に頬をつけている。
    「いいか、俺はな」そう言った叔父上は小さく震えてて、声には嘲りがあって、その嘲りが叔父上自身に向けられてるって気づいた金凌はしがみ付いたけど、叔父上はそのまま、「お前が作った感情に素直になる札だとかなんとかクソくだらんものを貼られた直後に死んだのは確かだが」て言って、なんだよそれ、て金凌は思ったけど、「じゃあ死んでやろうって選んだのは俺だ。お前はただ、何を勘違いしたか俺が曦臣に素直な好意を向けるようにしたかったんだろう。しかし俺が死ぬ方を選んだ。そう、お前はただ俺の背中に呪符を貼り、俺は俺の心臓を刺した、それだけだ。そうだろう、藍忘機」て言うから、金凌はへなへな崩れ落ちて床に尻をつけた。「これが俺のアホみたいな死因だ。笑えるだろ」


    同意を求められた藍湛はうんともすんとも言わなかったし、もちろん笑いもしなかった。魏嬰も門弟もすっかり表情が抜け落ちちゃって、呆然と江澄を見てる。じゃあ死んでやろうって、死んじゃった江澄のこと。江澄は、そんなみんなの様子をきょろきょろ眺めて、どうした?て顔してる。で、はっと笑って、「で、ろくに力もない役立たずの精霊に生まれ変わったってわけだ、はは……おい魏無羨、お前こそ俺を責めるべきだ、せっかくお前の金丹をもらったってのに、俺は、自分の手でまた台無しにしたんだから」
    江澄、おっとこれは失言だなまったく俺はこういうところがほんとうに駄目なんだ……て唇ひん曲げて顎触ってたら、ふぇ、て赤ちゃんが泣き出すときの第一声みたいな声が後ろからして、振り返ったら、ぺたんこ座りした金凌が顔くしゃくしゃにして、ふぇ、ふぃい、て泣いて、「じゃあ、じゃあさ、そのとき、ひどいこと、言われたんだ、死にたくなっちゃうくらいひどいこと、言われたんでしょ」言ってきて、江澄、「正直直前の会話はよく覚えていないが、アイツらが言うと思うか」て答えたあと頭掻いて、そんなことより自分の情緒不安定な言いがかりを思い出して顔に熱がぼうっと集まって、「俺は……俺は、自分が……」て俯いてぼそって言ったら、金凌がとうとう蹲って泣き出して、「なんでえ……」て絞り出すみたいに言うので、ぎょっとした江澄は、さっと膝をついて金凌のこと起こしたんだけど、顔しわっしわの金凌がおえおえして、「死にたかったの、叔父上、死にたかったの……俺を残して、死にたかったの」
    江澄はとっさに金凌を胸に抱き込んで、「ちがう」て言ったけど、「でも、死んじゃった」て返されて、そう死んでしまったんだ、て何も言えなくなってしまって、あたりを見渡したら、門弟が、揃いも揃って悲しみに顔を歪めた門弟がいて、「ちがう……ちがうんだ……」てそれしか言えない江澄。金凌はただ胸に顔を埋めて、「おれが、叔父上のこと、もっとだいじにできたらよかったの……おいていけないって、いっしょにいたいって、いつもおもえるくらい、かわいくて、すなおだったら、よかったの……」
    で、江澄は、戻ってきてからこのかた、やけに金凌が子供っぽく振る舞ったり、門弟が気丈に健気に振る舞ったりする理由にようやく気づいて、つまり、金凌も門弟も、素直な江澄が死ぬ選択に行きつかない、これからも生きていくんだと自然と思えるための希望に自分たちがなれなかったと思って、死なせてしまったって心の底から悲しんで、傷ついてるんだって思い当たって、でも間違いなく金凌もこんな自分に集まってくれた門弟も、みんなみんな江澄が生きるための道筋で光で、このひとたちがいなかったら、江澄は呪符なんかなくたってとっくのとうに絶望してどうにかなっちゃってたのは本当なんだけど、でもあの瞬間、全部放りだして死んだのも事実だから、江澄は金凌を抱き寄せたままどうもできなくなってしまった。
    「やっぱり、俺がさ」へたり込んだ魏無羨が言う、これ以上お前なにを言うんだよ、て江澄は思ったけど、「あのとき、い、いやずっと、お前が嫌なの、傷ついてるの、き、気づかなくて、おれだけ、う、うれしくて、だから、おれ、ごめん、おれのせい……」て。馬鹿野郎、俺だってお前、て声が出ない江澄の代わりに、藍忘機が魏無羨のこと抱き寄せた。江澄はどうしようって、本当にクソッタレな自分は今どうしたらいいんだって、わからない。
    「──晩吟」でもそのとき、お兄がしゃがんで背中に腕を回して肩に手を置いて、「一旦お開きにしようか、ね。私が茶でも淹れるから」なに言ってんだあなた、て江澄がお兄の方を見たら、お兄は優しく微笑んで、江澄はその瞳になにか、悲しみや同情ではない、そっとそばにいるような、ほんのりあたたかなものを見て、「うん」て頷いていた。
    それから、お兄は「さあ、金宗主、お顔をあげなさい。江氏のみなさんも、ほら」とかなんとか言って江澄の肩を抱きつつ距離を取らせて、それに後ろの方からひょっこり聶兄が出てきてお兄に目配せしたと見るになんと金凌も門弟も魏無羨も藍忘機もみんな連れてっちゃって、あれ?てなる江澄。残された江澄の手を、お兄は指先だけ掬ってすぐ離れるくらいの柔さで握って、「どこか、静かなところに行こうか。また私邸に入ってもいいかい」て尋ねてくるから、江澄はまた「うん」て頷いて、お兄に連れられるまま、回廊をよたよた歩いて行った。


    「きみたち全員バカじゃないの」てある広間にやってきたほわちゃんは吐き捨てたけど、「バカなのは私もだけどさ……」て口角を片方だけ歪に上げながら呟いて俯いてる。「どうして置いていったのって、死なせてごめんって、今更あの子を責めてなんになるのさ」「せ、責めてなんか……っ」て泣き止まない金凌が引き攣った声で返したら、ほわちゃんは「責めてんだよ、きみたちの言葉も表情も全部」てぴしゃり。
    どよ〜んてした空気に、ほわちゃんはウッやだやだ帰りたいよ〜てなったけど、これを江澄に背負わせるわけにはいかんと、心の中で自分に往復ビンタして顔を上げてる。見渡して、悲しそうな顔を見て、すう、はあ、て呼吸を落ち着かせてから、「これからの話をしよう」て。「江兄は死んだけど、生まれ変わって帰ってきた。でもあり方は変わってたよね。そんな彼と、これからどうしていこうか。蓮花塢の運営とか、江兄の立場の話じゃないよ。彼と私たちがどう関係を築いていくか、これからの話をしよう。そのためにまず、自分の気持ちを整理しないとね。今は、その時間にしよう。整理できたら、改めて江兄と話そう。いいね」
    金凌は鼻をぐじぐじ袖で擦ってうん、て頷いて、門弟は発破をかけるために自分のほっぺたをバチンと叩き始めてあ〜江兄の弟子だなぁ、て思って、魏嬰は色の悪い顔で膝を抱えて、でも呻いたり喚いたりは止んだから、まあ気張りなよ、て思いつつ、ほわちゃんも、あんな江兄とこれからどうしようって、友人を永遠に失いかけた途方もない後悔に蹲りたくなりながら、先のことを考えてる。話を聞くに、たぶん、自分たちよりずっとずっと永くこの世にいることになってしまった、これからも置いていかれる側になり続ける江兄との、これからのこと。


    江澄、私邸の、寝室前の濡れ縁でぽや、てしてたらお兄が言ってたとおりお茶を入れてくれたから、とりあえず啜ってる。うま……て思ってたら、いい茶葉だね、てお兄が言って、ふうん、家僕が勝手に選んでるから知らなかったな、いい茶葉のお茶出してくれてたんだ、て考えたりして、でも、さっきのみんなの顔が頭から全然離れなくて、またぼうってしてる。ぼうってするの、前は人前じゃ絶対しなかったんだけど、お兄がぼうっとしてるときすることないからぼうっとしてたら、いつの間にかお兄が普通のときもぼうっとするようになってて、慣れって怖いな、て江澄。
    で、そんなこと言っても、自分の自死が思ってたよりずっとずっといけないことだったって思い知らされた江澄は、自分があまりにも人を大事にするのが下手すぎるのに怖くなって、またなんか、こう、丸っこくなって目を閉じたい気分になってきて、うわやばいやばいって、頬を叩きかけたんだけど、お兄にさっと手首を掴まれて、できなかった。お兄、それから手のひらをきゅっと握ってきて、その手が分厚くて暖かくて、江澄はまたぽかんとした。お兄はそれから、江澄の強張った手の甲を何やら真剣に撫で始めてこそばゆくて、「くすぐったい、なんなんだっ」て振り払ったら、「すまない、良い手だと思って」てお兄。男の手に良いも悪いも考えたことなかったから、は?てなった江澄だけど、そのときには、自分の頬を打つのは忘れてた。
    「きみは、彼らのことをとても大事にしてきたんだね」て、お茶がなくなった頃に思ってたことと真逆のことをお兄が言って、お前になにがわかる、大事にできなかったからこんなことになってるんだ、て息を詰めたら、「私がわかるんだから、彼らはもっともっとわかるんだろうな、自分がきみにどれだけ大切にされているのか」てお兄。「私はきみと彼らをよく見ていたよ……私はきみに恋をしていて、きみを大切にしたかったし、きみに大切にされてみたかったから、羨ましくて」昨夜のことが蒸し返って、江澄は気まずさに下唇を噛んだんだけど、自分の人との関わり方をそんなふうに言う奴なんて今までいなかったから、なんか変な気分になってきて、少なくとも、丸っこくなって目を閉じたい気持ちはどっかにいって、なんやコイツみたいなムズムズがいっぱいになって、体を動かしたくなった。
    「俺はあなたにそれなりの敬意を持って接していたつもりだったが」て湯呑みを手の中でいじいじしながら言ったら、お兄は「うん、伝わっていたよ。ふふ、きみがあんなだった私にも敬意を払ってくれたから、きみのなかなかに手厳しい言葉だって素直に受け取れて、今はこうして働けている……感謝してもしきれない」藍先生にちょっとだけでも甥と会話してくれないかって頼まれてから始めたことだったけど、関わるからにはって誠意は持っていたから、それがちゃんと功を奏したことが嬉しくて、そうか、て江澄は頷いた。
    昼飯の時間も来るしそろそろ戻るか、て江澄、やっぱり別れたみんなの顔は頭から離れなくて、なんて話せばいいんだろうってわからない。でも、確かなのは、そりゃあ死んでしまったけど、お兄の目から見てわかるくらいには自分はみんなのことを大切にしていて、ただちょっと、頭を抱えたくなったり、消えてしまいたいと思うときはあるってこと。人間だったもの。


    別れたみんなのもとへ向かう江澄の背中を見てるお兄は、どんなに悩んでいてもああやって進んでいく江澄が眩しくて、でも彼が死んだ事実は変わらないから、胸の痛みを堪えて歩いてる。金凌や雲夢江氏門弟みたいに自分が過酷なこの世界で彼が生き続ける理由になれる、なんて自惚れは全然なかったんだけど、やっぱりね。
    これからどうしよう、てお兄、江澄の隣に居座るためにめちゃくちゃ考えてる。どうにか彼の心の隙間に入り込みたい。大変な状況に漬け込んで卑怯?いやいや、こういうときにこそ……やっぱり卑怯かな。
    江澄が人や物事に大真面目に目を凝らして、大真面目に怒ったりたまに笑ったり泣いたりするの、どうしてそう心を面に開けていられるのって、内側に置いておいて波や風にあんまりあたりたくない派のお兄は不思議だったけど、江澄はたぶん大真面目に歯を食いしばってただけだった。そうして進み続ける彼の姿しかお兄もみんなも知らなかったから、彼が歯を食いしばって押さえ込んだ感情に気づけなくて、突然現れたそれに驚いている。
    彼が押さえ込んでいて、そしてお札で抑え込めなくなった感情には、お兄にも覚えがある。覚えがあるのに、他者のそれは簡単には見えなくて、手を掴む前に彼はこの世から落ちていった。で、一周回るようにまた空から落ちてきたわけだけど(めちゃくちゃ見たかった、葬式頑張って行ってたらよかった、現実を認める力が脆弱なせいで……)、どう彼を大切にしようかなって。自分が思うような関係になれなくても、卑怯になっても、これから江澄が精霊としての永い生のひとときをよいものにするのは自分でありたい。彼のおかげで表に開いてしまったこの心を一番に乱すのは彼がいい。そのために、覚えのある感情はきっと役に立つと思う。その感情を身に纏わせながら生きるすべが。
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    PROGRESS書き直し中の曦澄「俺の居候がこんなに可愛い訳がない」の途中まで(元々の3話目あたりまで)〜だいぶ変わってるし多分改題する✌️
    【曦澄】俺の居候がこんなに可愛い訳がない(仮)① 江晩吟が寒室の扉を開け放った先にいたのは、真っ白なふわふわだった。そのふわふわは、薄暗くひんやりとした居間の真ん中で、座布団の上に丸まってくんくんと鼻をならしていた。
     江晩吟は、ここが姑蘇藍氏宗主の居住であることを忘れて部屋に飛び込んだ。それほど、そのふわふわ──小さな犬が、もし涙を流せたのなら川を作れるくらいに、哀しげに鳴いていたから。そしてその犬の前に躓いて自分ができる精いっぱいのやさしさで抱き上げると、胸に収めた。

    「大丈夫」

     江晩吟は、犬の被毛に顔を埋めてそう囁いた。またそう間を置かず、もう一度同じ言葉を囁いた。両親の温もりが恋しいと泣く赤子を、夜通し腕に抱いていたときのように。
     腕の中の犬はしばらく震えながら、きゅうきゅうと鳴いていた。江晩吟はその小さな鳴き声を聞くたびに、犬の背を何度も何度も撫でてやった。すっかり冷えてしまっている体が温まるように、手のひらの熱を送り込むように軽く揉んでやった。すると、犬の震えはだんだんと治った。
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