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    ボツにした部分の供養です。特になにも起こりません。

    「面倒な男【ルロー】」ボツ文章 カヤが出産した。分娩中は世界ではじめてと言ってよいほど先進的な技術が導入されたらしいが、ルフィに詳しいことはわからない。ただ、とにかく新しい仲間が麦わらの一味に加わった。赤ん坊の名前は、はじめて我が子を腕に抱いたカヤがその瞬間に付け、ウソップもそれがよいと真っ先に頷いたという。よい名前だ、とルフィも思う。

    「トラ男はローだな」

     と、ルフィはチーズケーキを食べながら言った。目の前のローは、海のいきものパフェにスプーンを突っ込んだまま目を丸くしている。ルフィは怪訝にその顔を覗き込んだが、ローはそのままクリームをぱくりと食べて言う。

    「お前……おれの名前、知ってたのか」

    「知ってるに決まってんだろ!」

     シッケーな、とルフィはフォークの先をピッとローに向けたが、彼は、まあ短いしな、と勝手に納得したような顔で白くまクッキーの耳を齧った。確かに、ルフィは人やものの名前に疎いし、覚える気もあまりないのだが、恋人の名前を覚えない男だと思われるのは心外だった。

    「トラファルガー・ローだろ」

    「おお……」

     ローは大袈裟に仰け反って、驚くふりをした。

    「トラファルガー・D・ワーテル・ロー」

    「おお!」

     続けて拍手までしてくる。ルフィはチーズケーキを丸呑みした。

    「ばかにしてんだろっ」

    「いいや。はじめて彼氏の口から自分の名前を聞いて感動してんだぜ。それもいたく、な」

     ローはスプーンのコーヒーゼリーを啜った。ちゅる、とゼリーが彼の唇と歯と舌を滑る音がする。ルフィの腰がぞっとした。なぜ? ルフィはそれをごまかすために続けてケーキを食べようとしたが、残念なことに丸呑みしたチーズケーキが最後だった。

    「しかし、なんで急におれの名前なんか」

     なんでって、とルフィは皿に残ったくずを睨んだ。それを口に運びながら、

    「トラ男がローだと……」

    「うん?」

    「うれしいから」

     とは言ってみたが、そのとおりだとも、まだ別にあるともルフィは思った。

    「なんだそりゃ」

     ふっと呆れたような笑みを唇の端にほんのり浮かべたローは、あざらしのチョコレートを食べた。今日、ローはやけにゆっくり食べる。ルフィははやくこの店を出て、彼を連れてどこかに走り出したかった。

    「だってよう、トラ男がローだから」

    「そうだな。おれは、おれがおれだと知ったときからずっとそうだ」

    「トラ男の父ちゃんと母ちゃんが付けたのか?」

    「さあ、聞いたことねえな。お前は?」

    「え?」

    「お前はなんで、お前がルフィなのか……モンキー・D・ルフィなのか知ってんのか」

    「知らねえ。なんでだ」

    「おれが知るか」

     ゆっくりパフェを食べても、限りがあるからいつかは食べ終わる。ローは最後のひとくちを飲み込んだあと、ひどく満足げな顔をした。そうとう気に入ったらしい。
     ルフィは、そんな彼の顔つきを久々に見たような気がして、どうせならその表情を作るのが、海のいきものパフェではなくて、自分が彼にもたらす何かだったらよかったのに、と思った。しかし、そうできる何かは今のところ、うまく思いつかない。
     店の外に出るとあたりは一面吹雪である。年がら年中一日中、そういう気候の小さな島だった。ローは生地の厚い、黒いロングコートの襟に顔を埋めてぶるりと震えた。ルフィの剥き出しの膝小僧も同じように震える。ナミが下ろしてくれた青いジャンパーは、すぐに雪化粧姿になった。

    「おれ、トラ男がローって名前なの、好きだし、うれしいけど」

     と、ルフィは言った。人ひとり分空けた横に歩くローがこちらを見た気配がするが、吹雪く雪が彼を隠すカーテンのようになって、うまく見えない。

    「もし別の名前でも、そうだった」

     ローは、なんだそりゃ、と言った。おそらく。

    「トラ男はトラ男だもんな。でもなあ、お前の名前って、すごくお前にぴったりで、やっぱり一番好きだ」

     そんなことを話している間に、近隣の島へ出港するフェリーへ辿り着いた。世界政府が新しくなってから統治の方法も変わり、このような船は増え続けている。ブルックは、数年のうちに海軍や海賊の船よりもずっと多く民間の船が海に出るようになって、そうなれば、この一味の航海は新しい法に縛られることになるだろう、と言っていた。昔よりも多くの人々が、自由に海へ出られるようになるための法に。
     船内に入り、全身にまとわりつく雪を落とすより前にルフィはローの背中に抱きついた。ふたりと同じように船内に乗り込んだ人々が、口々に海賊王、外科医、ほんとだったんだあのカップル、と騒ぎ立てている。
     ローは煩わしそうに身を振るった。

    「ばか。はやくストーブに当たりてェ」

     そうローが言うので、ルフィはロビーの真ん中に鎮座する大きなストーブの前で、彼のためのクッションになった。ルフィ自身も柔らかなソファに全身を沈めながら、ローを膝に抱えている。彼の腹に回した手の甲を、ローにつねられる。自分だけでソファを使いたかったらしい。
     ふたりと同じようにストーブで温まる客が、外科医に席を譲ろうか小声で話し合っている。しかしルフィに彼を離す意思はないし、しばらく経ってローも、すっかりルフィに身を預けるようになった。おそろいのウールのセーターが、どんどん熱を蓄えている。ルフィがローの首筋に唇を当てると、彼はくっと笑った。

    「お前って」

     そう言うローにルフィは、うん、と頷きを返す代わりに軽く肌を吸った。眠い。

    「やっぱりよくわからないな。おれと一体何がしたいんだ……」

     なんでも、とルフィは思った。

    「まあ、おれもよくわからないんだが……そもそも、お前と恋人同士ってだけで何よりも変なのに」

     そうかな、とルフィは思った。ルフィにとって、ウソップとカヤが家族になるのが当然のありかたに思えるように、ローに恋する心もそうだった。

    「……なんでもいいか。いまさらだ」

     ローは勝手に決着をつけて眠りに落ちた。そうだとルフィも思う。一方で、ローを好きだと恋う心はしっくりくるのに、ローに対してどう振る舞えばいいのか、てんでわからないときがたくさんある。なんでもいい、なんて、今のルフィには口が裂けても言えそうになかった。なんでもいいはずなのに。
     フェリーはハートの海賊団が潜水艇を寄せる港に着いた。降りて早々、彼のクルーがキャプテン、とうれしそうに声を上げて駆け寄ってくる。ローがバックパックからお土産のケーキセットを取り出すと、宝箱をもらったようにはしゃいで潜水艇へ駆け戻っていった。

    「トラ男」

     ルフィはローの袖を引っ張った。今日はもうお別れの時間だった。ハートの海賊団はいま、研究所を兼ねた病院をつくるに一番相応しい場所を探して世界中を巡っている。これから、北の海にある候補地のひとつを見に行くらしい。

    「好きだ」

     引き寄せたローは簡単に腕の中に収まって、ルフィが頬と頬を擦り合わせるのを大人しく受け入れた。

    「おれも」

     そしてそう返したローはルフィのジャンパーをするりと脱がし、次の瞬間にはこの前に渡したシャツがルフィの腕にかかっていた。

    「おまけ、しておいたぜ」

     おまけというのはうさぎのアップリケで、くまはいやだと言ってみたら代わりに当てがわれた動物シリーズのひとつだった。そもそもアップリケ自体いらないのだが、シャチからローが楽しそうに付けていると聞いてからは、ルフィは動物アップリケをなかなかに良いものだと思っている。
     ローは去った。港にひとり残されたルフィは街に戻って、粉ミルクの買い出しをしているナミとサンジを拾いにいかなければならなかった。
     見つけた頃には、ふたりの買い物は終わっていた。

    「ちょっとアンタ、ジャンパーどうしたのよ」

    「トラ男にあげた」

    「あげたって、もう。次に行く島も冬島なのよ。あれが一番あったかいのに……次、トラ男くんに貸すならシャツとかセーターにしなさい」

    「うん」

    「仕方ないや、ナミさん。おれのを貸すよ……おい、おのぼせ船長、汚したら次の洗濯大会はお前が洗濯板係だからな」

    「うん……」

     だめだこりゃ、とナミとサンジが肩を竦める横で、ルフィはゲッコー諸島へ向かう小型船の柵に寄りかかりながら、ローに返されたシャツに頬を埋めていた。長くローの部屋に置いてあったのだろう、彼の匂いがするシャツに。
     別にジャンパーなんて取っていかなくても、ルフィは昼でも夜でも一日中、ローのことを抱きしめてあげたかった。
     その夜は満月で、色がローの瞳に似ていた。ルフィはカヤとウソップの屋敷の庭のベンチで、彼らの赤ん坊にミルクをやっていた。食欲旺盛なところは父に似たらしい。

    「おいルフィ。てめえ腑抜けてんじゃねえぞ。手元見ろ」

     ぼんやり空を見上げるルフィに声をかけてきたのは、トレーニングを終えたらしいゾロだった。はっと抱いた赤子を見ると、ミルクの出ない乳首を吸い続けて機嫌を悪くする手前だった。

    「あぶねえな。そんなんなら世話を引き受けるな、アホ」

     そういうゾロの世話は手慣れたもので、ひょいと赤ん坊を抱き上げるとげっぷをさせた。機嫌は治ったらしく、落ち着いて彼の腕に収まっている。赤ん坊の世話は、故郷の村や、そしてなぜか航海中に経験があるという。ルフィは思えば、どこへ行っても世話を焼かれてばかりだった。

    「今日はお前、ジンベエと寝るんだっけか? よしよし、元気だなこりゃ……ルフィ、お前もさっさとシコって寝ろ。つったく、いつまで経ってもそんなんで……」

     自分がどうしようもないぐずったれになっている自覚を、ルフィ自身も持っていた。ずっとローについて考えている。
     あのローが、自分のことを好いていると思うとたまらない気持ちになる。うれしいとか幸せだとか、そして同じくらい不安だった。ローはルフィのことを考えているだろうか。相変わらず別れ際に服を持っていくが、あの部屋でルフィを想いながら自慰をしているだろうか。元気だろうか。なにか大きなことに巻き込まれていやしないだろうか。不安だ。ルフィが不安に思ったって、ローがなにを考えるかは彼の自由だし、物事に飛び込むか否かもそうだと、わかってはいるのだが。
     サニー号に戻ると、船番のフランキーが整備をしていた。船は人が乗らないと、よりはやく歳を取る。もうすぐにでも大海原に連れ出してやりたいと、ルフィは思っている。
     甲板の柵に頬杖をついて月を眺めていると、頬に冷たいものが押し当てられた。コーラの瓶だ。

    「なんだ、浮かない顔しやがって」

     そう言ってコーラを差し出したのはやはりフランキーである。ルフィは瓶を受け取って、飲み口に唇をつけた。フランキーも横にやってきて、ごくごく喉を鳴らして飲んでいる。

    「さっさと話しちまえよ」

     と、すぐにコーラを飲み終わったフランキーが言った。なにを、とルフィは思ったが、ローについて以外ないだろう。今夜はぼうっと月を眺めて過ごそうと考えていたが、船首に行かず甲板にいたのは、ローについてフランキーに聞いて欲しかったからかもしれない。彼はそれを汲んでコーラをくれたのだ。

    「トラ男が」

     と、ルフィは切り出したが、ちがうな、と思って首を振った。

    「いや……おれが、トラ男に会いたくて」

    「今日、会ったんじゃねえのか」

    「会ったよ。でももう会いてえ」

    「別れたくなかったんだな」

     そう、そうなんだ、とルフィは頷いた。声がコーラ瓶にくぐもっている。

    「うん。トラ男、最近、前みたいに別れ際に長い立ち話しなくなってよ。すぐ行っちまうんだ。次の約束をする暇も……まだ帰るなって、ごねる暇もねえ。すぐ行っちまう」

    「そりゃさみしいな」

    「うん」
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    PROGRESS書き直し中の曦澄「俺の居候がこんなに可愛い訳がない」の途中まで(元々の3話目あたりまで)〜だいぶ変わってるし多分改題する✌️
    【曦澄】俺の居候がこんなに可愛い訳がない(仮)① 江晩吟が寒室の扉を開け放った先にいたのは、真っ白なふわふわだった。そのふわふわは、薄暗くひんやりとした居間の真ん中で、座布団の上に丸まってくんくんと鼻をならしていた。
     江晩吟は、ここが姑蘇藍氏宗主の居住であることを忘れて部屋に飛び込んだ。それほど、そのふわふわ──小さな犬が、もし涙を流せたのなら川を作れるくらいに、哀しげに鳴いていたから。そしてその犬の前に躓いて自分ができる精いっぱいのやさしさで抱き上げると、胸に収めた。

    「大丈夫」

     江晩吟は、犬の被毛に顔を埋めてそう囁いた。またそう間を置かず、もう一度同じ言葉を囁いた。両親の温もりが恋しいと泣く赤子を、夜通し腕に抱いていたときのように。
     腕の中の犬はしばらく震えながら、きゅうきゅうと鳴いていた。江晩吟はその小さな鳴き声を聞くたびに、犬の背を何度も何度も撫でてやった。すっかり冷えてしまっている体が温まるように、手のひらの熱を送り込むように軽く揉んでやった。すると、犬の震えはだんだんと治った。
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