しっとりとした肌の感触とぬくぬくとした抱き心地のいい体。思わず真面目に考えた。大柄な部類に成長したのは、恋人を腕に閉じ込めるためだったんだな、と。
寝起きでぼやけた視界に恋人の旋毛が見えて、そこに唇を押し当てる。
「ん……」
もぞり、と腕の中の恋人が小さく身じろぎした。お互い職業柄なのか、どっぷりと眠りに浸かっているようで小さな変化には敏感だ。とはいえ、今は安心できる場所にいるとわかっているからなのか、恋人もそれ以上の覚醒はないようだった。
恋人であるマーヴェリックが住むモハーヴェにやってきたのは、クリスマスも過ぎた年の瀬も差し迫った頃。もしかしたら年内に会いに行くのは無理かもしれない。そんな考えが頭に浮かびつつも、なにがなんでも年内にマーヴェリックに会いたい気持ちで、ブロンコをかっ飛ばして、ようやっとマーヴェリックが住むハンガーに着いたのは、十二月三十日の深夜に近い時間帯。寝ずに待ってくれていたマーヴェリックを抱きしめて「ただいま」のキスをして、そこから先は記憶にない。
その次の記憶はキラキラ眩しい笑顔のマーヴェリックが『寝坊助はやっとお目覚めか?』と、俺の鼻を抓んだ十二月三十一日のお昼前。天使も裸足で逃げ出しそうなくらいの笑顔に、俺はしばらく見入っていた。
『どうした?僕の顔になにかついてる?』
『いや、そうじゃなくて……』
『なんだ?』
『結婚しよう』
『……君なぁ』
『ダメ?』
そう言ってキスをねだったら、マーヴェリックが笑いながら『先にシャワーを浴びてこい』と俺を引っ張り起こした。くすくす笑いながら背中を向けたマーヴェリックに溜息一つ。俺は言いつけを守るいい子だから、ちゃんとシャワーを浴びて歯も磨いて髭も整えてシャワールームを後にしたのだ。
それから小さなキッチンで俺のために食事の準備をしてくれているマーヴェリックの後を通って、もうすでに慣れ親しんだソファセットを見て少し驚いた。そこには昼間からシャンパンと簡単ではあるが明らかにいつもと違う様子の食事が用意されていた。
『もう少しで肉も焼き上がるから、いい子で待ってろ』
『うん……』
確かに今日は年内最後の日で、年越しパーティーをする人たちもたくさんいるが、マーヴェリックもそういうタイプだったんだと内心驚く。去年は会えなかったから知らなかったし、そういうことをしているとも言っていなかった。