Twinkle,twinkle ちょっと冷えるかな、と上着の上から羽織っていた毛布をしっかりと衢は握った。野戦病院の周辺は明かりのひとつもついていない。新月なのか月も見当たらなかったが、それでも一面に広がる星空でほのかに照らされていた。
衢は出てきた扉のすぐ隣に土が付くのも気にせず座り込む。なんとなく寝付けなくて、風にあたりに起きてきたのだった。
ぼぉっと空を見上げる。強い明かりがないおかげで星がはっきりと輝いていた。
「衢くん」
「寂雷さん」
ここにいましたか、と少し慌てた様子の寂雷が衢の隣へとやってきた。
「探しましたよ……体、つらくないですか」
するり、と腰の辺りを撫でられる。夜風にあたって冷たくなった体に、寂雷の体温が心地いい。
「大丈夫です。その、寂雷さんですし」
「では……何をしていたんですか?」
「星を見てました」
「星?」
はいと返事をして空を見上げた衢につられて、寂雷も顔を上げたようだった。「これは……」と吐息がもれている。
「すごいね。明かりがないからか」
「はい。東都とはやっぱり見える星座も違くて。なんていうか、遠いところまで来たんだなぁって」
「…………後悔していますか」
その言葉に、衢は寂雷のほうを見る。衢よりも身長も何もかも大きいのに、なぜだか迷子の子どもを見ているようだった。
「いえ! 僕は寂雷さんといられたら、それでいいんです」
寂雷の目が大きく見開く。衢の素直な気持ちだった。そうしてどちらからともなく、くすくすと静かな笑い声がもれた。
「そろそろ戻りましょうか」
寂雷が立ち上がるのに合わせて衢もゆっくりと立った。土ぼこりを払って寂雷のあとに続く。火照った体が夜風で冷めたおかげが睡魔がやってきたようで、大きなあくびがひとつ出た。
斜め前を歩く寂雷がこちらを振り向く。
「衢くん……ありがとう」
微笑む寂雷に、衢も笑顔で返したのだった。