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    noahz_arke0729

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    noahz_arke0729

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    書いたはいいけど支部に載せるのを保留にしてたやつ供養目的

    シティーの幽霊探偵「この家にいる亡霊達よ、私に聞かせておくれ!」

    買い物を終え、シティーの広場を通りがかったミオ、セナ、ユーニの耳に子供の元気な声が入ってきた。
    広場の方へ視線を向けると、数人の子供達が何やら芝居がかった口調で会話をしていた。全員役に染まりきった表情と動きで、何かの催しでもしているのかと3人の足が止まる。

    「なんだ、あれ?」
    「よくわかんないけど、なんか楽しそう!」
    「お嬢さん達、あの遊びが気になるのかい?」

    ユーニとセナが不思議そうに広場を見ていると、突然隣から声が聞こえてビクッとユーニの羽が上へと持ち上がる。
    声の主はモニカよりも少し年上といったふうな男性で、「驚かせてごめんね」と穏やかに微笑んでいた。

    「あれは『ごっこ遊び』と言うものだね。役になりきって、物語を身振り手振りで表現してるんだよ」
    「ふぅん。アイツらは何の『役』になってるんだ?」
    「今シティーで流行ってる絵本の登場人物だね」
    「絵本?」

    ミオの疑問に男性は大きく頷く。
    今シティーの子供達の中で流行している絵本のタイトルは『幽霊探偵ファクト』。
    主人公のファクトは左右の瞳の色が異なる特殊な風貌をしている。その右目には見えざるものを見る能力が備わっていて、目に映る幽霊から断片的な情報を集めて犯人を推理する。
    というのが、大まかなストーリーらしい。

    「魔法っぽい能力がある主人公なんて、子供達にとっては憧れの的なんだろうね」

    詳しい話は子供たちの方がよく知ってるから、気になるなら聞くといいよ。と男性はその場を去っていった。
    残ったミオ達は、楽しげに役を演じる子供達が微笑ましくて暫くその劇を鑑賞していたのだが、鑑賞していたミオ達よりも先に子供たちの方が飽きてしまったらしく、いつの間にかただのお喋りに変わってしまっていた。

    「ファクト、かっこいいよね!」
    「ね〜!『私には、強い味方がいるんですよ。…貴方には見えていないでしょうけどね』って!かっこいい!!」

    もう劇は終わりかと、ミオ達もその場を去ろうと足を動かすが、1人の少女の言葉によってその足は直ぐに止まる。

    「私、本物のファクト見たよ!」

    自慢げな少女の目に偽りの色は無い。
    けれど、少女の友人達は信じていないようだった。

    「え〜?嘘だぁ〜 御伽噺だよ?」
    「嘘じゃないよ!この前、夜中に目が覚めちゃって窓の外見たら広場にいたもん!目が合ってね、『しー』ってしたの!」

    そう言って少女は口元に人差し指を立てる。
    当時の記憶を興奮気味に話しているが、友人には響いていない。

    「夢でも見たんだよ。だってシティーにそんな瞳の人なんていないし」
    「あ、信じてない!ホントに見たもん!綺麗な『おっどあい』でね…」
    「ハイハイ。あ、そういえばお母さんがお菓子用意してくれてるの!行こうよ!」

    あからさまに話題を逸らして広場の階段を駆け上がる友人を膨れっ面で見ている少女は少し寂しそうで、ユーニが思わず声をかける。

    「なぁ、ホントにファクトって奴を見たのか?」
    「お姉ちゃん、私の話信じてくれるの!?」
    「や、まぁ…ちょっと気にはなるな」

    そう答えれば、少女の目がキラキラと輝いて少し早い口調で当時の事を語り始める。



    「あの時はね、夜に起きちゃって何となくベランダに出たの」

    少女の家のベランダは広場を一望出来る位置にあり、お気に入りの場所らしい。
    そこへ出ると、この時間帯には誰もいないはずの広場から記念堂を見ている人がいたのだ。
    長い髪を揺らめかせ、少し覚束無い足取りで記念堂へ向かうその人の雰囲気が浮世離れしていて、少女は目が離せなかった。
    すると、少女の視線に気がついたのかその人が振り返り、目が合う。

    端正で、生気のない顔だった。
    喜びも、悲しみも感じない。そもそも人なのか疑わしい程に感情が欠落したその顔は少女には精巧な人形のように見えた。
    だが、少女を見たその人形はほんの少しだけ目を柔らかく細めて笑ったのだ。
    人差し指を口に当て、こてんと首を傾げるその姿は何を伝えたかったのだろうか。見つかった事に驚いて、その後直ぐに部屋へ逃げ込んでしまった少女にはそれを考える余裕は無かった。



    「ファクトはね、凄く綺麗な髪の毛で…お目目は赤く光ってた!きっと幽霊とお話してたのね!」

    あの時何言いたかったのかな…と腕を組む少女。
    話を聞いた限りはホラー要素しかない、所謂『怪談話』にしか聞こえない。
    長い髪で、片目は赤…
    そう言えば、とセナが一時期髪が長かったミオを見るが、ミオは首を横に振って否定する。
    そもそも切ったのはアグヌス城滞在中である為、シティーにはボブヘアの状態でしか訪れていない。

    「ね、もっと詳しく教えてくれるかな?髪の毛の色は?女の人、だよね?」
    「んっとね────」
    「あー!まだここにいたの!?ヨウちゃん、全然来ないから迎えに来ちゃったよ!」

    セナの質問に答えようとした少女の声は、いつまでも来ない少女を心配した友人の声にかき消される。
    これ以上少女を引き止めるのは友達に悪いと思い、ミオは少女に「ごめんね、友達の所へ行ってあげて」と言って少女を解放した。
    少女がいなくなり、残ったのはミオ達3人のみ。

    「何と言うか、ちょっと怖い話だったね…」
    「エホンってもっと楽しい話だろ?現実に出てきたらあんな怖くなるもんか?」
    「というか、現実に出るのもおかしいけどね…」
    「でも何か面白くね?ちょっとこの話タイオンに話してみるかな。ぜってぇビビるぞアイツ」
    「私もランツに話してみようかな?」

    相方がこの話を聞いてどんなリアクションをとるのかが気になったユーニは「夜中にアイツらに教えようぜ!」と提案をした。セナもなかなか乗り気なようで、特に止める理由もないミオも肯定の意で頷いた。





    「つーわけで、これがアタシらが聞いた怖い話」

    どう?どう?と感想を求めるユーニに、ランツが楽しげに笑う。

    「これ、俺らよりも初めて聞いたユーニの方がビビってたんじゃね?」
    「同感だな。大体、子供の話だろう?その少女は夢でも見ていたんじゃないか?」
    「タイオン、それあの子の友達も同じこと言ってたよ?」
    「誰が子供レベルだ!!」
    「いやセナはなんも言ってねぇだろ!」

    なかなか楽しそうにしている4人だが、ノアはどう思っているのだろう。
    気になったミオはノアの元へと寄り、「どう思う?」と尋ねる。
    ノアは少しの間何かを考えているようだったが、直ぐに「怖いかも」とありきたりな感想を呟いた。
    思ったより淡白な回答だったので、もっと他に無いのかと言おうとすると、それよりも前にランツが楽しそうにある提案をする。

    「そのファクトって奴、俺らで捕まえようぜ!」
    「捕まえるって…」
    「でも女の子が会いたいって言ってるんだろ?丁度良いじゃねぇか。なぁ、ノア?」
    「なんで俺に聞くんだ」
    「どうせしばらくやる事ねぇし、どうよ?」
    「…まぁ、反対はしないけど」

    実質リーダー的存在のノアの承諾を受けたことで、「ファクト捕縛作戦(ランツ提案)」が実行された。



    とはいえ、あまりにも情報が少ない。
    『幽霊探偵ファクト』というタイトルを知っている人はたくさんいたのだが、実際にファクトを見たという人は少女以外いなかったのだ。
    しまいにはモニカに「絵本の登場人物を探していると聞いたが…大丈夫か?」と心配までされてしまった。
    こうなればもう聞き込みは諦めて待ち伏せするしかない。
    深夜の広場の茂みや階段の上から張り込みをしてみたが、人影はまったく見当たらない。
    始めは渋々付き合っていたタイオンもだんだん火がついたようでその頭脳をフルに使い捜索をしたが、ファクトを見ることは叶わなかった。


    「くっそ、まじで見つからね〜」

    夕方のミチバ食堂でランツがチャノポンを頬張りながら悔しそうに零す。
    「じゃあやめるか?」とノアが聞けば「諦めたら負けた気がして悔しい」と子供じみた返答が送られる。
    だが、ここまでやって何の成果も無いのはランツでなくても流石に堪える。どうしたものかと全員が机に視線を落とすと、ミオの後ろから鈴のような可愛らしい声が飛んできた。

    「あれ、この前のお姉ちゃんたち!」
    「おっ、ヨウじゃねぇか!奇遇だな」

    誰だ?と首を捻る男子達に、セナが「ファクトの話を教えてくれた子」とこっそり説明をする。

    「ヨウちゃん、どうしてここに?」
    「おつかいの帰り!お姉ちゃんこそ、ここで何し──」

    ヨウの言葉が不自然に途切れた。
    怪訝に思ったミオがヨウの方へ体を向けると、ヨウの目は1点を見つめていて、体は硬直していた。
    何をそんなに驚いているのか。心配になったミオが声をかけようとすると、それより先に歓喜に満ちたヨウの声が響き渡る。

    「ファクトだ!!!」

    少女が指さした先には、驚いて目を丸くするノアがいた。
    驚いたのはノアだけでは無い。散々探していたファクトがまさかノアだったとは思いもよらず、全員の目がノアへ集中する。

    「あの、ヨウ?俺は別に両目の色が違うわけじゃないけど…」

    一足先に我を取り戻したノアがヨウに言う。ヨウもそれに気づいたようでバツが悪そうにもじもじと体をくねらせる。

    「う…でもお顔はそっくり、な気がしたの。お人形さんみたいな綺麗なお顔」
    「良かったなノア。綺麗なお顔だってよ」
    「………」
    「俺が悪かったからその目止めてくれ」
    「なぁ、ヨウ。君はいつファクトを見たんだ?」

    ノアの質問にヨウが答える。
    それに対して「そうか」とノアがつぶやく。不安そうなヨウに気づいたノアは不安を和らげようとやんわり微笑む。

    「教えてくれてありがとう。何となくだけど…君はまたファクトに会えると思うよ」
    「!!ほ、本当?」
    「ああ」

    「ありがとう、お兄ちゃん!」と笑顔で手を振り帰路についたヨウを見送った後、ランツがノアへと身を乗り出す。
    もちろん、先程ノアがヨウに言った言葉について聞くつもりだった。
    だが、ノアが「宿舎に戻ってから」と言ったため、その場では何も聞かずに宿舎へと戻った。

    「さぁノア。説明あるよな?」
    「う〜ん、なんて言ったらいいのか」
    「まだるっこしいな。ちゃっちゃと言えよ、ちゃっちゃと!」

    細かい話があまり好きでは無いランツの性格を重々承知しているノアは「じゃあ、簡潔に」と一言置いてから言う。

    「あの子が言ってたファクト、俺かもしれない」

    その直後、主にランツとセナの絶叫が響き渡り、宿舎がそこそこの防音対策をしてある事にノアは深く感謝をした。



    数日前の朝、ノアが目を覚ますと目の前に扉があった。
    寝ていたはずなのに何故扉が。慌てて辺りを見回すと、ノアが立っていた場所は自分が借りている部屋の前だということがわかった。
    ドアノブに手をかけている最中で止まっていたらしい自分の体。一体何をしていたのか思い出そうとするが、そもそも眠りについてから外に出た記憶は無いのだから思い出せるはずがない。
    今までこんな風になったことが無いため流石に焦ったが、どこか怪我をしているわけでもなければ誰に迷惑をかけたわけでもない。
    しかもそれ以降その不思議な体験をすることは無かった。
    余計な事で皆に心配をかけるべきじゃないと判断したノアは今の今までこの事を黙っていた。

    「けど、ヨウがファクトを見た日とその出来事が起こった日が一致してるから…もしかしてと思って」
    「い、言ってよ!そういう事は!」
    「ほら、そうやって心配するだろ?でも本当にその1回きりなんだ」

    ノアの話を聞いたタイオンが「夢遊病というやつじゃないか?」と言う。
    夢遊病────体は寝ているが、脳が覚醒状態になっていることで体が勝手に動いてしまう事を指す。

    「でもヨウの話だと結構意思疎通出来てたっぽいぜ?」
    「むぅ…」

    ユーニに論破されたタイオンが悔しげに唸る。
    その隣にいたセナが代案をあげる。

    「じゃあ、もう1回寝たらどう?」
    「でも記憶飛んだのその1回だけだろ?寝るだけじゃダメじゃね?」
    「もっとしっかり熟睡する、とか?」
    「そういや、なんかの本で読んだけど、『膝枕』って結構リラックスするらしいぜ?」
    「それだユーニ!よし、ミオ任せた!」
    「えっ」

    ここまで来たら最後までしっかり謎を解きたい。それにはもうノアに夢遊病を発症してもらうしかないのだ。
    タイオンに圧されて「わ、わかった」とミオがベッドに正座をする。
    ぽんぽんと己の膝を叩いてノアを誘うが、当然ノアは困惑している。
    「え、本当にするの?」みたいな顔で見てくるノアに、ちょっぴり悲しさを覚えたミオは耳をぺたりと下へ向ける。

    「私の膝、嫌…?」
    「え、あの、嫌って訳じゃ…」
    「じゃ、ホラ早く!あんまり恥ずかしがってると余計に恥ずかしくなるよ?」

    そろそろ自分も恥ずかしいから早く来てと催促すると、諦めたように目を伏せたノアが近づいてきてミオの隣へと腰を下ろした。
    皆に見守られて眠りにつくのは難しいだろうと気を利かせたミオ以外のメンバーは外へ出てもらい、ようやく静かになったベッドの上で、ミオはノアの頭を膝へ乗せる。
    「重くない?」とノアに聞かれたミオは「全然」と答える。
    こうして膝枕をしていると、『昔』の記憶を思い出す。

    「そう言えば、前にもノアにこうした事あったね」
    「ああ、あったな」
    「貴方は重要な戦力だったから、夜通し働いてて…私が『いい加減休んで!』って無理やり寝かせたんだよね」
    「意外と力強かったなぁ」
    「だって、目の下にクマあったんだよ?見てるこっちが辛かった」
    「……ごめん」

    2人だけが持つ、2人だけの記憶。
    古い本のページを捲るように、ゆっくりと昔を振り返ればこの空間だけ時間がゆったりと流れているような感覚になる。
    ポツリ、ポツリと語り合えば自然と体の力は抜けて、ノアの呼吸も穏やかになってきた。

    「眠い?」
    「そう、かも」
    「いいよ、眠って……おやすみ、ノア」
    「うん…」

    思い出話をしているうちにすっかり『昔』に戻ったのか、警戒心や緊張をすっかり何処かへとやったノアは鼻先をスリスリとミオへ寄せ始めた。
    いつもなら決してしない、猫のような甘え方をする想い人はとても可愛らしい。
    優しく頭を撫でてやれば、静かな寝息が聞こえてくる。
    時計を見れば、皆が出ていってから半刻経っていた。
    タイオン達は夢遊病だと思っているようだが、ミオは『ファクト』が一体『誰』なのか、何となくわかっていた。
    さて、ファクトは現れてくれるだろうか。


    ノアが寝入ってから10分ほど経っただろうかと言う時、ノアの閉じられた瞼がふるりと震えて、ミオの蜂蜜色の瞳と────紅と蒼い瞳が重なった。
    赤い瞳の中には8の字に泳ぐ龍が浮かんでいる。

    ああ、やっぱり──

    覚醒したばかりでぼんやりしている『彼』にできるだけ優しく声をかける。

    「おはよう──────エヌ」
    「………。──────ッ!?」

    リアクションの無いエヌと見つめ合うこと5秒。ようやく意識がはっきりしたらしいエヌがミオの膝から飛び起きて距離をとった。
    膝の上で感じていた心地よい重みと温もりが消え、ミオは不満げな声を漏らす。

    「ちょっと、そんなに逃げることないじゃない」
    「い…や、逃げるだろう。普通」
    「逃げる理由なんて無いでしょう?」
    「……本気で言ってるのか?」

    エヌが何を言いたいのかはわかる。
    収容所やアグヌスキャッスルでの件。
    それ以外にも『ミオ』がエヌを恨む理由はいくらでもあるのだから、そんな奴の頭を優しく撫でて膝枕をしている今のミオが何を考えているのかわからず困惑しているのだろう。
    だが、ミオからしてみればエヌの慌てようこそ変だと感じる。

    「オリジンで、ノアの提案にのってくれたでしょ?『もう一度未来にかける』って」

    ミオにとってエヌは『ノア』だ。
    新たな世界、未来を望む今の彼は紛うことなき『ノア』であり、ノアに対して大きな不平不満などひとつも無い。

    「だから、もういいの」
    「甘い考えだな」
    「そこは''優しい''って言って欲しかったな?」

    ミオとのやり取りを経て、余計な警戒を持つのは無意味と悟ったエヌがはぁ、とため息をついて体勢を崩す。

    「ノアに昔の話をしたのはお前か?」
    「そうよ。やっぱりそのせいで貴方が出てきたって事?」
    「それがノアの潜在意識に干渉した。そのせいで俺が出てきたと考えるべきだな」
    「じゃあ昔の話をすればいつでも貴方が出てくるの?」
    「そう単純でもないだろう。今回はいくつかの原因が重なって起きた奇跡だ」
    「そう。じゃあ、今夜が勝負ね」
    「は?」

    「逃げないでよ」と前置きをした後、ミオは扉前で待機していたセナ達を呼ぶ。
    目の前にいるのがエヌだと知った4人は流石に驚いた様子だったが、逃走防止のためにエヌの腕にしがみつくミオと、それを必死に引き剥がそうとするエヌが何だか面白くて思わず力が抜けたようだった。

    「何と言うか、いつもと変わんないね?」
    「本当にまんまノアじゃねーか」
    「元々は同じ人間なんだろ?別におかしかねーよ」
    「敵意が無くなると、こうも親しみやすいのか」

    各々が自由に感想を述べるが、どれも何処か揶揄いを含んだもので、エヌの顔がむっと不満げに歪む。

    「お前達も大概だな」
    「うっせ。今更いがみ合ったってどうしようも無いだろが」
    「それより今はやる事があるんだよ。多分今日がチャンス」
    「ミオも言ってたが、さっきから何だそれは」

    全く状況が飲み込めていないエヌに、セナが近づいて説明をする。
    幽霊探偵ファクトの事。
    少女がファクトを見たと言う事。
    追加で事件が起きた日付も話すと、ようやく事を理解したエヌが「ああ…」と何かを思い出したようだった。

    「心当たりありそうね?」
    「ある。だが…まさか、そんなにハッキリ覚えていたとは思わなかった。子供なら直ぐに忘れるだろうと高を括ったのが失敗だったな」
    「何故広場にいたんだ?ヨウの話では記念堂に向かったらしいが…。何か知りたいことでも?」
    「……。まぁ、昔の顔見知りに会いに行った、というところだな」
    「あ、そっか。始祖を実際に見たことあるのエヌしかいないんだっけ」
    「改めて聞くとすげぇな。お前今何歳だよ」
    「忘れた」

    無理やり話を切り上げたエヌは次いで「ヨウっていう子供に俺を会わせるんだろう?」と本題をもちかけた。

    「確かにそれが1番手っ取り早いけど…大丈夫か?」
    「人を無理矢理出させておいて何を言っているんだお前は」

    今更不安そうにしているユーニをエヌが呆れたと言わんばかりに冷たい目で見下ろす。

    「さっさと行くぞ。夜明けになれば俺はまた消える」
    「わかったよ。じゃ、アタシはヨウを呼んでくる」
    「残りは広場で待機だな」

    こうしてランツの言葉に頷いたメンバーは、それぞれの持ち場へと赴いた。





    人も寝静まった深夜。ヨウの家族に事情を話したユーニはヨウを広場へと連れ出した。

    まさかメビウスに会わせますと馬鹿正直には言えないので、「ヨウがファクトに会いたがっていたから変装をしてその夢を叶えてあげたい」と真実を半分混ぜて伝えたところ、ヨウの両親は快諾をしてくれた。

    「ヨウ連れてきたぜ」
    「ありがとう、ユーニ」

    何故ここへ連れてこられたのかわかっていないヨウの目の前でミオが膝を折って目線を合わせる。

    「来てくれてありがとう、ヨウ」
    「お姉ちゃん…何かあったの?」
    「あのね、私達ファクトを見つけたの」
    「ほんと!?」

    少し眠そうにしていたヨウの目が丸く開かれ、一気に興奮気味に輝いた。
    本当にファクトの大ファンなんだなぁとミオはほんの少しの罪悪感を隠すようににこりと笑みを作る。

    「うん。それでね、ファクトは皆に内緒でヨウに会ってくれるって、今記念堂にいるの。…会ってくれる?」
    「も、もちろんだよ!!」

    ヨウは元気よく返事をした後、記念堂へと駆けていく。
    少し間を置いて、ミオ達もヨウの後を追いかけて記念堂の近くの茂みへと身を隠した。
    中から恐る恐るといった風なヨウの声が聞こえる。

    「ファクト?本物の、ファクト?」
    「…こんばんは、ヨウ」

    エヌの声音はさっきまでの不機嫌そうな地を這う音でもなく、ノアのように柔らかな音でもないが、確かに優しさを含んだ心地よい低音だった。
    聞いたことがない声に、ユーニが驚く。

    「うわ、アタシの知ってるエヌじゃねぇ」
    「ノアっぽくもないね…演技かな?」

    ようやく大好きなファクトと喋ることが出来たヨウは後ろ姿からでも「嬉しい!」というオーラが漏れ出ている。

    「ねぇ!ファクトは幽霊とお喋り出来るんでしょう?」
    「ああ、そうだよ」
    「始祖様の幽霊とお喋り出来る?」
    「……。出来るよ」

    そう言ってエヌは右手が機械でできている男の像─リイド家の像を指さす。

    「まずリイド家。褐色の肌に赤い瞳の女性。なんというか…結構強かそう」
    「したたか って?」
    「んー…しっかり者って意味」

    「次、カシィ家。こっちも女性で、ちょっと独特な話し方をしてる」
    「こっちも女の人なの?」
    「そう。2人とも師匠は男。師匠の方はかなりの手練…強い人だったってさ」

    エヌは銅像をひとつひとつ指さして、あたかも幽霊から聞いた事を伝えているかのような口振りで、ヨウに詳しく話を聞かせている。

    「すっげぇ…エヌって子供の扱い上手いんだな」
    「幽霊見えてないんだよね?でもちゃんと説明してる」

    ひそひそとセナ達が話していることに気づいているのかいないのか。エヌはただひたすらにヨウへ説明を続けている。

    「オーツ家の武器は結構頑丈で、一兵士が作ったとは思えないほどの出来だったって、ローディス家の女の子は言ってる」

    「ローディス家の彼女は優しいって言われてるけど、口調は少しキツかったらしいよ」
    「凄い!そんな事までわかるんだね」
    「……まぁ、実際に今聞いてるしね」
    「じゃあこの2人!お父さん達はこの人達は兄弟だったって言ってるけど、それほんと?」

    そう言ってヨウがヴァンダム家とドイル家の像を指さすと、エヌがほんの少し息を飲む。

    「うん…兄妹だって。お兄ちゃんのほうがマシュー・ヴァンダム。妹がナエル・ヴァンダム」
    「凄い!始祖様のお名前、初めて聞いた!!2人はどういう人?」
    「妹は本当に優しい子だよ。ドイル家の思想は彼女の優しさが根幹にある。『皆に傷ついて欲しくない』っていう願いが」
    「お兄ちゃんは?」
    「お兄ちゃんは…」

    エヌは銅像の瞳を真っ直ぐ見つめ、かと思えばその後すぐに逸らした。

    「強かったよ。本当に…強い子だった」

    「どこまでも真っ直ぐで、妹思いで仲間思い。諦める、なんて絶対しない。……彼の生き方は俺には眩しすぎるな」
    「へぇ〜マシュー、カッコイイね!」
    「ね、カッコイイ」

    エヌの話し方が少し変わった事に少女は気づかない。
    幽霊の言葉を伝えるのではなく、エヌ自身の、心からの言葉だった。

    「でもファクトもカッコイイよ?」
    「いや、俺は…むしろカッコ悪いよ」
    「どうして?」

    純粋な疑問を投げた少女は首を傾げるが、果たしてこんな無関係な子供に話しても良いものか。
    良い訳が無い。
    難しくて理解は出来ないだろうし、関係の無い話をした所で無意味だ。
    かと言って、誤魔化せば更なる疑問が飛んでくるのはわかっていた。
    子供の「何故?何故?」は恐ろしいのだ。

    「ヨウは知らないと思うけど、俺は探偵になる前は結構…悪い事してきたんだよ」

    こういう時は嘘と真実を混ぜた方が騙しやすい。だからエヌはそう答えた。
    その言葉は、少なからずヨウには衝撃的だったようでぽかんと口を開けている。
    さて、次はどんな質問が来るのか。
    大方「どんな悪い事したの?」といった内容だろうか。
    そう思ったエヌが答えを頭の中で作り出していると、ヨウが口を開く。

    「ごめんなさいしたの?」
    「…ん?」
    「だから、ごめんなさい」
    「……い、言ってない…」

    『ゴンドウ、ごめんなさいは?』
    まだシティーに滞在していた頃、友人と喧嘩をした我が子を叱ったミオを思い出す。
    あの頃のゴンドウと歳の近い少女からそんな事を言われるとは思っておらず、素直に答えてしまう。

    「なんで謝らないの?」
    「俺が謝るべき人達は…皆、死んでしまったから」

    そう。
    シティーで良くしてくれた同士も、火時計から解放されてシティーに尽力していた当時のケヴェスとアグヌスの兵士も、マシューも、ナエルも、リベレイターのメンバーも
    ───ミオとゴンドウも。
    皆、遠くへ行ってしまった。謝りたくても謝れない。

    「だから───」
    「だから、ファクトは今探偵をしてるのね」
    「?」
    「ごめんなさいの代わりに、精一杯人助け!うん、やっぱりカッコイイ!」

    エヌは、何も言えなかった。
    何も知らない少女の笑顔が痛かった。
    自分は、そんなに眩しくて、優しい笑みを向けられるような人間ではない。
    ──少し前まで、人間ですらなかったのだ。人の命を貪る化け物だったのだから。
    (ごめんなさいの代わり、か)
    自分のした事が謝罪程度で済むものでは無いのはよく分かっていた。ノアの手をとったは良いが、その後エヌを襲ったのは激しい後悔と罪悪感。
    幾つもの命を潰した自分に何が出来るのか。

    その答えは、多分これだ。

    目の前の少女を見る。
    疑うことを知らない純粋な目だ。
    未来を信じて遙かな時を見据えるその目に、エヌは覚えがあった。

    『さっきの話、聞いてなかったのか?』
    『だったら、誰か だ』

    次世代へと何の迷いもなく託せるその強い意志、希望。
    あの言葉に、エヌはほんの僅かに羨望を覚えたのだ。
    息子に託しきれなかった自分の弱さが嫌だった。

    自分に似た、全く違う蒼を想う。
    彼のように今度こそ全てを託したい。この子達を可能性溢れる未来へ届けたい。……たとえ、己を犠牲にしてでも。
    これが、今の自分に出来る、精一杯の贖罪だ。

    (今更、遅いと笑うだろうか。マシュー)

    きっと笑いはしないだろう。優しい子だから、「やっとか」と肩を小突かれはすれ、絶対に馬鹿になどしない。

    もう一度、目の前の少女を見る。
    やるべき事、やりたい事は決まった。

    「……ありがとう。そうだね、いっぱい人を助けて、いつか皆にちゃんと『ごめんなさい』するよ」
    「うん!ずっと応援する!」

    言った途端、ギュッと抱きついてきたヨウをエヌは優しく抱き返して頭を優しく撫でる。

    「ありがとう、ヨウ。君から勇気を貰った」
    「どういたしまして!お仕事頑張ってね!」




    最後に、「今日のことは内緒だ」と約束を交わしてヨウを家へと返したエヌは、宿舎へ戻る道中で隠れて事の顛末を見届けたウロボロスメンバーに囲まれてしまった。
    ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる数名にエヌはため息しか出ない。

    「…一応聞いてやる。────何ニヤニヤしてるんだ?」
    「いやぁ?随分と子供との接し方がお上手で?」
    「………」
    「ねぇ、エヌ。さっきの六氏族の話、本当?会ったのはシティー襲撃の時の1回きりだったんでしょ?…ヴァンダム家の人だけ、やけに詳しかった」
    「……気のせいだろ。おいユーニ」

    エヌに名前を呼ばれたユーニがピンと羽根を立てる。

    「えっ、何?」
    「子供に興味があるならミオに聞け。エムの記憶を引き継いでいるから大体の事は知ってるぞ?子育てとか」
    「えマジで!?赤ちゃん育てたの!?」

    何故か赤ちゃんに多大な興味を持つユーニはすかさずミオへと詰め寄る。
    ユーニだけではない。タイオンもとても興味深そうに「その話、詳しく」とユーニと結託してミオを拘束する。
    二人ほどではないが興味を持っているセナやランツも悪ノリをしてミオの周りを囲み始めた。

    「おいミオ、なんで早く言わねぇんだよ!!教えろよな〜!」
    「妊婦のあの膨らみが赤ん坊なのだろう?…どうやって赤ちゃんは出てくるんだ?」
    「あんなちっちゃい子達、お魚とか食べられないよね?何食べさせてたの??」

    急に訪れた質問攻めに面食らったミオは4人の隙間からエヌに助けを求めるべくSOSを込めた目線を送ろうとした。
    (あれ…?)
    だが、隙間から見えたエヌはにこやかに笑っていた。
    ───違う。エヌはあんな風に笑わない。あれは、ノアだ。
    まさか自分を生贄に、こっそり入れ替わるタイミングを作ったのか。
    今、ノアは『なんでこんな所にいるのかわからないけど、目の前で皆が楽しそうだから、何があったか聞くのはこれが終わってからで良いか』とか何とか思っているに違いない。
    ミオは はぁ、と深いため息をつく
    ヴァンダム家について、何も聞けなかった。

    当時のエムは所謂引きこもりの状態で、メビウスになってからシティー壊滅後までの間に何があったのか知らない。
    しかもその後しばらくエヌは単独行動をしていた。
    エヌがやたらヴァンダム家にだけ詳しかったのは、きっとその時に何かあったからだと踏んだのに、問い詰める前に逃げられてしまった。
    なんか、悔しい。

    未だに問い続けてくるメンバーを押しやり、ノアにビシッと人差し指を向ける。

    「ノアに言ってもしょうがないけど」
    「え、俺?」
    「全部終わって、新しい世界になったら改めて聞かせてもらうからね!!」

    そう宣言したミオは今度はユーニ達の方を見て「ほら、質問答えてあげるから宿舎に戻るよ」とみんなを連れて宿舎へと歩を進めた。
    後ろでぽかんとしているノアを置き去りにして。


    「………」

    一人残ったノアは既に遠くに見える5つの背中を眺めていた。
    その真ん中、白い影。
    先程まで間抜けな顔をしていたノアは、今度は自嘲気味に笑う。
    笑う右目は穏やかな色の赤。

    「『全部終わったら』か」

    まさか、自分まで連れてゆくつもりだったのか。
    全てを救おうとするその心意気は本当に素晴らしい。けれど、その想いに答えるつもりは無い。
    だって決めたのだ。己を犠牲にしてでも未来へ届けると。

    「ごめんな、ミオ」

    そう言って瞬き1つしたノアの右目は、赤から蒼へと変わり、慌てた様子でミオ達の背中を追いかけて行った。
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