リオヌヴィ十二月になるとヌヴィレットの自室に小さいクリスマスツリーが置かれる。
ヌヴィレットの胸ほどまである大きさのそれにセドナと共に装飾品を木へ飾り付けていく。
大切にしまっていたオーナメントを取り出してはどこに飾ろうかとモミの木をぐるりと回ってココ、と決めた場所に置く。
最初にヌヴィレットへクリスマスツリーを渡したのは旅人とパイモンだった。
『依頼の報酬でたくさんもらったんだけど、置ききれなくて。迷惑じゃなければもらってくれないかな?』
少し困り気味に渡してきたそれをヌヴィレットは快く受け取った。
実のところヌヴィレットは季節の行事には関心を持っていない。
フォンテーヌ廷で行われるものに関してはパレ・メルモニアが関わっているし、イベント事の承認を行うのはヌヴィレット自身だ。
そういったことには関わるものの、個人事となるととんと興味を抱かない。
今回は友人である旅人からの頼みというのもあったが、ちょうどその場にいたメリュジーヌたちが興味津々だったのが大きかったのかもしれない。
街に飾られているクリスマスツリーも華やかで奇麗だが、メリュジーヌの背丈では大きすぎて全体を見るには遠くからでないと見れないことが多い。けれど旅人が持ってきた大きさなら彼女たちでも近くで見ることが出来るし、飾り付けも一緒にすることができる。
飾り付けの時期になると楽しそうにオーナメントの入った箱を準備するメリュジーヌたちを見ていると心が温かくなる。
ヌヴィレットの部屋にあるツリーのオーナメントはどれもデザイン、色、大きさ、全部バラバラで統一感がなかった。長く使われている物もあれば真新しいものもある。
このオーナメントは、ヌヴィレットとリオセスリが毎年ツリーが飾られる時期になると二人が気に入ったものを一つずつ増やしていったもの。
対で購入する年もあれば、気に入ったものに出会わなく見送った年もある。
長い年月をかけて、ヌヴィレットの執務室に置かれるようになったただのモミの木はたくさんの装飾品で彩られたクリスマスツリーへと姿を変えたのだった。
「最初は装飾品などなかったから金色の星と、小さなぬいぐるみだけだったのに。ずいぶん賑やかになったものだ」
ツリーを受け取ったのは良かったものの、オーナメントの用意などなにもしていなかったので、ヌヴィレットの執務室には文字通りただのモミの木が置かれた状態だった。
一番上に申し訳程度に飾られた金色の星が唯一クリスマスらしさを醸し出していたがそれでもクリスマスツリーと呼ぶには程遠い。
見かねたリオセスリがシグウィンからもらったのんびりラッコと丸いフォルムをしたサメのぬいぐるみを飾ってみたら思いの外ヌヴィレットの好みに刺さったらしい。
流石にぬいぐるみだけじゃ寂しいので少しずつ飾りを増やしていった。
長く使ってるのでかなり昔に購入したものは壊れてしまい飾れなくなってしまう。
「あ、……ヌヴィレット様。ヒビが入ってしまっています」
「ふむ……これは危ないから飾らない方が良いかもしれないな」
「残念ですけど仕方ないですね。公爵様がヌヴィレット様みたいだと選んでくださったオーナメントでしたのに……」
これ以上、損傷しないように優しく箱に仕舞うセドナ。
今年飾れなくなったオーナメントには雪の結晶の模様が銀で描かれていて青いリボンが付いているものだった。
当時のクリスマスマーケットで偶然見つけたリオヌヴィが「ヌヴィレットさん見たいだな」と衝動買いしたもの。それからずっと、のんびりラッコの隣に並べて飾っていた。
「購入してもう百年以上経つのだ。壊れるのは仕方ない」
そうは言うもののヌヴィレットもその時の記憶を思い出し、少し感傷的になってしまう。
あの時期に購入したオーナメントはだいぶ破損してしまっている。一つ一つにその時の思い出があり、ヌヴィレットはそれを記憶と共に眺めるのが好きだった。
そっと、箱に戻されたヒビの入ったらオーナメントをグローブに包まれた指先で撫でる。
「だが、思い出が減ってしまうのは少し淋しいな」
「なら新しい思い出を増やしに行こうか? ヌヴィレットさん」
ヌヴィレットの後ろから抱きついてきたのは白の混じった犬耳のような癖のある黒髪の男。
「リオセスリ殿。背後から抱きつかれると物を落として危ないのだが」
「すまない。恋人が悲しそうな顔してたのでつい、な」
ヌヴィレットから少し離れて、手元にある箱を覗き込むリオセスリ。
「懐かしいな。コレ、俺がまだヌヴィレットさんの眷属になる前に買ったやつだろ」
「君も覚えていたか。これを購入した翌年に眷属化について話していたことを思い出していた」
「……あー、ちょっと恥ずかしいので忘れてもらえるとありがたいんだが」
「君についての事は忘れたくはないのだが、あまり思い出さないように努めよう」
ふふ、と懐かしむように微笑むヌヴィレットに対して少し恥ずかしくて照れるリオセスリ。
リオセスリがヌヴィレットの眷属になるまで色々とあったのだが今は割愛しておこう。
「……あの頃は俺も必死だったんだよ。それよりも、やる事があるだろ」
「そうだな。飾り付けを終えたら久しぶりに新しいオーナメントを購入しに行こう。リオセスリ殿」
「喜んで。ヌヴィレットさん」
まだ飾り途中のツリーを鮮やかにしていく。
金色の星の真下は今も昔も変わらずにサメとのんびりラッコがギュっとくっつき合うように飾ってある。