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    僻地。

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    僻地。

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    いおいお(ラップとアイドル)
    ガチ不仲嫌味の応酬レスバ。ソーシャルネットワーキングスレイブ(SNS)がちょっと気に入ってる

    ##文章

    某月某日某所――あるアイドルグループは本日の講演を無事に終えて、すっかりホームとなった楽屋で、各々やりとりをしながら疲れを癒していた。
    そこにノックの後で扉が少しだけ開けられ、隙間から「お疲れ様です♪」と声がかかった。入室してきたのは黒いマスクで顔を隠した男。
    本橋依央利だ。
    彼は「これ、差し入れです♪」と愛想よく笑って、片腕に引っ掛けた鞄から市販のスポーツドリンクのボトルと塩分タブレットのセットを配り、今席を外している演者のところには置いていった。そして、彼が来たとたんに表情が”無“になり、瞬きもせずにただ待ち受けるようにして立っている本橋の前に、ゆっくりと歩み寄る。
    その両手にはそれぞれ最後のペットボトルの首とタブレットの包装の端っこを握っているものの、渡す気配はない。
    二人の依央利は無言でお互いの澱んだ目を見た。
    その顔は少しずつ険しくなり、間の空気は澱んでいく。

    「……あーあ。また始まるよ。僕は抜けるからねー」
    依央利の背後にいたテラはそろりと横に抜け、小さくなってそそくさと出て行った。こっそりと、音を立てないようにそろそろと扉を開けて閉めて……

    そして先に口火を切ったのは、ラップバトルに長けているほうの、入室してきたほうの本橋だった。
    にっこりと目を無理に細め、見えていないが頬もぎゅっと持ち上げる。そして顔を近づけると、それはもう嫌みったらしくねっとりとした声色で、自分でもむかむかするような甘ったるい声色を作って上目遣いに声を張り上げる。「お・つ・か・れ・さ・まぁ♡ 君って体力ないもんねぇ、他の方々よりもしんどいでしょ? はいっ、これあげる。あっ、疲れてるよね? 僕が開けて飲ませてあげるよ! 塩分もちゃんと摂ろうね?」矢継ぎ早に言葉を浴びせかけつつキャップを捻り、拒否する間もなくタブレットを掴んだままの手で本橋の口に指を突っ込んだ。さすがの暴挙に驚いてそのまま開けてしまった口に、無理矢理ペットボトルを咥えさせる。
    「あのさぁバカの一つ覚えじゃないんだからいい加減百合営業やめな? 毎回毎回毎回毎回推し見てたらお前がヌルッと入ってきてみなさんのファンが可哀想だと思わない? 何調子乗ってんの? 今日とかほーんとすごかったね。なに、テラさんのほっぺにチューって。やりすぎだってわかんない? 常識的に考えて男同士でベタベタされて嬉しいか? 好きな男が知らん男にくっつかれてるの見たいかそれ? ほんっとアイドル向いてないよ、パフォーマンス下手だもん。やめたら?」
    (アレはまあやり得だけど)事を傍観しているふみやは、ゆうゆうとドリンクを飲みつつ心の中でつぶやいた。巻き込まれるのは勘弁なので、言葉にはしない。(絡みが嬉しくない方が少ないはず。むしろ、コンビにして両方推すように誘導した方が、単純に2倍金を落とすファンが出来上がるんだから……特に依央利はもう”そういう枠“扱いなんだし身軽だから。新参には刷り込みやすいし、やっといていいと思うけど。まあキスはな、マジでやるんだそれと思った、俺も)

    流し込まれる水をなんとか飲みこみ、ペットボトルの口を手でこぼれないように押さえながらなんとか剥がした、先ほどまでパフォーマンスしていたほうの本橋もすかさず反撃に出る。
    「あーはいはいそれはもう聞き飽きました。でも止められてないし、むしろグッズの売り上げは伸びてるんで、君にとやかく言われる事じゃないでーす。ねぇねぇ何様? 誰の演技にケチつけてんだよ。あのねぇ、君のくっだらねぇ歪んだ考え思想意見じゃないの、僕らは商売なの、僕らの正しさはお金によって証明されるの。だから僕は正しくて君の指摘が筋違いなんだよ? あはっ! ところでさぁ……これ何? その辺の市販の水だよね? 差し入れはさぁ、もっと心がこもってないとダメでしょ?」
    (手作りだからってそうとは限らないだろ……)しっかりと言われた方にダメージが入ってるっぽいしこいつらの中ではそうなんだろうけど、言うところ間違えたら燃えかねないから後で言っておいた方がよさそうだな……。ふみやは手元のスマホのメモに「依央利 後で詰めとく」とメモする。
    「う…………っ、しょ、しょうがないじゃん! だってっ、そういうのは一律でダメだからって……僕が何かするって思ってるわけじゃないけど、示しつかないから、そういうのは特に食べ物だと受け取れないってふみやさんが――僕だって、納得したもん!」
    「へぇ〜〜〜」にぃっと意地悪く笑い、一転今度はこちらからのねちねちとした口撃が始まる。「奴隷としての権利がないんだ。ウケる、自分の時間を提供しないで何が奴隷? 僕は毎日毎日みなさんにドリンクもはちみつレモンも作ってますけど? ファンにも認知されてますぅ。ほらイ○スタのコメント見て? ”いおくんのお弁当美味しそうすぎ”“全員分このクオリティ!? すご!”……君、ロケ弁とか作ったことある? ないよねー! だって君たちにそんな文化ないもんねー! あはははははは! それに”いおくんのはちみつレモン綺麗〜食べたーい!“だって。みんな僕から無責任に時間と材料費を搾取したいってよ? うわぁ〜、僕って奴隷として認知されてる〜! SNSできないお立場の後ろ暗いお方には、ソーシャルネットワーキングスレイブはできないよねー! あーっ満たされちゃうなー、どっかの誰かと違って!」
    「中学生の部活かよ! 作るもののラインナップがダサいんだよ! 僕だってあっちの皆さんには毎日毎日ごはんものど飴も作ってる!! あと奴隷としてうるさい奴らを言われるまま口封じとかしてるしっ!!」
    「あっそ。でもそれって普通じゃん? 所属するコミュニティの方に誠心誠意尽くすのはさ。それをそんな自慢げに言われてもね……。ちなみに僕はあっちの方々にもご飯作ったことありまーす! それに君みたいに手作り拒否られてません。うわー負けちゃったねぇ、よわ〜い。負け犬負け犬〜、ついでにラップも雑魚〜、この前たまたま見たけど君だけライム貧弱だったよ? なにあれ、韻踏めてなくない? みなさんの迷惑だからぁ、やめたほうがいいのは君の方だよ? 弁えたら?」
    「……………………」
    「……………………くすっ」
    本気でイラつくあまり口がわなわなと震え何も言葉にならない黒マスクの男を、とてもファンには見せられない歪んだ笑みで嘲笑した瞬間――二人は同時に手を伸ばした。
    それを、扉を開け放って飛び込んできた小柄な男と、話の内容に辟易しつつも様子を見ていた男が立ち上がり、お互いの仲間を後ろから抑え込みにかかる。
    「やめろバカ!! 人の領土で殴りかかんじゃねえ!! しかもそいつは顔が仕事道具だろうが!!」
    「どいて猿ちゃん! あいつ殺せない! フーッ! ここで黙ってるのも男が廃るでしょ!!」
    「口で負けて殴りかかる方がやべえよ!」
    「お前もだよいお!! お前は別に殴る必要なかっただろ!」また低レベルなことやってんなと思いつつ、話はちゃんと聞いていたのである。
    「だってこいつ手が出るもん! 僕だからわかるもん! だったら迎え撃たなくっちゃ! 正当防衛! 正当防衛〜!」
    「ウソつけ殴りたいだけだろ! マジでやめろ!」

    「またやってる。いおくんも、いおくんを出禁にしたらいいのに」
    大瀬を出禁にしている大瀬が隅っこでぽそぽそと呟くと、椅子ごと寄ってきたふみやが気まぐれに答えた。「あの二人はああいうコミュニケーションしかできないから」
    「子ども……」
    「まあ言っちゃえばそうなんだけどさ。でもお互いすっごいムカつく相手なのも本当で、だからお互いイライラして必ずああなる。会っちゃうとダメで嫌いっていうのが先にきちゃうんだろうね。あっちの依央利、ずっと最後列で彼氏面してたし」
    「彼氏面」
    「うん、腕組んでダルそうにもたれてさ、でもわりとちゃんと壇上見てんだよね。まああいつチケット以外に金落とさないし、俺としては出禁にしてもべつにいいけど」
    「金額で愛を測るような真似はどうかと思いますけど」
    「はは。でも持ってるやつが使ってくれないと、経済も俺の首も回んないしさ」「…………え、そんなにやばいんですか。大丈夫なんですか、次の会場おっきいんですよね、あれ借りて……」「いや最近この近くに新しい店が開いて」この箱の前の通りに最近出店してきたパティスリーのことだ。それで(……あ、勝手に使い込んでいるだけ……)と察した大瀬はふいと顔を背けた。

    その先では相変わらずガルガルやりあっている依央利たちがいて、やがてあまりにも汚い罵り言葉が飛び交いだし、見兼ねた猿川たちから脳天チョップとローキックを各々食らって「ありがとうございます!」と反射のように喜び、引きずられて距離を取らされていた……
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