今日の藤丸はやけに目を惹いた。
明るい声は同じだけど、元気の代わりに色が乗って艶やかに聞こえる。乾燥で喉がやられたのか、少しかすれて聞こえるのも良くない雰囲気が増している。
近寄ってくるとはっきりわかる頬の赤みも、普段ならガキっぽいと言われるのに今日は逆に大人っぽく見えてしまう。
目元や吐き出す息、色づいた肌。どれも湿度を感じて、近くにいると手を伸ばしたくなる。
「――くん?」
声をかけられてやっと見惚れてしまっていた事に気付く。
いつものように「何かあったのか? なんか変だぞ?」くらいの軽口をたたいて誤魔化したいけれど、言葉が口の中に張り付いて「あ」だの、「う」だのまともな言葉が出てこない。
人のいい藤丸は調子が悪いのかと近付いて支えようとしてくれるが、その優しさが今は悪魔の誘いに見える。
それに無意識に左手が伸びようとした。
「立香」
この手から逃すように、静かにやってきたシャルルマーニュが藤丸の肩を掴んで引き離した。
自覚していなかった下心を見抜いたように睨む目は鋭く痛いけれど、心底助かったと思った。
急に聞こえ始めた心臓の音は二人の話声すらまともに聞き取れないほど大きな音を立てている。なんでこれが聞こえていなかったんだろう。
「――一緒に――。―――ひとりは――」
「――わからな――。心配―――」
馬鹿みたいに大きく響く鼓動の合間合間で聞こえた音を拾っても話は分からない。
二人の様子を見ながら背筋を冷たい汗が流れ落ちた頃、藤丸はひらひらと手を振って離れていった。
シャルルマーニュと一緒に。
その姿が見えなくなって、やっとはああっと大きな息を吐いて力を抜くことができるようになる。
束の間でも、おかしな状態に頭が痛みだす。
左手でぎりぎり痛む額を押さえながら、頼むから今日は片時たりともシャルルマーニュから離れないでくれと、いつになく真剣に願った。