目の前の惨事に立香は明後日の方向を向いて頬を掻き、カドックは痛む頭を押さえて大きなため息を吐いた。
彼等の前にあるのは小玉のスイカほどの大きさの青い林檎。枝は限界までしなっているが、意地でもあるのかのようにその実を落とすことなく実らせている。
興味本位で立香がその実をつついてみると枝がしなって揺れて、また一回り大きくなった。その代わり立香は「ヴッ……」と唸り声をあげてぐらぐら頭を左右に揺らすことになった。
阿呆がこいつは。
カドックは唖然とするが、このまま放っておいたらますますとんでもないことをしでかすかもしれないと声を上げた。
「藤丸!」
「はいっ!」
フラフラしていた頭をピタッと止めて、恐る恐る振り返ってカドックを見る。はっきり、怒られる……と怯えているのが分かる表情に、こいつは魔術師に向かないと呆れるしかなかった。
もう一度溜息を吐くカドックに立香はびくっと肩を震わせる。
思い出すと自分でも呆れる話だ。いつもの余った魔力を林檎へと変える作業をしていると、カドックが非効率なやり方だと口を出してきた。
その言葉にムッとして言い返せば、魔力の流れを無視してやろうとするから無駄が多いんだと返される。立香が魔力の流れとは?と首をかしげると、カドックはぎょっと目を剥いて絶句した。あまりにも基本の事だった。
そうしてその場で簡易的な講義が行われ、言われるままに実践をした。その結果がこれだ。
魔力の流れをうまく感じ取れずに流し込みすぎ、止めようとしても混乱でうまく止めきれずに流れ込んだ魔力は林檎を大きく大きく実らせた。
立香はまだ一つ目の林檎だというのにもうフラフラだった。
声をかけられたときは馬鹿にされたように感じて反発したが、折角丁寧に教えてくれたというのにこんなことになってしまい、申し訳なさに縮こまるしかない。
小さくなって沙汰を待つ立香に、カドックは呆れてはいるものの、考えているのは立香の思うような怒りではなくどう教えればいいか、だった。どういう意味であれ教わることは多けれど、自分が教える立場になることは少なく、教えるにはどうしたらいいのかを考えた事はなかった。
立香にどう伝えればきっちり伝わるのかとカドックは頭を悩ませる。
それを当然のことと考えている自分の変化にはまだ気づいていない。
「カドック?」
困ったように名前を呼ぶ立香に、カドックはとりあえず危険を排除するため、その林檎に触れるなと伝える事から始める事に決めた。