あっと思った瞬間カメラアプリを立ち上げてシャッターを切れるんだからスマホは便利だと言ったら、明らかな呆れ顔で溜息を吐かれてしまった。
それが不満でぶすっとふくれっ面になると、ますます嫌な顔をされる。
「あのさー……僕はね、君のそのスマホの画像フォルダに山のようにある写真の内容を知ってるんだよ。……くっだらない惚気を聞かせないでくれる?」
ずずずと品の無い音を立てて透明なカップに入ったアイスコーヒーを啜りながら、皆から王子様スマイルと言われている笑顔でオベロンは言った。
大学の空き時間、カフェの隅に見つけたオベロンの姿に駆け寄って相席した。
相談したいことがあったんだけど、いきなりやってきたオレによって傾いた機嫌を直す時間を作るため、まずは雑談から始めたのだけれどネタ選びを間違ったようだ。
カメラで撮影する対象を具体的に言ってないし、考えてもなかったけれど、オベロンはあっさり察してしまった。
スマホに保存されている写真。
その中で一番多いのは間違いなく恋人の写真だ。
その上、隠し撮りとまではいかなくても不意打ちのようなものが多い。
以前こっそりスマホを覗いたオベロンが言ったのは「君ってストーカーだったのかい?」なのだから、自分で思っているよりも隠し撮り気味になっているものが多いのかもしれない。
一応恋人からは「写真?立香が撮るならいいぜ」と了承は得ている。これだけの数撮られることになるとは思っていなかったかもしれないけれど。
「どうせ君の事だ、写真はあれから大量に増えているんだろう?まあ、僕のじゃないしどうでもいいけどね」
そう言われて最近のシャッターチャンスの瞬間を思い出す。
空に虹を見つけた時、新発売のクッキーがあたりだった時、友達のカッコ良い所を離している時、名前を呼んで振り向いた時。
一つ、二つ、三つ……思い出しながら数えてみるとあっさり二桁を越えてどんどん増えていく。
オベロンがげんなりと苦虫を噛み潰した顔をしているのにも気付かずにいると、限界を超えたオベロンがテーブルを叩くように氷だけになったカップを置いた。
「それで何の用なんだい?」
音に驚いて慌ててオベロンに向き直る。
相談を聞いてくれる状況になったのはいいのだけれど、くだらないことだったら張り倒すと顔に書いてあるようなオベロンに「今度のデートにいい場所ない
?」なんて聞いていいものだろうか。
笑顔のまま張り倒される未来を思いながら、恋人とのデートの方が大事だと口を開いた。