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    wawakotw

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    書き出し。
    セコムタイプのよへ書くの楽しい。

    女王蜂、笑う 開け放した体育館の扉の方からは、いつもいろんな音が聞こえる。校庭で練習しているサッカー部の声、野球部のバットにボールが当たる高い音、文化部なのになぜかいつも外周を走っている演劇部の声、バスケ部の練習を見学してる女子の声(たまにオレの名前を呼ぶ声も聞こえるけど、それは聞こえないフリをする)、桜木を冷やかす水戸達の笑い声。このあたりはいつも通りだ。
     そして、今日は金曜日だから。
    「ちわーす。桜木いるー?」
     来た。仙道。
     毎週金曜日は陵南は練習が休みだからと言って、夕方になると必ず仙道がやってくる。釣りの帰りだと言って、いつも釣り竿やらクーラーボックスやらを持っている。
     オレ達が休憩中なのをいい事に、仙道はサンダルを脱ぐと勝手に体育館の中に入ってくる。誰も注意をしないのは、みんなすっかり慣れきったからだ。
    「センドー、今日はどうだった?」
    「今日はカマスだな。食うだろ?」
    「カマスってどう食うんだ?」
    「刺し身でも焼いても美味いよ」
     クーラーボックスの中身はいつも桜木への貢ぎ物になる。
    「練習終わるまで待ってていい? おまえの家まで届けるよ」
    「おう。なあ、ついでにさばいてくれよ。やっぱセンドーがやった方が手際が良いんだよな」
     クーラーボックスの中を見ながら仙道と話す桜木に「はなみちー」と扉の方から水戸が声をかける。
    「今日の晩飯は刺し身か?」
    「おう。ちょうど昨日、丸ゴリに貰った米開けたとこなんだよ。豚汁の残りもあるから、それで刺身定食だな」
     桜木の声に、水戸達が色めき立つ。
    「花道! オレもご相伴にあずかるぞ!」
    「丸ゴリもマメだよなあ」
    「新鮮な刺し身とうまい米と豚汁かあ。そーいうのもたまにはいいよな」
    「五人で食べるには少なくねえか? 肉屋でメンチとコロッケ買ってこうぜ」
     勝手に話を進める四人に、仙道が「オレもいるから六人ね」と笑う。
    「七人」
    「あ? なんだキツネ」
    「オレも行くから七人」
    「オメー、また来んのか?」と言った桜木に、オレは「行く」とだけ返した。

     桜木の家の座卓には、載せきれないくらいの皿が載っている。実際載せきれなくて、折り畳み式のテーブルも出した。このテーブルは最近水戸が持ち込んだ物だ。たまに七人で飯を食うようになってからしばらくは、オレと仙道は段ボールをテーブル代わりにしていた。
     刺し身、貰い物だという野沢菜の漬物、やっぱり貰い物の松阪牛の佃煮、来る途中の肉屋で買ったメンチカツとコロッケ、オマケにくれたポテトサラダとチャーシュー、大家さんがくれたと言う骨のついた鶏肉と卵を煮たやつ、山王を卒業して上京している河田の実家で穫れた米、桜木が作った豚汁の残り。今日の献立のほとんどが貰い物で構成されている。メンチカツとコロッケはオレと水戸達で割り勘だし。
    「すげーな、オレ松阪牛とか初めて食った」と大楠が感心したように言う。
    「国体の時に三重とあたったろ? あそこにアルファがいてよ。野沢菜はインハイであたったアルファから」
    「湘北が来年のインターハイでいいとこまで行ったら、全国のうまいもんがこの家に集まるかもなあ」と仙道が感心したように言った。
     桜木花道はオメガだ。去年の春、インターハイの県予選が始まる直前に発症した。それもただのオメガじゃない。特殊な、優秀なオメガ。ただでさえ少ないオメガの中でもほんの一割程度の特別な存在。
     普通オメガは、アルファの庇護欲を煽るために小柄だったり非力だったりする事が多いらしいけど、桜木は全然ちがう。デカくて強い。アルファの中に一人混ざっても引けを取らないどころか、並のアルファだったら蹴散らせるだろう。オメガはフェロモンの匂いでアルファを誘惑する、つまりオメガ側からアルファの気を引こうとするものだ。でも、桜木くらい強いオメガだと、むしろアルファの方からオメガの気を引こうとすることになる。より強い遺伝子を残したいというアルファの動物的な本能から、強いオメガはやたらとアルファにモテるらしい。
     オレと桜木は今年、国体の神奈川代表に選ばれた(夏で引退しなかった仙道もだ)。県代表に選ばれるような選手の中にはアルファも少なくない。そこで桜木に惚れた全国のアルファ達は、桜木の気を引こうとせっせと貢ぎ物を送ってくるようになった。どうも、アルファとオメガの遺伝子的にそういう風になっているらしい。アルファは、優秀なオメガに物を贈ったり世話を焼いたりしてアピールする。優秀なオメガは、贈られた物やアルファの献身っぷりから、誰を番にするか選ぶ。仙道もアルファだ。毎週、釣った魚を貢ぎ物として桜木に献上している。そして、オレもアルファだ。

     仙道が、「なあ、桜木のフェロモンってもしかしてベータにも効果あるタイプ?」と言った。
    「肉屋のおねえさん、ベータだろ? なのにこんなに沢山おまけしてくれた」
    「ははっ! 違う違う! これはあんたとルカワがいたからだよ」
    「そうそう。おばちゃん目がハートになってたもんなあ」
    「ちげえ! この天才の魅力がおばちゃんにも通じたんだ!」
    「花道の方なんて一切見てなかったぞ」
     水戸達は笑って否定してるけど、オレは桜木のフェロモンはベータにも影響があると思っている。
     実際、桜木は相手の第二性に関わらず、人から物をもらったり世話を焼かれたりする事が多い。チエコスポーツの店長はベータだけど毎回タダ同然でバッシュを譲ってくれるし(アルファなら少しくらいはアルファの匂いがするはずだ)、水戸達だって。去年の夏はバスケ部員でもないのに桜木の個人合宿を徹底サポートしていたし、常日頃から世話を焼いている。
     こんな事なら、コイツのオメガ性が発現する前にもっと色々頑張ればよかった。初めて会った時からずっと好きなのに。どうすれば良いのかわからなくて気持ちを持て余してる内に、気が付けばライバルだらけになっていた。

     七人でメシを食ったあと、大楠と高宮と野間はさっさと帰る日もあればいつまでもダラダラしている日もあって、今日はさっさと帰って行った。残ったのは、仙道を警戒してるオレと、オレを警戒してる仙道と、オレと仙道を警戒している水戸の三人だけだ。
    「やっぱ大人数で食べるのって賑やかでいいねえ」と仙道が唐突に言った。
    「オレ一人暮らしだからさ。家帰って誰もいないの、たまに寂しくなる」
     仙道の言葉に桜木が、「あー、まあ、そんな日もあるよな」と頷いた。
    「桜木もあるんだ?」
    「あいつらいるとうるせーからな。みんな帰って一人になると急に静かになるだろ。静かな時って、静かな音がちゃんとあるだろ?」
    「あるねー。時計の音とか、冷蔵庫の音とか。あれ聞こえると急に寂しくなる」
    「なるなあ」
    「帰るのやだなあ。ねえ桜木、今日泊めてくんない?」
     あ? 何言ってんだコイツ。寂しいとか言って、結局ただのシタゴコロじゃねーか。
     桜木はこんな見え見えのシタゴコロにも気付かず、「うーん、でもうちは明日は午前練習だしなあ。みんな朝早えから、部長のオレが一番に行って体育館開けてやらんとだし」とマジメに考えている。
    「だいじょーぶ、オレ流川と違って寝起きいいから。桜木が起きる時間に合わせて一緒に起きるよ」
    「あー、それなら・・・」と了承しかけた桜木を、水戸が「ダメだよ」と制した。
    「ダメだよセンドーさん。下心わかりやすすぎ。そもそもあんた、一人が寂しいなんてタイプじゃないでしょ」
    「あはは、バレたかあ」
    「ぬ? センドー、嘘だったのか?」
    「あー、まあね。オレは一人でも全然へーきなタイプかな。でも、桜木が寂しいなら泊まってくけど?」
    「だからダメだって。花道の事狙ってるアルファを泊められるわけないじゃん」
    「えー? 別にオレ、無理矢理なんかしたりしないよ?」
    「無理矢理しても花道が勝つだろうね。でもあんたは情に訴えてきそうだからダメ。ほら、もう帰んな。ルカワも。これより遅くなると補導されるよ」
     そう言うと水戸は、畳の上に放りだしていたオレの学ランと仙道のブレザーを投げてよこした。
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