お姫様抱っこしたくて仕方ない嫉妬しい千切の話
「おい!今日の試合の!!あれ!なんだよ!!」
家に帰るなり、愛する人に大きな声で怒鳴られ、俺は呆気に取られる。ここはまだ玄関で、靴を脱いですらいない。10cm高い位置で仁王立ちしている恋人は、荷物を受け取ってくれる気配もない。
「なんだったんだって、聞いてるんだよ」
正面から押され、ドアに体がぶつかる。近づいてきた千切にいわゆる顎クイをされ、俯かせていた視線を無理やり上げさせられる。千切は怒りを隠そうともせず、俺を睨んでいる。
「あれって言われても、わかんねぇ」
目を逸らしたいけれど、手は塞がっているしドアと千切に挟まれて体を動かすことが出来ない。
今日一日を振り返ってみても、千切に謝罪しなくてはいけないような反省点は思い当たらない。ホームでの試合、満員御礼、自分の所属するチームカラーが過半数を占めるスタジアム。点こそ決められなかったものの、2アシストは褒められても良いのではないだろうか。よしよししてくれとは言わない。けれども、よく頑張ったな、くらいは言ってもらえると思って家に帰ってきたというのに。
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