佐久侑の日曜の夜 さっきまではまったりとココアを飲んでいたのに、いつの間にか、でかい男二人で座ると多少窮屈なソファで互いの唇と舌を絡ませ食んで、止めどなく溢れる唾液が口の端から一筋溢れている。佐久早は、目の前でうっそりと目を閉じて自分の両頬を鷲掴みにしている侑をぼやける視界で眺めた。
こいつはキスが好きだなと佐久早は思って、次いで、侑の脇腹に添えた手の平をするりと動かした。柔らかだが確かに熱の高まりを感じさせる手の動きに侑がに小さく吐息を漏らしたので、佐久早は目の前の唇を舐めて、また食む。薄く瞼を上げた侑が、合わせた唇の僅かな隙間から、掠れた声で佐久早の名を呼ぶ。
「なに」
応えてやると、両目も唇も半開きにした侑がまた、臣くん、と呼んだ。平時のふてぶてしさの欠片もない、高ぶる心音がそのまま乗ったような惚けた声。侑にこんな風に名前を呼ばれることが好きなのだと、佐久早は最近自覚した。だって、求められていると、解る。
「なにしたいか言って、侑」
普段は言わない名を口にすると、佐久早の首元を両手で抱き込んだ侑が、目尻に唇を寄せる。掠める呼気の熱さに、佐久早の心がじわりと満たされる。
「キスしたい」
「もうしてんじゃん」
「ここやなくって…!向こうで…したい」
「向こうって?」
意地が悪いのは自覚しているが、佐久早がそれでもとぼけた返事をすると、侑は、きゅちっと唇を引き結んで、佐久早の頭を抱え込んだ。
「あっち、ベッド、行こ」
耳元を掠める、熱に浮かされた声。佐久早は侑のパーカーの裾に指先を差し入れて、インナー越しに滑らせた。
「今日は挿れねぇぞ」
明日も仕事で、練習もある。
「ん、ええから、それでええ」
佐久早は侑の腰を撫でていた指先をスウェットパンツの中に差し入れる。また佐久早の指が滑って、佐久早の耳に触れた侑の唇が小さく震えた。佐久早が答えずに、ゆるゆると指を滑らせていると、侑は顔を上げて、黒々とした両面を正面から覗き込んだ。そうして佐久早の下唇を食み、ちろりと舐めた。僅かに空いた佐久早の唇の隙間に、また侑の舌が入ってくる。舌先が触れる。熱かった。
侑の指が佐久早の唇に触れる。濡れた表面を撫でる指先は、しっとりと滑らかな、よく手入れされた感触でもって佐久早を急かす。
「臣くん」
近すぎてぼやける視界の中で、上気した目元の赤はよく見えた。
「はよ触って」
侑は佐久早の手を取ると、パーカーを捲り上げ、自分の腹に添えさせた。佐久早はふうと息を吐いてから、その思いの外、熱く湿った呼気を自覚し、鍛えられた侑の腹筋の凹凸をゆるく押し込んだ。
「触るだけだぞ」
侑が、くふ、と音を漏らして、笑みを浮かべる。
その、今の状況に不似合いな、無邪気な嬉しさを滲ませる笑みに、佐久早は思わず指先に力を込めた。そしてパーカーの中から手を引き抜くと、一人立ち上がった。
侑が慌てて立ち上がる。その揺れる金色の毛先に佐久早は手を伸ばして、そのままシャンプーの匂いがする頭を抱き込んだ。指先で項を撫でると、侑が身を捩る。
「んふふっ臣くん、こそばいって」
ああ、早くこいつをベッドに転がして、心行くまで触り倒したい。
「行くぞ」
すっと体を離した佐久早が侑の手を引くと、また、無邪気な笑みが向けられて、じわりと下腹のあたりが熱を持った。
ぎゅうと握り返された手の平が熱くて、佐久早はつい、歩幅を大きくした。