クリスマスの朝の話クリスマスイブに突然帰ってきた彼氏と過ごす
カーテンを開ける音、差し込む日差し、それから隣にないぬくもり。
「ベックもうおきたの?」
窓辺にいるであろう彼に声をかけた。
「あァいい。おまえさんはもう少し寝てな」
彼の低い声が眠気を誘ってくる。
「昨日は随分頑張ってもらったからな。今朝はおれに全部やらせてくれ」
言葉の前半部分は正直恥ずかしい気持ちで聞いていたが後半部分はいまいち意味を図りかねた。
全部やらせてってなんのことだろう。
「いいからもうひと眠りしてな。お姫様が起きるにはまだ早い」
この人はすぐに歯の浮くような台詞を吐くけれどそれに慣れつつのあるのだから私も大概だ。
重たい瞼をどうにか少し持ち上げてあとで起こしに来てくれるかと尋ねるともちろんだと返ってきたので「じゃあおやすみなさい」とお決まりの挨拶をしてストンとまた眠りに落ちた。
「さァ、起きる時間だ」
枕元に手をついてキスを添えると甘く私を起こしにきた彼からは香ばしいいい匂いがした。寝ぼけまなこで半身を起こすと膝裏に太い腕が滑り込んできてあっという間にお姫様抱っこをされていた。そのままダイニングへ向かうらしいことはぼんやりした頭でもわかったけれど抱き上げられた身体に届く絶妙な振動と思いのほかふかふかのベックの胸筋にまたまどろみ始めてしまう。「頼むから目を開けてくれプリンセス」と笑われたような気がしたけれどまどろみをさまよう私には聞こえているようで聞こえていない。
「降ろすぞ」
椅子に掛けさせられたのだと気づいて目の前から香ってくるおいしそうなにおいにようやく私が目を開けるとそこにはホテルみたいな朝食が用意されていた。香ばしいにおいの正体はたっぷりバターを使ってあるであろうちょっとお高いクロワッサンだった。白い皿にはスクランブルエッグにケチャップが添えられていて、きっとこれもちょっとお高いパリッと音が鳴りそうなソーセージ、それから私の好きなパプリカとトマトが入った見た目に鮮やかなサラダ。
「すご……」
完全に朝食に目をとられているといつの間にとってきたのかティーポットを持ったベックが傍まで来ていて空のティーカップにとぽぽ、と綺麗な紅色を注いでくれた。
「ベック、どうしたの?」
たしか昨日も似たような台詞を言ったような気がする。しかしこれはそういうしかないだろう。
「クリスマスプレゼント、の一環だな」
「いっかんとは?」
「ちと情けねェ話だが慌ただしくおまえさんのとこに一直線で帰ってきたからな。クリスマスプレゼントを用意できてなくてな。プレゼント代わりといっちゃなんだが身の回りのこと全部をおれに任せておまえにはゆっくり過ごしてもらおうかと思ってる。もし出掛けたければエスコートさせてもらうがさすがに身体がキツイだろう? だからま家デートの豪華版とでも思ってくれ」
「豪華版てなによそれアハハ。でもプレゼントとか気にしなくていいのに」
ベックに似合わない台詞が出てきた気がして思わず笑ってしまう。
「おれの気が済まねェんだよいいから大人しく今日一日おれに目いっぱい世話されちゃくれねェか」
「そんな言い方ズルい」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
ニヤリと笑ったベックが向かい側の席についてのんびり優雅な朝食がはじまった。