あっという間/次の約束/名残惜しげになにかが触れては離れていく感覚にゆっくりと意識が浮上していく。まどろみの中それが何なのか手繰り寄せようとした。
「ふ、はは」
伸ばした手に触れたのはぬくい唇だった。ふにふにと手遊びしているとぱっくりと口が開けられてぺろりと指を舐めらる。普段なら淫靡な刺激ともとれるそれだが今回に限ってはまだ意識がまどろみの中にあるせいか彼女はくふくふと笑うばかり。そのあとも唇は彼女の瞼や鼻、頬なんかに触れては離れてを繰り返すが彼女はどれも時々くすぐったそうに笑うばかりで目を開ける気配がない。
「お嬢さん、そろそろ目を開けてほしいんだが」
戯れを続けながらベックマンは起床を促す。
「じゃあキスして、唇によ?」
ベックマンが意図的に避けていることに気づいたらしい彼女がようやくそれを強請ってきたのでベックマンはしめしめと思った。
「それはあんたが目を開けてくれたら嫌って程してやろうな。さ、まずはその目を開けてくれ」
彼女の寝起きがあまりよくないことをベックマンはよく知っていた。時によると二度寝では済まず三度寝、それ以上なんてこともざらだった。このままではふにゃふにゃとまた寝入ってしまうに違いない。どうにか目を開けさせなければ。
「んん……」
こうしているうちにもあっという間にまた毛布を頭までずり上げているのだからまったく寝ているくせに油断も隙も無い。
「おれの唇はもういらないか?」
「ん、べっく。きすする」
彼女は本当にキスが好きというべきかおれが好きというべきか。たった一言きいてもぞもぞと毛布から頭を出そうとしているのが実に愛らしくて笑えてくる。
「目あけたよー、きすー」
まのびした声で起床を伝えてきた彼女が目をこすってキスを強請ってくる。
「あァ起きたな。おはよう」
ようやく起きる気力を出してくれたのでこのまま起きてもらうべく早々に舌を忍び込ませた。歯列をなぞって舌をしごくように舐めしゃぶってやると彼女の喉の奥からくぐもった声がもがき聞こてくる。
「っは、これでようやくと目が覚めたなお嬢さん?」
「んっは、はぁ……」
口端からたらり垂れる唾液をついでに舐めとってやると鼻にかかったような可愛い声が耳に届く。欲をはらんで名残惜しげにこちらを見つめる瞳と目がかち合う。
「起きたけど、ベックどうしてくれるの……!」
頬を赤く染めてこちらの胴あたりをぽかぽか叩いてくる。予想通りの反応に口角がゆるんだ。
「……ベックなんか悪い顔してる。その、これ以上はだめだからね」
「安心していい。おれは優しくおまえさんを起こしに来てやっただけだしキスもおまえさんがねだったからしただけだ。これ以上は何をするつもりもねェよ、今はな」
「続きは今夜、な」
次の約束を伝えるとこれ以上ないくらいに頬を紅潮させて彼女がパクパクと口を動かすのでそれがおかしくて朝からベックマンは機嫌よく笑って彼女の部屋を出た。