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    筆が乗ってしまったので書いた地雷。あり得ない時空のあり得ない未来のあり得ない話。
    うちの新司令×うちの新3号。名前があるので注意。

    ##エイプリルフール

    朝ご飯を食べる「よしっ」
     魚焼きグリルで焼いただけのトースト。二つ一気に割り入れてフライ返しで切り分けた目玉焼き。一袋全部フライパンに放り込んだウィンナー。冷凍野菜とコンソメキューブを煮ただけの野菜スープ。全てを器に盛り終えたところで思わず声が漏れる。大したものではないが、たまに作るには十分な料理である。二往復して運んで、折りたたみテーブルの上に並べていく。ちゃちい机は食器を四つ置いただけでギチギチになってしまった。
    「……シャワーありがと」
     金属の小さな音とふて腐れたような小さな声。視線をやると、水場に続くドアの向こう側から黄色い頭が覗いていた。ぱちりとあった青い目はすぐにふぃと逸れる。シャワーを終えて帰ってきたコイビトは、わざとらしく背中を向けながら部屋に入って戸を閉め、俯きがちに歩んでテーブルの前に座った。いつも通り――昨晩の情事が忘れられず、昨晩の自分の痴態が忘れられず、それでも普段通りに過ごさねばならないと思い込んでいる、いつまで経っても変わらない姿である。可愛らしくて仕方が無い。
     先に座ったミィにならい、サンも腰を下ろす。大きな手が合わさる。いただきます、と声が二つ重なって響いた。
     手と箸で作った料理を胃に放り込んでいく。マーガリンを塗っただけのトーストはどこかもの寂しいが、半熟になった黄身の濃厚なまろやかさや油と肉汁溢れるウィンナーのしょっぱさにはぴったりだ。材料を鍋に入れただけのスープは若干塩気が足りない。食卓塩を追加で振り入れてようやく味が調った。
     対面、大きく動く口が二枚目のトーストを飲み込み終える。ブロッコリーを口に放り込み、咀嚼するのが見えた。は、と満足げな息。ようやく俯きがちだった顔が正面を向いた。
    「今日、バイトやるからそっち行けないと思う」
    「めずらし」
    「仕方ないでしょ。足りないのよ」
     短く返すと、はぁ、と大きな溜め息が戻ってきた。そういえば、最近シーズンが変わったと聞いた。新しいギアが追加されている頃合いである。それを買う資金を貯めねばならないのだろう。以前の彼女ならばギアなど手持ちだけでやりくりしていただろうが、最近オシャレを覚えつつあるのだから新しいものが欲しいに決まっている。いいことではあるが、悪いことでもある。体調管理はできる子だ、無理はしないと分かっていてもやはり多少の心配は覚えてしまう。
    「ねぇ」
     薄いニンジンを飲み込み、対面に声をかける。味噌汁碗から口を離したコイビトは、何、と短く鋭く返した。
    「やっぱ一緒に住まない? 家賃私が全部出すから」
    「やだっつってんでしょ」
     箸で宙に円を描いて笑うサンに、ミィは冷たく返す。何度目かも分からない答えに、えー、と何度目かの不平の声をあげた。
    「何であんたに養われなきゃなんないのよ」
    「家賃出すだけじゃん」
    「十分でしょ」
     むぅと子どもめいて頬を膨らますも、相手は無言で食事を摂るだけだった。己が家賃を全て出すだけで、形式としてはルームシェアだ。そんなの今時珍しくもないのに、この子はいつだって拒否をする。普段の言動からして、どうにも『一人暮らし』というものに固執している節がある。どれだけ家計簿アプリの中身が悲惨でも、通帳アプリに記された預金残高を見て青ざめても、『一人で部屋を借りて生きる』ということから離れようとしない。事情は知らないが、なんとも生きにくい性格をしている。 
    「大体ここペット禁止じゃない。コジャケどうすんのよ」
    「黙ってればよくない?」
    「見つかるに決まってんでしょ」
     今だって黙って飼ってるじゃん、と箸で指差すと、あんなん全員が全員ルール破ってるから言わないだけよ、と冷たい声が返ってくる。なんとも酷い言われようであるが、彼女の住まうオンボロアパートは完全に否定できない見た目と住人をしている。少女たった一人でもこの部屋の家賃半分以下で借りられる賃貸に完全なる治安を求める方が不可能だろう。それでもまだ守られている方なのだけれど。
     何度目かの同棲の誘い、何度目かも分からない拒否に、サンは唇を尖らせる。コイビトになって、身体の関係まで持って、度々寝泊まりするような関係にもなっているのにこれである。一緒に暮らした方が金銭的にも生活的にも楽だろうに、彼女はいつだってバッサリと切り捨てるのだ。どうにも彼女は生活の全て、こと金銭面においては自分で賄わねば気が済まないといった様子である。性格故のものなのか、それとも何かあるのか。何も知らないが、こうも否定を繰り返されると悲しさや寂しさが積もっていくものだ。コンソメスープの中を漂うほうれん草を箸でつつき回す。濃い緑は水面をすいすいと泳いでいった。
    「……あたしが」
     ほうれん草を箸でつまむと、声が聞こえた。口に放り込み、正面を見る。カン、とプラスチックの味噌汁碗が机に置かれた音が聞こえた。
    「……あたしが収入安定したら住むっつってんのに、何で聞かないのよ」
     はぁ、とミィはこれ見よがしに溜め息を吐く。シャワーを浴びて清潔になった頬はうすらと赤くなっていた。大きな手が急いで碗を持ち上げ、顔を隠すようにあおる。中身が空になっていることなんてとっくにバレているのに、こうやって拙く誤魔化そうとするのだから可愛らしいものである。
     そうだ、一応良い答えはもらっているのだ。ただ、彼女が主張する『収入が安定して自分の家賃も生活費も全部出せるようになったら』という条件をクリアするのを待っていられるほど己もまだまだ大人ではない。欲しいものはすぐに手に入れたい性質なのだ。相手が逃げ回るタイプならば尚更である。早く手に入れなければ知らない内にどこかに行ってしまうではないか。一度分かたれたことがあるのだから尚更だ。
    「そんなん待ってられないもん。何年かかるの」
    「んなもん強くなればすぐでしょ。勝率八割あれば十分なんだから」
     はぁ、と呆れて問えば、ハッ、と鼻を鳴らす音が返ってくる。盛大に啖呵を切っているが、彼女の戦績が芳しくないことは知っている。定期的にタイマンで練習を行っているが、この子はあまりにも愚直であまりにも処理能力が足りていない。撃ち合いに夢中で相手のスペシャルが溜まっていることに気付かないまま突っ込んでくるような奴が勝てるウデマエはとうに通り越しているのだ。それなのに立ち回りを変えないのだから勝てるものも勝てない。本人も十二分に理解していて気にしているようだけれど。
    「あんたこそ収入安定してないでしょうが。貯金切り崩すのも限界があるでしょ。お金は大切にしなさいよ」
    「たまにバトル行ったら稼げるじゃん。一日潜れば家賃二ヶ月分なんてすぐだし」
     床に転がしていたペットボトルから水を飲む。ぐ、と喉を詰まらせる音と、突き刺すような視線が飛んできた。恨めしげに見つめられても、事実なのだから仕方が無い。『勝率八割あれば十分』の根拠になる程度には己はバトルに勝てるし稼げるのだ。伊達に片手で数えられないほどの年数を費やしているわけではないのだから当然だが。
    「……まぁ」
     箸を置き、サンはニマリと笑う。視線に気付いたのだろう、食器の前で手を合わせたミィは眉をひそめた。
    「強くなるまで面倒見てあげるから」
    「何その言い方」
     腹立つ、と吐き捨て、ミィは食器を重ねる。プラスチックが擦れ合って高い音をたてる。小さくまとまったそれを持って、少女は立ち上がりキッチンへと向かった。背中から足音、しばしして水音。後片付けぐらい己が全てやるというのに、きちんと自分の分は洗うのだからこの子はえらい。作ってもらったんだから洗うのぐらい当然でしょ、といつぞやぶつけられた言葉から根の優しさがよく分かる。指摘すれば烈火のごとく怒るだろうから黙っているけれど。
     床に背を預ける。姿勢を変えた途端、詰め込んだばかりの腹の中身が少し動くのが分かった。少しの気持ち悪さに目を伏せる。少しだけ頭を動かして、キッチンへと声を通りやすくした。
    「練習何やるー? ホコ? スパショ?」
    「今日はバイトだっつってんでしょ」
     呑気に尋ねると、呆れ返った声が聞こえてきた。そだった、と悪びれずに返す。流されて練習へと予定を変えてくれると思ったのだが、さすがに難しかったようだ。
     本当なら二人でバンカラマッチに潜った方が練習になるし稼ぐことも容易だ。彼女のウデマエぐらいならばキャリーなんてお手の物である。それを分かっているからこそ、コイビトはバイトに行くのだ。己の手を借りることなく、己に貸しを作ることなく、己に依存することなく稼ぐために。なんとも健気だ。なんとも愚かだ。赤貧のくせに効率よりプライドを重視するなんてなんとも青臭いではないか。可愛らしいったらない。
    「ていうかいい加減ウルショぐらい覚えなさいよ」
    「別にスパショでもいいじゃん。変わんないでしょ」
    「違うわよ。ハイカラと一緒にすんな」
     ぺしん、と冷たい手が額を叩いた。
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    aoino_a0

    MOURNING筆が乗ってしまったので書いた地雷。あり得ない時空のあり得ない未来のあり得ない話。
    うちの新司令×うちの新3号。名前があるので注意。
    朝ご飯を食べる「よしっ」
     魚焼きグリルで焼いただけのトースト。二つ一気に割り入れてフライ返しで切り分けた目玉焼き。一袋全部フライパンに放り込んだウィンナー。冷凍野菜とコンソメキューブを煮ただけの野菜スープ。全てを器に盛り終えたところで思わず声が漏れる。大したものではないが、たまに作るには十分な料理である。二往復して運んで、折りたたみテーブルの上に並べていく。ちゃちい机は食器を四つ置いただけでギチギチになってしまった。
    「……シャワーありがと」
     金属の小さな音とふて腐れたような小さな声。視線をやると、水場に続くドアの向こう側から黄色い頭が覗いていた。ぱちりとあった青い目はすぐにふぃと逸れる。シャワーを終えて帰ってきたコイビトは、わざとらしく背中を向けながら部屋に入って戸を閉め、俯きがちに歩んでテーブルの前に座った。いつも通り――昨晩の情事が忘れられず、昨晩の自分の痴態が忘れられず、それでも普段通りに過ごさねばならないと思い込んでいる、いつまで経っても変わらない姿である。可愛らしくて仕方が無い。
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    aoino_a0

    DONEパトロール帰りのシェリーさんとDDさんの話。

    『OZONEのジャケの話を』というリクエストをいただき仕上げさせていただきました。この二人の関係性が好きなので楽しく書けました。エアスケブご依頼ありがとうございました。
    走り行く街街 ガラスの向こう側に街並みが流れゆく。広いネメシスの世界は、普段よりもずっと早足に去っていった。
     抱えた紙袋に手を入れ、パッケージに入ったフライドポテトを探し出す。高速道路に乗る直前に買ったそれは少しだけ萎びていた。ふにゃりと柔らかなポテトを一本つまみ、口へと運ぶ。なめらかな白い歯で長い黄色を噛み切ると、すぐさま塩気と油気が口内に広がった。食べ慣れた味をどんどんと口に放り込みながら、シェリーは身体のすぐ隣、車の窓の外を眺める。透明なガラス越しの街並みは、相変わらず速度を出して後方へと流れていった。
     視線を街から運転席へと移す。ちらりと見た横顔は落ち着いたものだ。合成革のカバーで保護されたハンドルを操作する手付きはブレなど無い。スラリとした長い足はヒールの高い窮屈な靴に包まれているというのにアクセルペダルを器用に操っている。外装に反して古い型式のメーターは法定速度内であることを静かに示していた。安全運転そのものだ。開け放した窓に腕をかけ、片手でハンドルを操る姿勢は『安全』の文字には程遠いが。
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