一年越しの約束投げつけ 消えたがる君を引き止めた。
男女の差、それも闘いから身を引いて久しい者と長期間の戦闘経験を積んだ者では、もちろん後者が勝つ。反射的に握った細腕は、限界まで引き伸びたところで止まった。否、止まる外無かった。
「な、によ」
「これ、チョコレートですよね……?」
腕を握っていない方の手、そこにある小さな箱を見る。リボンでラッピングされた薄めの箱からは、ほのかに甘い香りが漂っていた。
始果が口にした語に、グレイスの身体がギクリと強ばる。再び地を蹴り駆け出そうとするが、未だ己を掴む少年によって阻まれた。
「……だったら何よ」
告げる声は細く硬い。羞恥、はたまた怒りを孕んでいるのか、可愛らしい声は震えていた。
必死に顔を背けていた彼女が振り返る。白いかんばせは朱に染まり、まあるい瞳の端にはわずかに涙が溜まっていた。
「あんたが『くれ』って言ったから作ってきたんじゃない! 悪い」
廊下全体に響かんばかりに少女は叫ぶ。怒りが見て取れた。それも全て照れ隠しなのは、その顔を見れば明らかだ。
グレイスの言葉に、少年はふと口元を緩める。
チョコレートが欲しい、とねだったのは昨年のことだ。それを忘れずにいてくれた。しかも、律儀に守ってくれた。それだけで、胸の内に温かなものが広がっていく。心が何かでぎゅうぎゅうに満たされる。彼女といると、いつもこうだ。不思議と、苦しさはなかった。
どこか悔しげに歯を食いしばりこちらを睨めつけるグレイスに、始果は眉端を微かに下げる。細められたイエローが、マゼンタを正面から見据えた。
「そんな怖い顔しないでください……。ありがとうございます」