たん、と小気味良い音を響かせて戸を開け放ち、志村は目前の光景に呆然と目口を開いた。部屋の内から、にちゃ、と淫猥な水音が立ち、次いで肌のぶつかる音が弾ける。
「ひっ」
「おお、何だもう見つかったか」
悪びれずに笑う石川の下で、背後から組み敷かれ、床に膝をついて俯せに伏している正の喉が引きつった声を漏らした。はあはあと荒い吐息を溢す唇から、とろりと唾液が糸を引く。石川の手が涎にまみれた正の顎を掴み、もう一方の手が胸に回されぐいと引き上げる。
「あっ、やあぅ」
膝立ちの姿勢で上体を抱え上げられ、石川の腕のなかで小袖のはだけた正の体が露わになる。薄らと体毛に覆われた逞しい胸は忙しない呼吸に喘ぎ、胸の先にはぽつりと赤く熟れた実が膨らんでいた。白い肌はしっとりと汗ばみ、股間の茂みからは立派な雄の証がしっかりと天を向いて聳え、切っ先からとろとろと滴を溢して震えている。
じいっと正の体に見入る志村をふんと鼻で笑い、石川が正の顔を志村の方へと向けさせた。
欲に溺れたように蕩けた黒い目が、志村を捕らえてぱちりと瞬いた。溢れた涙が石川の手に落ち、唇がふるりと戦慄く。声はなくとも、平素は表情の乏しいその顔には雄弁にしくじったと書かれていた。その耳許に唇を寄せ、石川が低く笑う。
「ほれ、義兄殿が来たぞ」
「あに、ぅあっ」
志村を呼ぼうとした正の声が、石川が尻を突き上げたことにより高く跳ねて途切れる。ぱちゅ、と尻から水音が弾け、体ごと揺さぶられた正のものが滴を飛ばす。ぱたぱたと小さな音を立てて床に落ちた染みに眉をひそめる志村に、石川がまた楽しげに笑いながら抱え込んだ正の尻を容赦なく穿つ。
「おう、義兄殿は不機嫌のようだ」
石川の手が胸の肉を掴み、腫れた粒を指の又に挟み込む。正の両手はすがるように石川の腕を掴んでいた。
「ひっ、あ、ああっ」
正がびくりと体を震わせながら、閉じられぬ唇から感じ入った声を上げた。だらだらと溢れる唾液が顎を掴む石川の手を濡らし、糸を引いて床に落ちる。た、と床を打つ微かな音。それが耳に届くと同時に深く刻まれた眉間の皺に、石川が面白くてたまらないとでも言うようにひょいと眉を上げる。
「あまり汚すと儂まで怒られそうだな」
そう嘯きつつも石川は正の体を揺さぶって飛沫を飛び散らせ、片手で肉付きの良い胸を揉みしだきながら正の口のなかにもう一方の指を押し込んだ。
「ふあっ、あ、あぃ、うえ」
指に舌を弄ばれながら、正のもつれた声が志村を呼ぶ。すっかり熱に浮かされた目に涙を浮かべた正は、志村をすがるように見つめていた。
「お主ら、何をしておる」
低く引きつった声が、志村の喉から溢れる。抑えきれない怒気の滲んだ声に、石川の腕のなかで正がひくりと体を震わせた。ちらりとその顔を見やり、ようやく腰を止めた石川が目を細めて志村を見る。志村の鋭い視線を受け止め、弓取りは肩を竦めながら軽く正の体を揺さぶった。
「ひぅ」
正がひゅっと息を呑み、また股間から滴を飛ばした。そのさまに、また志村の眉間に皺が寄り、目に剣呑な光が宿る。
「何、こやつが燻りをもて余しておったのでな、仕方なく儂が相手をしていたまで」
「仕方なく、だと」
呻くように答えた志村に、石川がふんと鼻を鳴らす。
「いつまで経ってもお主が戻らんからだ。待ちくたびれたこやつに押し倒されたのは儂の方だぞ」
のう、と嘯いた石川の視線を追って正に目を向けると、正は気まずそうに志村から目を逸らしていた。
成る程、先刻顔にしくじったと書いていたのはその為か。
確かにそれでは仕方がない。はあ、と重くため息を吐くと、びくりと体を震わせた正の視線が、おそるおそる窺うように志村の顔に向けられた。
「あに、ふえ」
石川の指を咥えたまま、正が頼りない声で志村を呼ぶ。志村は正に答える代わりに石川に声をかけた。
「定信」
「ん? おお、すまぬ忘れておった」
志村が視線だけで促すと、苦笑した石川がようやく摘まんでいた正の舌を解放した。正はふぅと息を吐き、舌を引っ込めて口を閉じるとごくりと喉を鳴らした。口から離れた石川の手は、志村に見せつけるように正の脇腹を撫で下ろし、浮き出た腰骨を掴んだ。ひくりと小さく体を震わせた正は、志村を見つめて口を開いた。
「義兄上」
「申し開きがあるなら申してみよ」
ぴしゃりと告げて正を見据えたまま腕を組むと、正はそっと目を伏せた。
「どうにも、収まりませんで、その」
歯切れの悪いことばが、正の唇からぼそぼそと溢れる。その間も石川の手が正の胸や腰を撫で回し、正は時折ひくりと体を震わせては声を途切れさせていた。
苛々としながら、顎をしゃくって正に先を促す。
「ちょうど手近に、石川殿が」
「何だ、儂はその辺の石扱いか」
「そのような、っあ、ま、っひ」
茶々を入れた石川がゆらゆらと腰を揺らめかせ、途端に余裕を失くした正が悲鳴染みた嬌声を漏らして石川の手をぎゅっと掴んだ。そのくらいでは石川が止まるはずもなく、一度引かれてぶつけられた腰がぶつかり合い、ぱんと音を弾けさせる。
「成る程」
正の言い分に納得できたわけではなかったが、どこの馬の骨とも知れぬ奴ではなく石川を選んだのはまだましだと思えた。石川ならば一度まぐわったからと言って、面倒なことになることはないだろう。己がまさしくその面倒なことになっているのに思い至り、志村は石川に揺さぶられて喘ぐ正の姿を前に大きくため息を吐いた。
ただ幾度かまぐわったことのある義兄弟というだけで、正が志村に操を立てるべき理由は、何もないのだ。それでもいつの間にか正が欲するのは己だけだと思い込んでいた自惚れを裏切られ、志村は内心臍を噛んだ。熱を冷ませるなら、他のだれでも良かったのか。否、正は誰彼構わず誘うような淫乱ではない。そう思いたくとも、現に正は今、石川の手で気持ち良さそうに鳴かされている。
「あ、んうっ、あっ、いぅ、えっ」
石川に尻を突き上げられながら、正が志村を呼ぶ。すがるように石川の手を掴んでいた正の手が志村の方へと伸ばされ、すっかり蕩けた黒い目が、懇願の色を浮かべて志村を映す。涎を垂らしながら震える唇が声もなくもう一度義兄上、と呼ぶのを見て、志村は重いため息を吐きながらふたりに近づいた。
「ん? 何だ、代わるか?」
「もう良い」
この期に及んで代わる気などないだろうに。石川の戯れ言にすげなく返し、志村は石川に抱えられ膝立ちになっている正の前にどかりと腰を下ろした。
見上げた先で、正は荒い息を溢しながら呆然と志村を見つめている。その目を睨みつけるようにまっすぐに見据えた志村は伸ばされた正の手を取り、指を絡めて握りしめるとにこりと微笑んだ。
「ここで見ていてやる」
志村の言に声もなく息を飲んだ正の背後で、石川が心底愉快だと言わんばかりの笑い声を上げる。
「はっ、良かったなあ、正」
「あにう、え」
こくりと正が喉を鳴らし、指先がきゅうと志村の手を握り返す。その目に溜まった涙が、石川がまた腰をぶつけたせいでぽたりと落ちる。
「あ、あっ、あ」
志村と視線を合わせたまま、正が開いた唇から舌を覗かせて喘ぐ。石川の手が掴んでいない方の胸の手を伸ばした。しっとりと汗に濡れた肌を撫で、ぷくりと膨らんだ胸の先を指先で弾く。
「ひぅっ、んあ、あっ」
ひくんと震えた正の体が石川に突き上げられてまたがくんと跳ねた。指先が逃げた胸の先を追い、きゅっと摘まみ上げる。
「ふ、締まった、な」
「正」
くつくつと笑いながら石川に揺さぶられ、正の目がぎゅっと閉じられて赤く染まった眦から涙を溢れさせた。目を開けろと正を呼ぶと、光る睫毛がそろりと持ち上げられる。志村に胸の先を転がされ、石川に尻を穿たれて、黒く濡れた目がまたじわりと湧き出た涙に覆われていく。
「あっ、あに、っふ」
繋いだ手に力がこめられ微かな痛みを感じながら摘まんだ胸の先を引っ張ってやると、正が唇をぽかりと開いて喘ぐ。声とともに唾液がとろりと糸を引いて唇から溢れ、志村の頬にぽたりと落ちた。
「正」
「あ、あぅ」
胸を抱いていた石川の手が腰へと滑らされ、支えを失った正の体がぐらりと傾いだ。石川にすがりついていた正の手が、目前にある志村の肩へと伸ばされる。志村も胸に悪戯していた手を離して倒れ込んできた正を受け止めた。
「くっ、具合の良い、尻だ、なっ」
「んうっ、ひ、ああ」
熱い吐息が首筋をくすぐる。石川は正の腰を両手でしっかりと掴み、容赦なく正を揺さぶり始めた。ぱつぱつと肌の弾ける音が響き、正の股間が揺れて飛ばされた飛沫が志村に降り注ぐ。
「出す、ぞっ」
石川が腰に指を食い込ませながら、一際強く正の尻を突き上げた。がくんと大きく正の体が跳ね、ぎゅっと志村の肩に爪が食い込んだ。正の耳許に唇を押し当て、熱い耳朶を食みながらことさらに優しく囁く。
「正」
息を呑んだ正の体が、ひくんと戦慄いた。正の背後で石川が小さく呻き、小袖の腹にびしゃりと濡れる感覚が広がる。
「は、あ」
ふう、と息を吐いた正が顔を上げ、泣き濡れた目が間近から志村を見た。その顎を指先で優しく撫で、志村は正の濡れた唇に吸いついた。