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    ぎの根

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    ぎの根

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    リク頂いた居候ネコチャンと飼い主のところに仁が泊まりに行く話。随時更新。

    「良く来たな」
     そうにこやかに仁を出迎えてくれたのは、かつての伯父である志村だった。昔と違い短髪だかやはり口髭を蓄えている志村に、改めて思わぬ再会となったこの間のことを思い出し、赤くなりそうな顔をごまかすようにぺこりと頭を下げる。
    「お邪魔します」
     正に連れてこられて以来訪れるふたりの部屋は、やはりやたらと広かった。通されたリビングの入り口で先日正に襲われた大きなソファから目を逸らし、ぶら下げていた袋を志村に差し出した。
    「これ、ビールです」
    「ああ、ありがとう」
     にこりと笑った志村が仁の手から袋を受け取る。手土産はいらないと言われたが、そう言う訳にもいかないと正に食い下がった結果、ならビールを買ってこいと仰せつかったのだ。それでも高くはない銘柄を指定する辺り、正の気遣いが表れていた。
     かつての父と今の正は余りにも印象が違いすぎて、気軽にメッセージをやり取りするようになった今でも未だに戸惑うことが良くある。それに比べると伯父は相変わらず落ち着いた上品な大人の男と言った風情で、仁はこっそりと胸を撫で下ろしていた。
    「ほんとに買ってきたのか」
     リビングの奥にあるキッチンから出てきた正が仁に向かって軽く手を上げ、志村の受け取った袋を見て軽く首を傾げた。
    「もちろん」
    「ありがとう」
     すまして答えた仁に、正はにこりと微笑んだ。どこか隙だらけなその表情はやはり何度見ても見慣れないせいか、胸の奥がどきりと音を立てる。気取られないように頷いて見せると、正に招かれた。
     ダイニングの大きなテーブルには、グラスや煮物といった摘まみらしき皿の他、真ん中にホットプレートが用意されていた。
    「今日はお好み焼きだ」
    「お好み焼き」
     満面の笑みで胸を張る正に思わずぱちりと瞬くと、正はくすくすと笑って仁の後ろに立っている志村をちらりと視線で指し示した。
    「似合わないだろう?」
     確かに似合わない。しかしはっきりとそう口にもできず、もごもごと言葉に窮している仁を前に志村はふうと呆れたようにため息を吐いた。
    「似合わんと言われてもな」
     それもそうだ。可笑しくなって思わずくすくすと笑う仁の肩を掴んだ正がそっと顔を寄せて仁の耳許で囁いた。
    「これでこの人、焼き方にはうるさいからな」
    「へ」
    「聞こえてるぞ」
     不満そうに呟く志村に向かって正がぺろりと舌を出して笑う。苦虫を噛み潰したような志村の顔に、仁も思わず声を上げて笑ってしまった。
     果たして正の言う通り、志村は焼き方に拘りがあるらしかった。とりあえず缶ビールで再会を祝した乾杯を終え、正が手にしたボウルからホットプレートの天板にキャベツのたっぷり入った生地を落とすと、仁の向かいに座った志村がさっさとフライ返しを手に待ち構えていた。
    「まだ肉も載せ終えてないですよ」
    「分かってる」
     苦笑しながら生地の上に豚肉を並べる正に、志村はむすりと顔をしかめて頷きながらもやはりフライ返しを持ったまま離そうとしない。
    「おまかせします」
     耐えきれずにくすくすと笑う仁に、正はほら、と言うように目をくるりと回して見せた。そんな正を志村がじとりと見やりながらビールに口を付ける。
    「正の作る生地は旨いんだが、焼き方が雑なんだ」
    「そうなんですか」
    「別に普通だよ」
    「いや、この前だって中が生焼けだっただろう」
     生地が流れ出たぞ、と文句を言う志村に、ボウルを流しに片付けた正がようやく仁の隣に腰を下ろしてひょいと肩を竦めた。
    「あのときは早く食べたかったんですよ」
    「だから雑だと言ってる」
    「だって早く貴方を食べたかったのに」
     仲が良いな、とにこにこしながら聞いていた仁は思わぬ不意打ちにぐっと息を詰めた。噴き出しそうになったビールを何とか飲み込んでけほけほと咳き込む仁の前で、志村が眉を寄せてはあ、と大きくため息を吐く。
    「正」
    「ん? あ、悪い」
     きょとんと首を傾げ、ようやく気づいたかのように仁に謝った正は全く悪びれていなかった。
    「いえ」
     態となのか無意識なのかわからないままどうにか息を整えて頷いた仁の目許に、すいっと何かが触れた。ぱちりと瞬く仁に、正がひらひらと濡れた指先を振って見せる。
    「涙出てたぞ」
    「あ、ありが」
     と、と言い損ねた仁の唇があんぐりと開く。何せ目の前で正が仁の涙を拭った指をぺろりと舐めていたのだ。呆然としていた耳に志村の重いため息が響いてはっと顔を上げると、志村が仁に向かって小さく頷いた。
    「すまんな」
    「あ、いえ」
     顔が熱い。
    「何が?」
     分かっていないらしくきょとんと首を傾げた正には答えず、そろそろだと呟いて志村はお好み焼きをひっくり返した。
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