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    ぎの根

    書きかけポイ用

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    ぎの根

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    祓い屋と祟り屋のハロウィン小話。適当に書き進めたら着地点を見失った。

    「うわ」
     すごいね、と呟いた暁人の前を、仮装行列が通っていった。
    「だろ」
     しかし頷いて見やった先にいるのは、仮装した人間ではなく、ここぞとばかりに紛れ込んだマレビトだ。隠すこと鳴く姿を現し、意気揚々と行列に混ざって闊歩している。まるで人とマレビトの百鬼夜行だ。
    「あんなにいるんだ」
    「普段隠れてる連中まで出てきてるからな」
     のんびり観察している前を、行列が通過していく。この時ばかりはマレビトも何もせず、ただ楽しんでいるので退治することもなく見守るだけだ。
    「仮装してくればよかったかな」
     そう首を傾げる暁人とKKはいつも通りの黒尽くめだが、周りが派手な今日に限っては逆に悪目立ちしている。
    「不本意だがなぁ」
     舌打ちしながら顔をしかめていると、行列の方から、おーい、と声が聞こえてきた。誰だと顔を向け、見えたものに思わず目を瞪って咥えていた煙草を落としてしまった。
    「えっ、祟り屋さん!?」
     暁人が驚いて声を上げる。行列の上に浮かんで近づいて来たのは、印使いだった。
     但し、ひどく大きい。
     いつも通りの装束に包まれた全身がぱんっぱんに膨らんで丸くなっている上、被った笠の上には黒い猫耳らしきものが生えていた。
     ふよふよと浮いて進んできた巨体は、ふたりの前でふわん、と止まった。
    「久しいな、祓い屋」
    「ああ、てかお前ちょっと見ない間に膨らんだな」
    「仮装に決まっておろう」
     何を言っているのだ、と馬鹿にするように呟いて膨らみすぎてなくなった首を傾げる印使いに、んなことは分かってるよとぶっきらぼうに返す。暁人はおもしろそうに印使いを見上げていたが、はっと気づいたように手を叩いた。
    「わかった、猫又の仮装ですね!」
    「そうだ。なかなかの出来だろう」
     よく見ると、ほぼ球体のように丸くなった体の下の方から、二本の長い紐というかホースのような尻尾らしきものが伸びていた。確かに猫又の元締めもでかいが、ここまで丸くはなかった気がする。
    「猫又、ねえ」
     猫又と言えば猫又だか、如何せんいつもの祟り屋装束の主張が強すぎてよくわからない化け物になっているとしか思えない。だいたい、なんでこんなに膨らんでるんだ。首を傾げて丸い塊を見上げる。
    「そりゃ風船か?」
    「風船ではないが、まあそろそろ飽きたし、降りるとするか」 
    「は?」
     降りるって何だよと尋ねる間もなく、丸々とした印使いの体から、にょきっといつもの印使いの頭が生えてきた。
    「うわっ」
    「よいせっと」
     丸い方の印使いから、ずるん、と片方ずつ両手が引き抜かれ、人の姿の印使いが上半身を持ち上げて抜け出てくる。
    「おま、こんなとこで脱皮すんな!」
     慌てて周りを窺うが、賑やかな行列に気を取られて黒く丸い塊から何か生まれ出ているのに気づく気配はなかった。
    「脱皮とは失礼な」
     いくら私でも傷つくぞ、と戯れ言を漏らしながら巨体から離れてべしゃっと音を立てて地面に降りた印使いの体は、さながらろくろ首の首のようににょろにょろと長く伸びていた。
    「へ、へび?」
     さりげなくKKの体を前に押し出して背後に隠れた暁人が呟く。その体を前に押しやろうとしながら、印使いに怒鳴る。
    「やっぱり脱皮じゃねえかよ!」
    「脱皮ではないと言うに」
    「じゃなんだよ」
    「お色直しと言ってほしいね」
    「はああ?」
     思わず猫又から蛇へのお色直しなんて、そんなものがあってたまるか。
     呆れるKKに構わず、印使いはふんと腕を組んで胸を張った。
    「私が何の姿になったかわかるか」
    「だから蛇だろ」
    「蛇ではない。ヤマタノオロチだ」
    「いやどこがだよ」
     ただ下半身がにょろにょろと伸びた蛇じゃねえか、と吐き捨てると、印使いはよく見ろと腰の辺りを指差した。仕方なく目をやると、ベルトの上に形代のようなものがにょきにょきといくつか生えていた。念の為数えてみると、七つある。
    「どうだ」
     偉そうにドヤる印使いに呆れてため息を吐くと、あれ、と暁人が首を傾げた。
    「でも尻尾はひとつですよね」
    「む」
     気づいてしまったか、と印使いが肩を落とす。
    「材料が足りなくなってしまってな、仕方なく尾はひとつになったのだ」
    「やっぱり蛇じゃえねかよ」
    「頭は八つあるのだからヤマタノオロチだ」
     飽くまで蛇ではないと言いたいらしい印使いに面倒になって、はあそうですかとやる気なく吐き捨てる。もう行列は通り過ぎたし、そろそろ帰るか。
    「暁人、そろそろ帰るか」
    「そうだね」
    「何だもう帰るのか」
     まだもう一種類あるのにな、と嘯く印使いに暁人が苦笑し、そういえば、と瞬いた。
    「棒使いさんと射手さんはどうしたんですか?」
    「ああ、あ奴らならあそこだ」
     そう印使いが指差した先、行列を隔てた向こう側には、いつもの衣装の笠に猫耳をつけただけの雑な仮装のふたりが、山のように盛ったたこ焼きを食べていた。こちらに気づいた射手が顔を上げたかと思うと、ひらひらと手を振っただけでまたすぐにたこ焼きに向き直った。棒使いに至っては顔を上げもせずに雑に片手を振っただけだ。よほどたこ焼きが美味いらしい。
     ふたりの方を眺めたまま、暁人がぽんと肩を叩いてきた。
    「ねえKK」
    「何だよ」
    「晩ごはん、たこ焼きにしよっか」
    「あー、そうだな」
     なんでもいいからこいつから離れたい。適当に頷いてさっさと踵を返した後ろで、暁人は律儀に印使いに別れを告げていた。どうでもいいが、猫又の屋台じゃないだろうな。
     
     
     
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