半分こ今日は熱帯夜だ。
既に日付が変わり、深夜帯の時間なのに蒸し蒸しとした熱気が部屋中を覆い尽くしていた。
いつもは窓を開けながら扇風機を首振り設定にして眠っているのに、今回ばかりは扇風機の不調により外からの空気でしか涼しさを得ることが出来なかった。
しかも熱帯夜だけあって外からの空気も暑く、寝苦しい時間を過ごしていた。
「……ん…眠れない…」
畳の上に薄めの敷布団を敷き、その上に、これも薄い掛け布団を羽織っていたが、あまりの暑さに耐えきれず、モモは掛け布団を剥がし熱を放出させた。
そしてムクリと起き上がり、手を団扇の代わりにパタパタと仰ぎながらシャツの隙間から風を送る。
暑さを凌ぐため台所へ行き水分を取ろうと起き上がった時、隣で寝ていた相方が薄い掛布団から身動ぎをし、目を覚ました。
「ユキさん、すみません!
起こしちゃいました?」
自分が動いたから起こしてしまったのか慌てて謝罪をする。
「いや、暑くて眠れなくて起きただ寝だから、モモくんのせいじゃないよ。」
謝られたことを訂正するようにユキも布団から出る。
「僕にもお水ちょうだい。」
モモは2つのコップにあまり冷たくも美味しくもない水道水を注ぎ、うち1つのコップをユキに差し出した。
相当喉が渇いていたのか、お互いコップ一杯の水を全て飲みほし、流し台に2つのコップを並べた。
「水を飲んでもあまり変わらないですね。」
「そうね。もっと冷たいものを口の中に欲してるって感じなんだよね。」
「そうですね……。
あ、良ければ今からコンビニ行って冷たいアイスとか買いに行きませんか?給料、この前入ったばかりなので今まで頑張ってきたご褒美ということで!」
家までさほど遠くない、24時間営業のコンビニへ2人は風のないじっとりとした夜道を並んで歩いた。
「そういえば、最近店長から軽く傷んだ野菜を商品にならないからって貰ってきたんですよ!良ければ使ってください!」
並んで歩きながら明るい調子でモモはユキに話しかける。
モモはユキと同棲を初めてから、居酒屋のバイトや歌やダンスのレッスンに励んでいる。
今日はバイトがオフという事もあり、2人の時間を作ろうとしている。
「ありがとう。モモくんにはいつも助けて貰ってばかりだ。僕も作曲頑張るね。
そういえば、この前新しいフレーズが思い浮かんできたんだけどアイス食べた後で聴く?」
「え!?いいんですか!?凄く聞きたいです!」
モモの表情はパッと花が開いたように綻んだ。
ユキはモモの綻んでいる時の明るい表情が好きだ。
綻ぶ顔を見ると、生活費は稼げない、包丁握るにも勇気がまだいる、曲が作れないなどの不安が消え、もっと彼を喜ばせたい、もっと僕に笑って欲しいという前向きになれるようになった。
コンビニの自動ドアをくぐった瞬間の涼しい風が暑さで湿った肌を掠めた。
そのコンビニは24時間営業って言うのもあり、品ぞろえが豊富なコンビニだった。
2人は早速冷凍コーナーに移り、色んな種類のアイスを眺めた。
「ユキさん、どのアイス食べたいですか?好きなの選んでください!」
ユキは、冷凍ケースの中にあるアイスを眺めた。
しかしどのアイスも1人分とはいえ深夜帯。ガッツリと甘いアイスを頬張る気になれない。
そう思い悩んでいると、隣にいたモモが呟いた。
「これ!懐かしいなぁー
小さい頃姉ちゃんと一緒に半分こして食べてたやつだ!」
「そうなんだ。じゃあこれを半分こして食べよう。」
「いいんですか?1個なり買わなくて?」
「なんかまるまる1つ食べる気じゃないというか…深夜帯だから?」
「確かに、そういえば今夜中でしたね」
そんな事を話しながら顔を見合わせて微笑みあった。
「味はどうします?
もも味、マスカット味、ぶどう味…」
「もも味にするよ。」
「え、マスカット味にしないんですか?」
「確かにマスカット、好きって言ったけど、モモくんと同じ名前のもも味がいいかなぁ…って」
最後照れ調子で答える。実際のところどんな味でも良かった。
でも何となくモモと同じ名前の味が食べたかった。
「そ、そうなんですね!じゃあこれ買って帰りましょ!ユキさんの新しいフレーズ早く聞きたいですし!」
ユキの言ってることを理解し、照れるように頬を赤らめるモモ。
2人はレジに向かい、コンビニを後にした。
東側の空が微かに白んで、夜明けを迎える準備をしていた。
「家に帰ってる途中で溶けちゃうかもしれないので、食べながら帰りましょ」
モモが先程買ったアイスを手に持ち、半分に割った。
だが、上手く割ることが出来ず、片方が大きく、片方が小さくなってしまった。
「すみません。上手く割れなくて…」
「いいよ。モモくん、大きい方食べていいよ。」
「ありがとうございます。じゃあ小さい方どうぞ」
ユキは小さい方のモモのアイスをもらい口に運ばせた。
ひんやり冷たさが口の中を巡り、後からモモの爽やかな味が口いっぱいに広がる。
今日は2人ともずっと家にいるということで、半分こにしたアイスを食べながら、帰路に着いた。