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    Micca1105

    twstBL 謎世界線の謎ジェイフロを生産

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    Micca1105

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    閑話。クリスマス。これだけ読んでも分からんけどとりあえずパスかけずに公開。
    ⚠現パロ・フがご都合両性具有・その他諸々捏造⚠
    気を抜いて書いていたらふざけてるターンが無意味に長くなりました。
    OaGには進捗度に関わらずシリーズをpixivで公開します。その後はまた引っこめるかもしれない。

    ##すれ違いジェイフロ
    #ジェイフロ
    Jade/Floyd

    知らない誰かの誕生日 毎年何もない、今年なんて調子がくそ悪い時期と重なっていてぐだぐだしているうちに過ぎたことに最近気づいたオレの誕生日から一ヶ月経っていて、ついでにジェイドとの契約生活を始めてからは一週間くらい経った。
     マットレスは届いたのだが、オレは整えたり敷いたりしまったりするのが面倒で結局まだ開封すらしていない。まあ、別にいいだろう。
     ジェイドと一緒に寝たくないときに使えばいいと思ったのだが、よく考えたらそういうときは外に泊まりに行けばいい話で、多少喧嘩をしたとてジェイドの家にいると結果的に宣言しているのは恥ずかしくもある。開封していないほうが勢いのままに飛び出しやすいかもしれなかった。

     カレッジに行ってもアーケードをぶらついても妙にみんな浮かれている。図書館すらドアを飾りつけはじめた。
     しまいにはジェイドまで、何か考えこみながらカレンダーを眺めてそわそわしていることがあった。

    「フロイド、ウィンターホリデー中に帰省のご予定は?」
     勘当されてんのにあるわけないだろ。と思ったが、ジェイドがオレんちのことを詳しく知っているはずもない。
    「ねえよ。あ、ジェイドは帰んの?」
     この家にオレだけになられたくないのかもしれない。他人だし。オレは一人頷いた。
     それならどうしよう、今貯まっているお金でウィークリーでも予約しておこうか。調べたことはないけれど高そうだ。アズールに泊めてもらおうか。
    「何日から何日まで?」
    「おやおや、僕を追い出したいのですか? 僕も帰りませんよ、混む時期に公共交通機関をあまり利用したくないもので」
    「なぁんだ、昨日アプリで知りあったオトコ連れ込もうと思ったのに」
    「……ふふふ、面白い冗談ですね」
    「うわやべ、めんどくせ。冗談だってば」
    「ええ、承知していますよ。ははは」
     目がというか、顔全体がまったく笑っていない。怖い。
     何がそこまで気に入らなかったのか分からないところがまた怖い。オレは二度とこのたぐいの冗談を口にしないと決めた。

     とっくに死んだ人間、しかも実在してたかどうかも分からないやつ、つうかこの国には全然関係なくてただのビジネスのタネになってるだけなのに──そういえばアズールがやけに金と赤と緑で注文を出してくると思ったら、そういうことか。あとイヴにはケーキ食べて。変なの。知らないし知る気もないやつの誕生日と前夜にもの食って遊ぶ意味って何? そもそも誕生日を祝うってのがオレにはよく分からない。生まれたからなんなんだ。

     ジェイドもそういうのには興味ないと思ってたけどな。
     冷える夜だ。
     ぜいたくに枕を二つとも抱えて顔をうずめながら、先にお風呂から上がったオレはベッドにだらりとうつ伏せる。入ってきたジェイドが転がるオレを見て、昼間に猫を見たときと完全に同じ雰囲気で目を細めた。やっぱオレの位置づけはその程度なんだなあ。店頭に並ぶオナホを見て同じ顔されるよりはマシだけど。
    「今夜のご気分は?」
    「ネコちゃん」
    「承知しました」
    「待って、何を承知したの? 話しあおジェイド」
    「猫ちゃん、自力でお尻をなめて綺麗にしてください。十秒以内に」
    「お前の中でそんなイメージなの、ネコちゃんプレイって?」
    「冗談はさておき」
    「冗談のセンスが人と違うらしいってちゃんと自覚できてるぅ?」
     うつ伏せたままのオレを撫で、ジェイドが隣に横たわる。
    「ブランケットを半分ください」
    「やだよ」
    「僕のブランケットでしょう。枕も」
    「しかたねえな……一つ貸してやるよ」
    「ありがとうございます、枕一つあれば呼吸を奪えますからね」
    「は」
     枕を持ったジェイドが嫌な笑顔でぐいと屈み眼前にせまってきたので、だからそういう冗談をやめろと言おうとした唇をふさがれ舌を入れられ、加減なしに深く貪られたオレはジェイドの髪を思いきりつかんで引き剥がそうとした。
    「んん〜! ぅ、む……ふぁ、はあ」
    「ふう。貴方は僕が禿げたら責任をとれるんですか?」
    「あー、責任持ってハゲ専の人探したげるぅ。それかスキンヘッドにしてタトゥー入れてピアスもバチバチにすれば?」
    「なぜ僕をその路線に行かせようとするんですか」
    「似合う似合う、オレ見たいな〜」
    「……いいですよ。代わりにフロイドも僕の見たい格好をしてくれますか?」
    「ん? いいよ。……いや待って」
    「ではまず上は完全に脱いで」
    「待ってって」
    「下は履いているものを足首までおろしてください。そのまま横向きになって、膝を抱えこむように足を胸に引き寄せろ」
    「敬語が急にとれるの怖いからやめて」
    「ふふ、ふふふ……」
    「あ?」
    「ふふ、あははっ、あ、貴方が……フロイドがいけないんですよ、僕がいるのに、あんなことをするから……」
    「迫真のヤンデレルート入るのもやめて」
    「冗談ですよ」
    「二度とオレの前で冗談を口にするな」
     今の数十秒で異様に喉が渇いた。
    「はあ……なんか飲んでくる」
    「僕の唾液ならありますよ?」
    「……」
     やめろと言っただろうと怒って冗談ではなく本気ですよと返ってきても困る。オレはベッドの上を転がってジェイドから素早く距離をとり、無言でキッチンに走りこんだ。

    「ホットミルクでもお作りしましょうか? シナモンシュガーを入れて」
    「のど渇きそ……」
    「ではお水も飲みましょう。ドライジンジャーも一欠片入れましょうか。生の生姜はすぐに身体を暖めてくれますが冷めるのもすぐです。乾燥させたものはじわじわゆるやかに暖めて、熱を保ってくれるのです」
    「いや水もって、水が飲めればいいんだけどオレ。なに作りはじめてんだよ、お前が飲みたいだけだろうが」
     なぜかついてきたジェイドがなぜかホットミルクを作りはじめる。ぼーっと見ていたらフライパンまで準備しだした。

    「どうぞ」
    「なんでぇ……?」
     テーブルにいい香りのホットミルクと一緒に、大皿に乗ったココアパンケーキが置かれる。添えてあるのはおそらくマスカルポーネクリームという名前のカロリーだ。
     まあ、食べてもいいか。最近起きるのが遅くて朝食はとっていないし。フォークで雑に切り分けて口に運ぶ。
     バターをたっぷり吸った表面は焦げる直前まで水分を飛ばされてカリカリ、中はふわふわ軽い。まんまるの三枚はどれも同じ大きさだし、火のとおし方にむらもなく同じ食感だ。
     ジェイドはこういうのが得意だし、世の中ではこういうのが求められやすい。中身は変なやつなのに世の中の枠に合わせたことができるって、中身が変で行動もそのまま変なやつよりすごいんじゃないだろうか。
     ジェイドは飲み食いするオレをやっぱりあの、猫を見る顔で眺めていた。

    「で、何? なんか変だよジェイド。クリスマスまでにオレを太らせて食おうとしてる?」
    「ああ……」
    「それもいいなってニュアンスの相槌やめろ」
    「肉づきが良くなった貴方とするのはどんな感じなのかと、少し想像しました」
    「やめてよぉ……露骨にセクハラされるよりなんか嫌だ……」
    「これも露骨なセクハラだと思いますが」
    「やっぱりそういうつもりだったんだ……。今の録音したから。総務課に提出してくんね」
    「ま、待ってください! 僕が妻子持ちと知っていながら誘いをかけてきたのは貴方じゃないですか!」
    「ふん、なんでお前にオレが本気になると思ったわけぇ? でもそーだなぁ、誠意ってやつを見せてくれるなら総務課には行かないし、奥さんにも黙っててあげるけどぉ?」
    「そんな写真いつの間に……! まさか最初からそのつもりで…… 貴方の禿げているところが好きと言ってくれたのは嘘だったんですか」
    「ジェイドハゲてんの?」
     設定の収拾がつかない。時計を見ると日付が変わっていた。
    「ねー、今日の夕ご飯何? オレ数日前からお肉が食べたくてさあ」
    「ふむ、ビーフストロガノフですかね……。買ってはみたものの今の時期のトマトはあまりおいしくありませんでしたし、サラダにするには熟しすぎました」
    「煮込むんだったらハンバーグがいいなあ」 
    「ではそのように。挽肉は買わなければなりませんね、お買い物は一緒に行きますか?」
    「うーん……ん? ちげーよ、誤魔化すなよ。なんでオレのこと太らそうとしてんの?」
    「太らせようとしているわけでは。それに、始めたのはフロイドだったのでは?」
    「ハゲたのはジェイドだろうが」
    「まだ禿げておりませんが……」
    「……ん? また話ずれたぁ、ジェイドがそうやってノるから駄目なんだろうが。お前が悪い」
    「それは失礼しました」
     
     この夜二度目の歯磨きを終えてベッドに戻る。お腹が少し、いやかなり苦しい。起きたら昼までなにも要らないかもしれない。ジェイドは朝から食べられるのだろうか。
     ジェイドが電気を消して、オレが丸まっているブランケットを剥ぎとりながら隣におさまってくる。
    「……せっかくなので、プレゼントを贈りたくて。しかしよく思い返してみれば貴方は何も欲しいと言ったことがないのです。なのでフロイドはどんなものを好むのか、それとなく探りたかったのですが」
    「それで挙動不審だったの?」
     深夜にパンケーキを食わせて何が分かると思ったんだ。
     ジェイドの形をした暗闇は、言いづらそうに息を小さく吐いた。
    「普段は迂遠で周到な策と搦手ばかり用いるせいで、ストレートに確認しようと思ったのですがどうしていいか分かりませんでした」
    「なんだそれぇ」
     もはや病的だ。なんでもそつなくこなすイメージがあったけれど、そうなんだ。ジェイドの一面を知れた嬉しさで勝手に口元がゆるむのを感じ、この暗さでは見えないだろうけれど引き締めなおした。
    「フロイドは何が欲しいですか?」 
    「んーとぉ……」
     なんでそんなことがしたいのだろう。それこそジェイドにもらったお金でちょっとしたものはかなり自分で買ってしまっていたし、ぱっと思いつかない。手の出ない値段の気になっている靴はあるが、あれは頼みたくない。オレのって感じがしないから。そうすると、どう答えればいいだろうか? ジェイドにもらいたいもの。
    「ジェイドがいいなあ」
    「……はい?」
     怪訝そうな声に我に返った。
    「あー、ジェイドが選んでよ適当に。何持ってくんのか興味あるわ。ジェイドの選んだものが欲しいな〜」
     焦って、必要以上に言葉を重ねた気がする。ジェイドが黙っているのでひやひやしたが「適当に、ですね」と面白がる声が返ってきた。

     一昨日から空に雲はなく、今日は少し暖かいと感じるぐらいの気温だ。雪どけは汚い。道がぐっちゃぐちゃで、靴がすぐに濡れてしまう。耐水性のあるスノーブーツでも頼めばよかったなんてカレンダーをちらりと見ると、どうやらクリスマス・イヴが数日後にせまっている。
    「あれ」
     今まで思いいたりもしなかったが、オレからもジェイドに何か贈るべきなんだろうか。ジェイドがオレにプレゼントをしたいだけで、交換しようとも言われていないから要らないんじゃないだろうか。でもなあ。
    「何がいいんだろ……」
     ピアスは増やさないと言っていた。身につけるものはこだわりがありそうで面倒だ。ネクタイをきっちりしていることが多いし、ネクタイピンぐらいならどうだろう? ハンカチだとか。
     しかし調べると、プレゼントするものにはそれ自体に意味がこもるらしかった。ハンカチなんて縁を切りたいという意味もあるらしい。そういう意味じゃないこともあるらしい。なんだそれは、面倒だ。
     恋人に贈るんじゃなきゃ意味を持たないかもしれないけれど、なんだろう? 一番近いのは、セフレ? から贈られても色々邪推してしまいそうで、やっぱり面倒だ。
     こんなに大変だとは思わなかった、ジェイドはよく面白がっていられたな。でもジェイドはこういうのが好きそうだ、なんとなく。色々調べたり、張り巡らせたり、種をまいて実らせて収穫したり。

     もし、オレがジェイドの恋人だったら、プレゼントを選ぶのは楽しいのだろうか。ふと頭をよぎったのは仮定というよりみじめな願望で、目の前をとおり抜けた甘ったるいイメージにも現実とのギャップにもそれを考えた自分にもうんざりして、どんどん嫌になってきた。

     検索をやめたスマホをベッドに放り投げて、仰向けに転がって欠伸をした。ほんの少しだけ開いた窓と、さらりと揺れるカーテン。快い気温と肌ざわり。萎えた気持ちをなだめるように髪と頬をくすぐる、季節にふさわしく冷えてきた午後の風。
     替えられたピローカバーに、情事の欠片もにおわせない清潔なシーツ。ぴんと張って整えられたそれを、遊ばせた脚でぐしゃりと乱した。
     いっそ枕でもあげようか。二つとも気づくとオレが使っていて、起きたらジェイドは枕から追い出されていることがよくあった。
     しかし、この寝具たちも質が良さそうだし色にもこだわっていそうだ。調べたらまた何か面倒な意味を持つ贈り物かもしれないし。ため息をつく。
    「はあ。イヴはなんかギフトっぽいの売られてるでしょ。アーケード行って目についたお菓子でも買お……」
     
     イヴは朝から大雪だった。それにも関わらずアーケードには人が多くて、と言うよりアーケードだから他のところより多いのかもしれない。
     小魚の群れのほうがマシだ、あいつらは群れだからまとまってうごくもの。なんだこの混沌は、とうんざりしながらオレはキラキラするウィンドゥを見渡す。
     以前おいしかったので目星をつけていたショコラトリは、どうやらオレが気に入っていたボンボンショコラの考案者が国に帰ってしまったらしかった。その商品は店頭に並んでいなくて、だったらどうしようもない。
     人のかたまりを避けながら歩いていたら辿り着いたフラワーショップには、柊のリースと赤い薔薇の花束がたくさん。リースなんて今残っていたら売れ残りなんじゃないだろうか。いつから飾るものなのだろう、疎くて分からなかった。
     ここまで数が揃っていると、お祝いやパーティというより偏執的な魔除けっぽい。日常的な切り花や鉢植えもあるのか。じっくり見たことのないお店がなんとなく物珍しくてそのまま奥を眺めると、ターコイズブルーが目についた。

    「……これは?」
     目の前のテーブルにどんと置かれた鉢植えに、ジェイドは本気で驚いているようだ。読んでいた本を傍らに置き、ソファーに座りなおした。
    「これはねぇ、プレゼント。ヒメヒスイカズラっつうんだって。この色のお花なんて珍しいでしょ? 綺麗だからあげる。翡翠ってジェイドだし。こっちはオレのスノードロップ、白くてかわいかったからついで。でもオレ育てらんないからジェイドが世話してねぇ」
    「ヒスイカズラ? あれはかなり大きな植物だったような……ヒメヒスイカズラとおっしゃいましたか? ふむ、小さく改良されたものが出たのですね」
    「そんなこと言ってたかも。聞いてないけど」
    「……ありがとうございます。植物の鉢とは、ふふふ。予想外でした、嬉しいです」
     ほんの僅かに頬に朱をのぼらせ、ジェイドが呟くように鉢をそっと撫でた。
    「それで、こちらは……フロイドの、とおっしゃいましたか? なぜこれを?」
     うつむくヒガンバナ科の白い花に触れながら紡がれる言葉に、おそるおそる探りをいれる気配を感じてオレは首を傾げた。
    「白くてかわいかったからってば。緑が混じってて並べても合うし」
    「そうですか。ええ、可愛らしい花ですね」
     オレの顔をじっと見ていたジェイドが表情をやわらげ、花に視線を落とした。
    「生育に適した環境が随分違いそうですね……ヒスイカズラのほうはカレッジの植物園に……」
     ぶつぶつ言いながら考え、「いえ、やはり二つ一緒にこの家に置いておきたいですね」と結論を出して部屋の中を見まわした。最適な置き場を計算しているのだろう。
     鉢植えなんて嫌だったかもしれないな。真剣な横顔を見ているうちにふとそう思い当たった。
     ハンカチならすぐ捨てられるのに、ずっと生きてて世話しなきゃないものなんて。しかもオレ、こっちはオレのなんて言って渡しちゃった。
     でも、ジェイドはもしオレに興味がなくなったら植物もさっさと処分してしまうだろう。それこそ植物園に持っていったのか捨てたのか、数日前までテラリウムがあった空虚を見つめながら確信を噛みしめた。
     まあいいか。今のジェイドにはオレからのプレゼントを喜んで世話しようという気持ちがあるんだし。金払いはいいからまあまあ高かったヒスイカズラも痛手じゃないし。

    「フロイド」
    「あー」
     拗ねた気持ちになっていたオレが壁に寄りかかりながら返事というより鳴き声で反応すると、ジェイドが少し座る位置をずらしてこちらへ、と隣を指した。
    「僕からのプレゼントです」
     そうだった。俄然わくわくしてきて、オレはぽんとジェイドまで弾む勢いでソファーに座った。なぜかジェイドが慌てる。
    「そうだったぁ、何くれんの?」
    「今、すごく弾みましたね。まあ……空気に触れていなければ多少の攪拌に問題はないと思いますが」
     
     差し出されたのは黒く小さな袋だ。巾着状に、上部をベルベット風の光沢がある青いリボンで結ばれている。
     なんだろう。両手で差し出されたそれをとると案外重く、感触からして中には四角いものが入っているらしい。リボンを解くとこれも黒い小箱があらわれ、優美に流れるような金で箔押しされた、文字というより絵のようなデザインの「Schönheit」が目に入った。

    「え、シェーンハイト? あの?」
     あの、超高名モデルが監修してる、ルージュどころかリップブラシ一本でも超高いくっそ高級な? なんでそんなものをオレにと、動揺で声が揺れた。実家でも見たことない。いやオレがいるときはまだ、このブランドはなかったか。
     まあ、くれるってんならもらう。
     それにしてもジェイドは案外、モテないタイプなのかもしれない。こんな付き合いのオレにこんなん贈るようじゃ、恋人ができてもいきなり重いものをプレゼントしちゃって引かれそう。
     というか、中身はなんだ? オレはジェイドが落ち着かなげに見守る視線を意識しながら、リボンと袋を膝の上に落として箱を開けた。
     
    「あ」
     金のキャップにおそらくクリスタルガラスの小瓶。そっと取り出すと、ポンプスプレータイプの、やはり香水だった。シンプル故に目を奪われる、黄金比であろう直方体のガラスに完璧に透明な液体が入っている。
    「トップノートはラベンダーと甘めのグレープフルーツに、やや残るのがレモングラス。ハートノートはローズを中心に。ラストノートはサンダルウッドがベースです」
    「その言い草、まさかオーダーメイド? てかその香りって」
     お風呂の。オレの言いたいことを理解したジェイドが目を細めて笑んだ。やっぱりそういう意図でわざわざ選んだのか。
    「なんでその香りにしたわけぇ?」
     つけたら余計なことまで思い出しそうではないか。なんて嫌な男だ、香水なんて確実にオレに贈るものではないだろう。いや、オレだから? お金払ってる側の余裕? だとしたら最悪。それとも単にプレゼントのセンスが壊滅的なのかもしれない。悩んでいたし。
    「だって」
     顔を寄せてきたジェイドがにいと夜の顔で笑う。オレは思わず身体を引くも、やわらかい背もたれにぽふんと押し返された。
    「思い出してほしいじゃないですか、いつでも」
    「な、なんで」
     それには答えないジェイドが唇にそっと唇で触れる。次は舌で。オレは混乱してされるがままだ。しだいに口づけは深くなり、ジェイドの手がさらりと服越しに腰を撫でた。

    「ホリデーが明けたらカレッジにぜひ、その香りをまとって通ってくださいね。僕を思いながら・・・・・・・
     数十秒のキスの後、あっさり身体をはなしたジェイドがいつもの外ヅラで微笑みながら言った。
     どういうつもりなのか。道具や新しいことを試したがるやつだし、おそらくこれもプレイの一環なのだろう。
     全然知らないやつの誕生日の前夜にこんなことしてる、されてるオレって何してんだろう。身体は妙に高揚して、気分は冷たい海みたい。やっぱり楽しいイベントとは思えない。
     
     嫌な男だ。いやな、……。

     窓の外では雪がひたすらに、今夜は隠さなければならないことが多いとでもいいたげに音を吸いこんでいる。

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