Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    piiichiu

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 16

    piiichiu

    ☆quiet follow

    6回目のミトヨヘ。犯人はハナ。習作です。

    コレって何回目なんだっけ、と思った時、数えるのは花道の死に方だった。

    1度目は銃で撃たれて、2度目は車で轢かれて、3度目はまた撃たれて、4度目は刺されて、5度目は崖から落ちた。
    だからこれは6度目だ。

    花道の死に様を思い出して、洋平は意識して深く息をゆっくりと吐く。思い出して楽しいものではない。己の情けなさにも嫌になる。初めから気づくべきだった。洋平は何度も繰り返して花道の死を阻止しようとしてきたが、途中から誰かに邪魔をされているんじゃないかという感覚が付き纏っていた。なんでそこにいる!?と言うところに、花道がいるのだ。洋平の行動を、誰かが花道に告げているとしか思えなかった。洋平は、ずっとそれは憎きあの男だと考えていた。竜堂。1度目と3度目と4度目に花道を殺した男だ。玉川組若頭竜堂組組長。あのニヤケヅラのクソ野郎。

    だが、4回目の時、洋平は邪魔者は野間忠一郎なのだと思った。

    何故なら、3回目の最期の時、洋平があの場所にいると知っていたのは忠だけだったから。憎たらしいアイツらを全員殺せる絶好の機会だった。花道はその間、関西にいる手筈だった。なのに、花道は来た。念入りに、念入りに計画してきた。花道にそれを漏らしたのは、忠以外に考えられなかった。少なくとも、その時洋平はそう考えた。

    ところが前回、5回目に、それは間違いだったとわかった。


    花道だった。


    ずーーーーーっと洋平の邪魔をしていたのは、花道だったのだ。

    2人して血塗れで崖の下に横たわって、花道は何でもないことみたいに種明かしをしてくれた。
    オレは時々しか出てこれない。でも今までのことちゃんと覚えてるオレが時々出てきて、そんで洋平がバカなことしてたら止める。洋平が危なかったら、助ける。当たり前だろ、って。

    それを聞いて、やっとメチャクチャ腑に落ちた。
    花道に今までの記憶があるならーーーー今までの記憶が戻る瞬間があるなら、洋平の行動が筒抜けなのも不思議ではない。忠、疑ってスマン。つまり洋平が花道を死なせないようにしている裏で、花道も洋平を死なせないようにしていた。そこで初めて、洋平は自分が大分破滅的な行動を繰り返していたことに気づいた。花道の幸せのためなら、自分を一番使い勝手のいい手駒のように消費しようとしていたことに気づいた。花道がそんなことを許すはずがないことを、ここ数回は完全に忘れていた。

    「オレ、バカだなあ」
    「オウ」 
    「花道は天才だなあ」
    「アタリマエ」

    花道が、おかしな方向に折れた足を引きずって、這いずってオレのすぐ隣までやって来る。血でベタベタした互いの掌を合わせた。くふふ、と花道が子どもみたいな笑い方をする。

    「やりなおし、これがさいごかもな」
    「なんで?」
    「だって、オレ、いまけっこうしあわせだもん。洋平がいっしょだから、さみしくねー。これがオレらのハッピーエンドなのかも」

    笑う花道が綺麗で、洋平は泣いた。
    悔しくて悔しくてしかたなかった。
    花道。
    なあ、そんなこと言わないで。
    こんなド田舎の冷たい山中で、血を失って体温を失って命が溢れていく体で、オレが隣にいるだけで幸せだなんて言わないでくれ。

    洋平は悔し涙を流しながら、花道の命が静かに失われていくのを、ずっと見ていた。


    結局のところ、崖の下の死は最後ではなかった。
    6回目。
    繰り返しは、いつも花道の親父さんの葬式の日に始まる。

    「オレがずっとそばにいるよ」

    その約束の言葉と共に。

    ***

    とにかくヤクザ関係に関わるのを断固として辞めよう、と洋平は決意した。
    二度目、四度目に通ったクソヤンキー高へは入らなかった。初めて、必死に高校受験の勉強をした。あの環境からの少しでも離れたかった。元々、花道から喧嘩を売ったことはほとんどない。ヤクザにだって、今までも進んでなったわけではなかった。花道には良きにつけ悪しきにつけ、周囲を惹きつける引力がある。ヤクザになった時もそうでない時も、力のある男は皆、花道を意識せざるを得ないようだった。
    危険な男ばかりを引き寄せるのだと思っていたが、これはどうやら普遍的な法則らしい、と今回初めて洋平は知った。

    湘北高校で、桜木花道はバスケットボールに出会った。

    バスケットボールをする花道は、美しかった。
    運命という言葉がよぎる。
    花道の手の中に、バスケットボールはぴったり収まるように見えた。
    体育の窓から刺す初夏の日差しの中で、花道の赤髪が眩しいくらいに鮮やかだ。血に塗れていない花道は、あやういほどに健やかだった。洋平はとりあえずバイトを入れた。金はあって困ることはない。花道。

    花道、花道、花道。

    もしかして、洋平と花道を何度も繰り返させてきたのは、バスケットボールの神様なのかもしれない。そう思わせるほど、バスケをする花道は綺麗だった。花道が、恐ろしい体力とパワーを持っていることはよく知っていたけれど、あんなに伸び伸びと高らかに跳ぶことを知らなかった。

    今度こそ。
    今度こそ、お前に幸せになってもらいたい。
    そのためなら、オレはもう何もいらない。
    そう思って全力で応援してきた。
    高校3年間、それから大学で2年間。大学在学中にアメリカに留学し、日本の大学もちゃんと卒業して、現在花道は華々しくアメリカで活躍している。

    すごい。
    さすが花道。
    よかった。
    やっと花道が幸せになって、本当によかった。

    そう思っては、いるのだが。


    溜め息のついでのように、煙草の煙を吐き出す。今生、洋平は刑事になった。ヤクザにならないと言う思いが強すぎたのだと思う。組織犯罪対策4課。竜堂をツブしたい気持ちは今もある。できれば殺したい。アイツを花道と出会わせてはいけない。花道がアメリカにいる間に、アイツを豚箱に入れておきたい。やることはたくさんあるし、やらなければならないこともある。花道はアメリカで輝いてる。うれしい。ほこらしい。

    さみしい。

    「……はなみち」
    「先輩のそのイマジナリーフレンドってどういう設定のひとなんスか!?」

    このデリカシーの雰囲気もない質問をしてきたのは、去年入ってきた新人の飯田だった。悪いやつではないが、全ての言葉の語尾に!がつくのがウザい。

    「……イマジナリーフレンドってなに?」
    「違うんすか!?神田さんが、水戸さんはよくイマジナリーフレンドのハナミチに話しかけるけどそれは気にするなって言ってました!!」

    神田あの野郎、しめる。

    「で、そのハナミチってどんなひとなんすか!?ア!バスケの選手にそーいう名前の人いますね!!」
    「…………花道は、オレの親友」
    「そーなんすか!!」
    「さみしがりやで、がんばりやで、やさしくて、つよくて、かわいくてかっこいい」
    「ステキなひとですね!!!」

    こいつ、このビックリマークがひとつふたつ減れば悪い後輩じゃねーのにな、と洋平は思った。声がデカすぎ。花道。花道は声は意外とデカくない。いや、声を張ればびっくりするほどでかい声は出せるが、普段2人で話す時は、意外に静かに話すやつだった。花道のあの甘い声で、洋平の名を呼ばれたい。花道。アメリカでがんばってる花道。洋平の誇り。うつくしくてつよくてよわくて泣き虫の花道。


    その夜、花道から電話が来た。

    「…………洋平」

    たったその3文字の音で、洋平は相手が『あの』花道なのだとわかった。

    「花道。どうした。なんかあぶねーのか。今どこだ」
    「ちがうよ。バカだな、ようへい。オレは、オレのためじゃなくて洋平のためにいるんだよ。洋平、オレはバカだから、ちゃんと言っとこうと思って。洋平、オレもさみしいよ。会いにこいよ。アメリカなんかすぐだぜ。2回目の遠さに比べれば。会いに来て。そんで、いつかオレは洋平のところに帰る。だから、…………洋平、オレのために、オレの洋平をちゃんと大事にしろよな」

    洋平は、ガチャンと受話器を置いて板の間に座り込んだ。
    花道ってワガママだよな。アメリカに行っちまったくせに、帰ってくるって。それって待ってろってことだろう。
    小さな憤りよりも、喜びが大きい自分にため息が出る。アメリカまでって、何時間かかるんだっけ。

    既に休暇をもぎ取る予定を脳内で組み立て始めている自分に呆れながら、洋平は数ヶ月ぶりの体の軽さを感じていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭😭😭👏👏👏😭😭😭😭👏👏👏👏👏👏😭😭💖💖😭😭💞❤👏🙏🙏😭💗💕😭💖👏👏👏👏👏😭😭😭👏👏👏😭👏👏👏💒💒💒💒💒💒👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works