出会い肌に感じる空気が昨日までと比べて暖かい。
南に進んで来たからか?と考えていると、アバンから声を掛けられた。
「ヒュンケル疲れましたか?もう少しで着きますからね」
「このくらい平気です」
つっけんどんに返事をする、緑あふれる樹々の下の通り道。
目の前の視界が開け、森を抜けた事を知る。
先の方角に小さな村落が見えた。
「暫くあの村に滞在します。私の親友の家にお世話になるつもりです」
今度は返事もしなかった。
勇者の知り合いの家なんて!
きっと先生みたいに無理にオレに笑いかけてきて、親切なふりをして、そして……
そんな事を思いながら歩いていたら、村の中の一軒家に到着した。
「さあ着きましたよ。
ロカ、レイラ、こんにちは〜!」
「おお!着いたかアバン」
建物の向こう側から男の大きな声がした。
「今ちょっと手が離せないんだ。中にレイラが居るから玄関から入っててくれ」
その言葉が終わるか終わらないうちに扉が開き女の人が姿を現した。
「いらっしゃい。我が家へようこそ!さあ、中へどうぞ」
陽だまりのような笑顔で話し掛けてくる。
それからオレに合わせて曲げていた腰を伸ばし、アバンへと視線を向けた。
「アバン様お久しぶりです。お元気そうで良かった」
「レイラも幸せそうで何よりです」
そんな大人の挨拶を耳にしながら家の中へと視線を動かすと
女の人のすぐ後ろで温かな色をした何かが動いたのに気がついた。
オレよりもずっと小さな子どもが、足元に隠れるようにしてこっちを見ている。
「あら?マァムもご挨拶に来たの?」
「かーたん、だりぇ?」
「お客さまよ。今日から家にお泊まりになるの」
そう言いながら足元に居たソレを抱き上げオレの目の前に持ってきた。
「さあマァム、こんにちは!」
「こちわー!!」
そう言うとソレは小さな手を伸ばし、お互いの左頬を合わせる挨拶をしてきた。
オレは驚き払い除けかけたが、自分より小さく弱い者に対してそんな乱暴な扱いは出来ず。
そのまま動けずに立ち尽くしていると
頬が離れていくと同時に、より柔らかでしっとりしたものが触れたのを感じた。
微かに聞こえたチュッという音。
「えへへ マァム、こちわした〜!」
「偉いわねマァム。ちゃんとご挨拶出来たわね」
顔を見合わせ笑い合う二人。
オレは視線も身体も動かすことが出来なかった。
オレが持っていたもの。
そして失くしたものが目の前にあった。