【曦澄】耳に心地よく瞼の裏に鮮やかに「貴方の字が好きだ。晩吟」
江晩吟。音韻を噛みしめるように口にする。己の字をとても美しいもののようにこの人は言う。
「字面もすっきりしている。無駄がなくすらりとして美しい。まさに貴方のようだ」
「そうか?」
「うん。私は貴方を字で呼ぶのが好きだ。韻が美しい。呼ぶ声が耳に心地いい。自分の声だというのに不思議だね。貴方に字を贈った方は趣味が良い」
晩吟。晩吟。藍曦臣が繰り返し呼ぶ。柔らかな声だった。ゆったりと広がっていくような声。
ああ、確かに。呼ぶ声が心地良い。己の字がこんなにも広がりを持った音だったとは。
「貴方の字も良い響きをしている」
藍曦臣。曦臣。自分がこの人を呼ぶ時、以前は号を、今は専ら字で呼ぶ。閨では藍渙と呼ぶこともあるが。どちらも好きな響きだった。
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