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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    takami180

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    恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上

    #曦澄

     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。
     今度は嘘ではないと伝わっただろうか。
    (俺はどうしたいのだろう)
     胸に手のひらを当てる。下衣の袷から指先を差し込めば皮膚の凹凸が分かる。傷の痕である。
    (何故、恐ろしいと思うのだろう)
     藍曦臣がこれを見たところで、気持ちを変えるとは思えない。そんなことは疑っていない。だからこそ、江澄は理由を見つけられない。
    (戻らないと……)
     自分の牀榻に戻って、眠らなければ。明日はたくさん飛ばなければいけないのだから。
     しかし、江澄は立ち上がる気になれなかった。


     江澄は息をのんだ。
     目の前に藍曦臣の顔がある。
     薄暗い中でもはっきりと見える近さだ。
     その距離で彼は微笑んだ。
    「おはようございます」
    「おはよう……?」
    「昨晩のことを覚えていますか?」
     江澄は首をかしげて、すぐに青ざめた。
     藍曦臣の牀榻にもたれかかって、無為に時間を過ごしたことは覚えている。そして、自分の牀榻に戻った記憶はない。
     まさか、あのまま寝てしまったのだろうか。
     そして、つまり、ここは藍曦臣の牀榻の中か。
     意識をすると、途端に顔に熱が集まった。背中には藍曦臣の腕がある。膝に触れているのは彼の足だ。
    「驚きました。夜明け前に目を覚ましたら、あなたがそこにいて」
    「すまない」
    「いえ、一晩中あそこにいたのですか」
     江澄はうつむいた。顔をさらしておけなかった。
    「悪いが、覚えていない。酔っていたし、寝ぼけたのかもしれない」
     下手な言い訳だというのはわかっていたが、正直なところを言えるわけがない。
    「そうですか」
     藍曦臣の腕に力がこもり、江澄は抱きしめられた。
     薄い掛布の下で、互いに中単のままで、はっきりと体温を感じる。
     めまいがした。
    「私は、寂しかったです。あなたが隣にいなくて」
     額を唇がかすめていく。
    「あなたに一緒に寝てくださいと言えばよかった。後悔していたら、あなたがあんなところで寝ていたものだから、運び込んでしまいました」
     体中に鼓動が鳴り響いているかのようだった。顔だけではなく、全身が熱い。
    「江澄、私は嬉しかったんですよ」
     藍曦臣は言葉通りやわらかな声で言う。
     そのせいで、江澄はよりいっそう顔が上げられなくなった。
     いくら隠そうとしても、藍曦臣には気持ちが筒抜けになってしまう。今だって、江澄の言い訳は見透かされている。
    「ねえ、江澄」
     やたらと優しげな声だった。むしろ、ねだるような響きだったかもしれない。
    「今なら、触れてもいいですか」
     藍曦臣の手が、ゆっくりと背中をなでた。
     江澄はびっくりして、身をすくめた。
    「あなたが嫌でないなら、少しだけ」
    「少し……」
    「ええ、絶対に嫌だということはしませんから」
     別れたら、しばらく会えない。
     胸の奥がしぼられるように痛む。
     江澄は自分の袷を握りしめた。
    「衣の、上からなら」
     耳のそばで、小さく息を吐く気配がした。
    「ありがとうございます」
     今度はちくりと針で刺すように胸が痛んだ。
     恋人に触れるのに礼を言うものだろうか。自分を相手にしたばかりに、彼は望むように触れることもできない。
     藍曦臣の手は、初めに江澄の髪をなでた。
     それから、耳をなで、首筋をたどり、肩を下りる。
     江澄はうつむいたまま、奥歯をかみしめていた。叫び出したい気分だった。
     こんなに優しく、あたかも大事なもののように、他人に触られたことはなかった。
     自分が壊れものにでもなったかのようだ。
    「江澄、嫌ですか」
     藍曦臣の手は再び背中をなでていた。
     もうしませんから、と安心させるような軽い手つきだ。
     明らかに遠慮している。それが切ない。
    「い、嫌じゃない」
     江澄は目の前の白衣にすがりついた。
    「だから、もう少し……」
     大丈夫、と言う前に力強く引き寄せられた。
     背中をなでる手つきも変わった。手のひらをぴったりと押しつけて、背筋をはうように下りていく。
    「江澄」
     耳の縁に息が触れた。同時に手のひらが腰からさらに下へとなでていく。
     江澄はきつく目を閉じた。
     藍曦臣の手は不思議だ。何度もなでられているうちに、だんだんと力が抜けていく。
     衣の上からなんて言わなければよかった。
     直接、触れられたら、どんなに気持ちいいだろう。
     江澄が我に返ったのは、藍曦臣の足がひざを割ったときだった。
    「えっ」
     その足は江澄の脚の付け根まで割り開き、腰までが密着する。腰を引こうとしても、腕に抑え込まれた。
    「藍渙、待ってくれ」
     江澄は慌てて藍曦臣の胸をたたいた。
    「もうだめですか」
    「だめだ、これ以上は」
     すでに下肢に熱が集まり出している。
     それなのに藍曦臣は「あと少しだけ」と耳に息を吹き込んでくる。
    「だめだ、藍渙」
    「江澄、もう少し」
    「帰れなくなるから!」
     ぴたりと藍曦臣の動きが止まった。しかし、江澄がほっとするより先に、唇がふさがれる。
    「んん……」
     体の向きを変えられて、完全に藍曦臣の下になる。胸を圧迫するように、体が押し付けられる。
     口を吸われるのは初めてではない。だが、今まではそれでも手加減をされていたのだと江澄は知った。
     分厚い舌が上顎をなでる。さらには舌を絡めとり、そのまま吸い出される。藍曦臣の口の中で、やわやわとかまれ、なぶられた。
     一度口が離れた。終わった、と舌を引っ込めると、再び唇が合わせられた。じゅ、と唾液を送り込まれる。
    「んっ」
     江澄の喉仏が上下する。
     一度ではなく、二度、三度。
     飲みきれなかった唾液が口の端から伝い落ち、そうしてようやく解放された。
     江澄は肩で息をしながら、藍曦臣を見上げた。彼は珍しく眉間にしわを寄せて、下唇をかんでいた。
    (がまんさせてるな)
     もっと簡単に明け渡せる体であればよかった。傷がなくて、若い体であれば。
     江澄は藍曦臣の頬をなでた。
    「すまない」
    「どうしてあなたが謝るのです」
     謝るなら私のほうでしょう、と微笑む人の何をおそれているのだろうか。
     自分でもわからない。
    「さて、そろそろ起きましょう」
     藍曦臣に手を引かれて体を起こす。
     帳子の向こうは、すっかり明るくなっていた。
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     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
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    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
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     薄紅の立葵が、庭で揺れている。
    「御用をおうかがいしましょう」
     藍曦臣の声は硬かった。西瓜に手をつける素振りもない。
     江澄は腹に力を入れた。そうしなければ声が出そうになかった。
    「魏無羨から伝言があると聞いたんだが」
    「ええ」
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    「教えてもらえなかった」
     藍曦臣は予想していたかのように頷き、苦笑した。
    「そうでしたか」
    「驚かないのか」
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     江澄は心中で魏無羨を呪った。初めからそう言えばいいではないか。
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    「それだけですか?」
    「いや……」
     江澄は西瓜に視線を移した。赤い。果汁が滴っている。
    「その、あなたに謝らなければならない」
    「その必要はないと思いますが」
    「聞いてほしい。俺はあなたを欺いた」
     はっきりと藍曦臣の顔が強張った。笑顔が消えた。
     江澄は膝の上で拳を握りしめた。
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    今日は本当にいい日だ。

    江澄は戴冠式を終え、立派な宗主然としている金凌を見て小さく息を漏らした。小生意気な甥の落ち着いた言動への感動も成長の早さへの嘆きも含まれたものだった。江澄は大きく息を吸っていると、金凌がこちらに向かってくる。
    「江宗主、今日はお越しいただきましてありがとうございました」
    金凌が丁寧に拱手をする。周りの目がある時は血縁であると忘れろ、と何度言っても叔父上、叔父上ときゃんきゃん吠えていた姿が嘘のようだった。それでも、よく出来たでしょ、と言わんばかりに緩む金凌の口元を認めて江澄は薄く笑った。
    「この度は戴冠おめでとうございます。江家は金宗主を力の限りお支えします」
    江澄は久方ぶりに眉の皺が解ける感覚を得ながら屈託なく笑みを返す。金凌は江澄の聖母のように盛り上がった頬肉を見てわずかに目を瞬かせた後、満面の笑みを返す。見慣れない江澄の表情に金凌の隣に控えていた家僕が目を見張った。
      金凌は確かによく頑張ったと思う。金光瑤の一件を経て、財と力のある金家を引きずり落とす理由を漸く見つけた他家の横槍は酷いものだった。助言すら許さなかった金光善の時代を思えば 7443

    澪標(みおつくし)

    SPUR ME尻叩きその②

    江澄が所属しているのは映画観賞同好会(好きな時に好きな映画を見て好きな時に感想を言い合う)です
    肝試しに行ったら憧れの先輩とお清めセックスをすることになった話②時刻は21:00。大学のキャンパスのある市街地から車で約30分の郊外。参加メンバーのSUVでやってきたその廃墟は、遠目に見た瞬間から「ヤバイ」の一言に尽きた。
    そこはかつてそれなりに繁盛していたが、数年前に突然廃業した元病院なのだという。建物の外観は、壁が崩れているとか蔦が生い茂っているとか、そこまで激しく朽ちている訳ではなく、むしろつい最近まで使用されていたもののように見えるのだが、纏う雰囲気が尋常ではなく「ヤバイ」。人の出入りもなくなって久しいというが、やけに生々しい空気が建物にまとわりついているようで、それがなんとも言えない不気味さを醸し出している。江晩吟は声にこそ出さなかったが、その類まれなる美貌の顔面を、「うげぇ」という正直な感情を抑えることなく思いっきりしかめていたのだが、どうやらこの場の空気の異常さを感じているのは江晩吟と、件の同級生だけであるようだ。ほかのメンバーは、「思ったよりもきれいじゃん」だの、「ちょっと雰囲気足りなかったかなー?」だの、「やだ―虫たくさん飛んでる~」だの、まったく周囲の空気の異様さには気が付いていないようだった。
    1607