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    yuno

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    yuno

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    江澄を喜ばせよう企画。曦→澄のつもり。閉関した江澄が犬と戯れてます。最初はギャグのつもりだったんですが、着地点を失敗しました。
    2023/01/28 01:36 up

    #曦澄

    【曦澄】地獄の沙汰も犬次第中から漏れ聞こえてくる声に、言葉に、藍曦臣は思わず動きを止めた。指先が硬直する。微かに震えてもいるだろうか。

    「ははっ、可愛いな、おまえは」

    可愛い? 可愛いと言いましたか、今。

    室内から聞こえてくるのは、紛うことなき江宗主の声。藍曦臣が聞き間違えることなど、決して有り得ない声だ。

    「なんだ? おねだりか?」
    「どうした? 何をして欲しいんだ? おまえは」

    ああ、なんて甘やかな声を出すのだろう。
    こんな声を藍曦臣は知らない。

    「こんなに尻を揺らして。おまえは待ても出来ないんのか? ん?」

    お尻?! お尻と言いましたか、今?!
    藍曦臣は思わず目を剥いた。

    人前で臀部を揺らす?! いったい中で一体何をしているのです、恥知らずな!

    ぶるぶると藍曦臣の手の震えが酷くなっていく。
    まさか、これはもしや、密会の現場だろうか。

    「どうした? これが欲しいんだろう? ならば、俺の言うことが聞けるよな? ん?」

    な、なんて卑猥な……。
    藍曦臣は息を飲んだ。
    こんな、こんな不埒な真似を、まさか彼がしているだなんて。

    江宗主が閉関修行に入ったと耳にした。
    そう、閉関修行だ。なのに、扉の向こうから聞こえてくるのは、修行とは程遠い、甘く艶やかな声である。

    あの日、弟が他家に対して礼を失した振る舞いをしたと知り、藍氏として在るまじきことであると、宗主として直ちに詫びねばとこうして藍曦臣は取るものも取りあえず尋ねてきた。
    だが、中から漏れ聞こえてくるのは、愉しげな声。

    これは、いったいどういうことなのか。
    まさか、人を遠ざけ、ひとりになったのをいいことに、口にするのも憚られるような愉しみに興じているというのか。
    彼が、まさか。

    許せない。

    瞬間的にカッとなり、藍曦臣は訪いを告げるのも忘れ、やおら扉に手をかけると、力任せに引き開いた。

    「中でいったい何をしているのです!!」

    キャウン!
    アン! ワンワンッ!

    突然の闖入者に、江宗主、江晩吟は目を見開き。
    彼の膝に群がっていた毛玉たちも一生に驚きの鳴き声をあげた。

    「い、犬……?」

    ✱✱✱

    「藍宗主。断りもなく入ってくるとは、貴方まで礼儀を忘れたか」

    それとも、藍氏には俺になぞ払う礼儀はないとでも。
    冷たい眼差しと棘を帯びた言葉。藍曦臣は己の誤解と失態を丁重に詫びた。

    「お恥ずかしい……私の短慮でした。失礼をお詫びいたします……」

    深々と頭を下げる藍曦臣の前で、江晩吟は不機嫌そうに渋面を浮かべた。迷惑そうな顔を隠しもせず。
    だが、そんな彼の周りをころころの子犬たちが楽しそうに転げ回ってはじゃれていくのであった。

    「あ、あの……この子たちは……?」
    「知らん。捨てられたか、親を亡くしたか、どちらかだろう。腹を空かせて迷い込んできたから食わせてやったら居着かれた」

    フンッとぶっきらぼうに言い放つ。
    ぞんざいな物言いだったが、けれど、子犬たちはすっかり彼に懐いているようだった。
    ふりふりと小さなしっぽを振りながら、江晩吟の手を舐めたり、衣を引っ張ったりしてじゃれている。
    江晩吟は叱ることなく、犬たちの好きなようにさせていた。

    「お元気そうで、安心いたしました」
    「さぞや腑抜けた修行だと思われたことだろうな」
    「いえ、そんなことは……」

    この子らにかける貴方の声の甘さに驚かされはしましたがとは、藍曦臣は言わなかった。
    江晩吟の、藍曦臣に向ける態度は硬かったが、子犬たちに向ける眼差しは優しい。穏やかささえある。
    あの日、少なからず辛い思いをしただろう彼が己の心を慰めるのを、どうして自分が咎められようか。

    「可愛い子たちですね」
    「ああ」

    それにとても良く懐いている。こんなに懐かれてはさぞや可愛かろう。先ほどの声もわかるような気がしてきた藍曦臣だった。

    「……以前」
    「はい?」
    「昔の話だがな。私は犬を三匹飼っていた。事情があり手放すことになったが。こいつらを見ているとあの頃を思い出す」

    頭数もちょうど同じだしな。

    懐かしむような眼差しに、藍曦臣は言葉を飲み込んだ。
    彼もまた、かつてを懐かしみ、恋しく思っているのだろうか。心を過去に置いているのかと、そう憂いたとき。

    「それに、藍先生が仰った」
    「はい? 叔父上が、なにか?」
    「あれは犬が大の苦手でな。やつを近寄らせたくないのであれば、うってつけの魔除けであると」

    実際、追い払ってくれた。清々したぞ。いい気味だ。
    ニヤリと笑う江晩吟に、藍曦臣は唖然とした。

    「……はぁ」

    まさか、自分より先に叔父がこの庵を訪れていたとは。そして彼とそのような企てをしていたとは。

    「私は随分出遅れてしまっていたようだ」
    「貴方が扉を引き壊した時は、何をしに来たのと思ったがな」

    咄嗟のことで力加減を誤り外してしまった扉に目をやり、江晩吟が呆れたようなため息をつく。

    「私はこの通りだ。煩わしさから離れて気分も悪くない。気遣いは無用だ」
    「そう、ですか」
    「そう長く離れるつもりもない。冗長なのは性に合わんからな」
    「はい」
    「戻った暁には、藍氏には非礼の落とし前をつけてもらおう。楽しみに待っているがいい」
    「返す言葉もございません。沙汰を慎んでお待ちいたします」

    冷ややかな眼差しと言葉とは裏腹に、彼の意図はこちらを気遣ってのものだろう。いや、仙門百家の平穏か。
    今、藍氏と江氏の関係がどうなるのか、臆測が憶測を呼んでいる。特に藍氏への風当たりが思っていたより厳しい。

    だが、それもそうだろう。祠堂に宗主の許しも得ずに踏み入るなど、断じて許される所業ではない。
    常ならば江晩吟を謗ることの多い世家たちまで藍氏に難色を示した。それほどまでに無礼な振る舞いだ。藍氏への信頼が揺らいでいると、叔父上も懸念している。
    暫くは針の筵に座ることになるが、それが罰ならば甘んじて受けるしかない。

    キュウン。キャウン。

    「うん? お前たちどうした?」

    それまで庵の隅の方の臭いを嗅いでいた子犬たちが、江晩吟の衣の裾を引っ張りながら、甘えた声で鳴きだした。

    まるで、難しい話はもうやめようよ、それより遊ぼうよと誘いかけるように、つぶら瞳で見つめている。

    「わかったわかった。全くかなわんな」

    江晩吟が棒切れを手に立ち上がる。外で遊ぶようだ。

    「その子らが貴方の心を癒しているのですね」
    「それだけじゃない。最高の魔除けだ。何せ一番遠ざけて欲しい奴らを追い払ってくれる」

    番犬として実に有能だ。江晩吟は満足げだ。

    「……私は」
    「うん?」
    「私は犬を恐れません。またここを訪れても良いでしょうか。貴方を訪ねても?」
    「俺は閉関しているんだが」
    「足繁くは致しません。その、たまにお顔を窺いに参りたいのです」
    「……貴方も物好きだな」

    呆れたようなため息で、ふいと顔を逸らされた。
    けれど、拒絶の言葉はなかったから。きっと許して下さったのだと藍曦臣は捉えることにした。
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    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
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     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
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     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
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    1437

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     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
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    DONE曦澄ワンドロワンライ
    第一回お題「秘密」
     藤色の料紙には鮮やかな墨色で文がつづられている。
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     初めは寒室で一時ほど過ごしただけだった。それも、江澄が一方的に世情を話すのを藍曦 2495

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    DONE曦澄ワンドロワンライ
    第三回お題「夢」

    本編終了後、付き合っている曦澄。
    現実での大事なものと、本当は大切にしたいもの。

    ムーンライト宗主→ごめんねすなおじゃなくて→夢、という連想結果が何故こんなことに。
     その夜は金氏と合同の夜狩だった。そこで江宗主は大怪我を負った。
     邪祟から師弟を庇い、腹に穴をあけられた。
     江澄自身、これはまずいと感じた。血を吐き、体から力が抜ける。
    「宗主!」
     倒れたところを誰かに抱え起こされた。
     すかさず金凌が矢を射る。放たれた矢は狙い違わず邪祟を貫いた。
    「叔父上!」
    「金凌っ……」
     声にできたのはそれだけだった。怪我をせず、健やかに、生きてほしい。お前の生きていくこれからは、どうか穏やかな世界であるように。
     江澄は手を伸ばそうとしてかなわなかった。
     まぶたの裏に、白い装束の影が映る。心残りがあるとすれば、あの人にもう会えないことか。
    「誰か止血を!」
     怒号と悲鳴が遠ざかり、江澄の意識は闇に沈んだ。


     まばゆい光の中で、白い背中が振り返る。
    「江澄……」
     ああ、あなたは会いにきてくれたのか。
     江澄は笑った。これは現実ではない。彼は姑蘇にいるはずだ。
     体を起こそうとして、まったく力が入らなかった。夢の中くらい、自由にさせてくれてもいいのに。
    「気がつきましたか」
    「藍渙……」
     ほとんど呼んだことのない名を口に出す。これが最後の会話にな 1653

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    PROGRESS続長編曦澄7
    なにもない日々
     江澄は寝返りを打った。
     月はすでに沈み、室内は闇に包まれている。
     暗い中、いくら目を凝らしても何も見えない。星明かりが椅子の影を映すくらいである。
     藍曦臣は江澄が立ち直るとすぐに客坊へと移った。このことで失望するほど不誠実な人ではないが、落胆はしただろうなと思う。
     目をつぶると、まぶたの裏に藍曦臣の顔が浮かぶ。じっとこちらを見る目が恐ろしい。
     秘密は黙っていれば暴かれることはないと思っていた。しかし、こんなことでは露見する日も遠くない。
     江澄は自分の首筋を手のひらでなでた。
     たしかに、藍曦臣はここに唇を当てていた。
     思い出した途端、顔が熱くなった。あのときはうろたえて考えることができなかったが、よくよく思い返すとものすごいことをされたのではないだろうか。
     今までの口付けとは意味が違う。
     もし、あのまま静止できなければ。
    (待て待て待て)
     江澄は頭を振った。恥知らずなことを考えている。何事も起きなかったのだからそれでいいだろう。
     でも、もしかしたら。
     江澄は腕を伸ばした。広い牀榻の内側には自分しかいない。
     隣にいてもらえるのだろうか。寝るときも。起きるときも 1867

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    PROGRESS恋綴3-7(旧続々長編曦澄)
    別れの夜は
     翌日、江澄は当初からの予定通り、蔵書閣にこもった。随伴の師弟は先に帰した。調べものは一人で十分だ。
     蔵書閣の書物はすばらしく、江澄は水に関連する妖怪についてのあらゆる記述を写していった。その傍ら、ひそやかに古傷についても調べた。しかしながら、薬種に関する書物をいくらひもといても、古傷の痕を消すようなものは見つからない。
     江澄は次に呪術の書物に手をかけた。消えない痕を残す呪術があることは知識として持っている。その逆はないのだろうか。
     江澄は早々に三冊目で諦めた。そもそも、人に痕を残すような呪術は邪術である。蔵書閣にあるとしても禁書の扱いであろう。
    「江宗主、目的のものは見つかりましたか」
     夕刻、様子を見に来た藍曦臣に尋ねられ、江澄は礼を述べるとともに首肯するしかなかった。
    「おかげさまで、江家では知識のなかった妖怪について、いくつも見つかりました。今までは海の妖怪だからと詳細が記録されてこなかったものについても、写しをとることができました」
     たしかに江家宗主としての目的は果たせた。これ以上に藍家の協力を得るのは、理由を明かさないままでは無理なこと。
    「あなたのお役に立てたなら 2224