ドアを開けると、風で大きくカーテンが揺れた。その裾が銀糸を撫でて、乱れた髪の持ち主の顔を月明かりの下に晒す。銀糸の髪、白い頬。その特徴的な瞳が目蓋に隠されていても、誰かなんて間違えようがない。
七海の部屋で、五条が眠っていた。ようやく寮に帰ってきた、深夜だ。もう疲れ切っていて風呂は明日と思って自室のドアを開けた光景としては、中々に面倒くさそうな案件だった。それでも酷くはできなくて、起こさないようにそっとドアを閉める。荷物を置いてベッドの下に座り込む。何も掛けずに眠っている腹に薄い上掛けを掛けてやる。五条の肩のあたりに先日貸した文庫本。肘をついて眺めながら、どうしたものかと思う。
どうしてか窓は開けられていた。ぬるい風に、カーテンがまた揺れる。五条の柔らかそうな髪が風で揺れるの見て、作り物めいたこの男が、そういえば人間だったなと思った。
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