その色をもって「この寒いのに北海道?おまえ何かと行かされるよねなんかあんの?」
明朝の行き先を告げると、五条はシーツに包まったまま目だけをこちらに向けてくる。落とした照明に構わずやたらに煌びやかな目が、かちりとこちらを捉える。
「身に覚えはありませんね」
タオルで髪を拭きながら、ベッドに腰掛ける。顔を寄せるとふふとやわらかく空気が揺れて、思う通りに唇に触れることが出来た。ぺろと悪戯に下唇を舐め上げていった人の頬に、七海の前髪からひとしずく落ちる。拭う指先を捉える五条の手があたたかくて、そろそろ風呂に運ばなければ、眠ってしまうかもしれないと思った。
「ふうん?まずはバターサンドでいいよ」
「チョコレートも?」
「あ、まってまって」
シーツの虫から白い腕が伸びて、ヘッドボードからスマートフォンを引き寄せる。お土産の人気ランキングを検索している。
「この羊羹かわいいな」
「画像送っておいてください」
「いいの?」
「数量も」
「甘やかすねえ」
こんなことくらい、と口に出そうになるのを飲み込む。画面の明かりで青が薄まるのがなにか面白くなくて、無防備な頸を指の背で撫でた。
ふふと笑う声がとても機嫌の良い時の音で、もう少し聞きたいと思う。
「雪見障子のある部屋に泊まってみたいんですよ」
一拍置いて、青い目がこちらを見た。へえ、という音は先ほどと変わらないけれど、密かで少し甘い。
「なあそれは、僕と?」
「ええ」
「ふうん」
うれしそうに言って五条は七海を引き寄せる。シーツはいつの間にか開いている。
「やらしいなあ七海」
「なんですかそれ」
それよりもう風呂にと続ける口は塞がれた。少し冷えた唇が甘いことを知ったのは、もう随分前のことだ。口が塞がるのは丁度いいなと七海は思う。雪でうっすら明るい夜半に、同じ色のこの人の髪が美しく流れるのが見たいのだとは、七海にはどうしても言えないので。