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    ローコラ

    893パロです
    めちさん(@km_mechi)の作品リスペクトです。※許可済

    美しい夜ロシナンテがシマの隅のほうに構えている『事務所』のひとつにカチコミがあった。そういう知らせを受けたとき、ロシナンテはちょうどその『事務所』からはけっこう離れたところにある古い中華レストランで食後の熱い茶を飲んでいた。
    どうやら予定確認の際についうっかり来月分のスケジュールを見ていたせいで、今日は兄との会食の予定が入っているとばかり思って行きつけのレストランにやってきたのだ。もとは有名なチャイニーズマフィアだった男がやっている、父の古い知り合いのレストランは兄弟水入らずで食事をするときにはよく使う店だった。
    そこで顔見知りの受付が驚いた顔をしたものだから今日は兄と約束していたはずではという話をしたら受付が真っ青になって予定表を大慌てで捲りはじめ、それでいつものドジをやらかしたと気付いて慌てて謝罪をして店を出ようとしたところでロシナンテ様にご足労いただいたのに何もせずにお帰しするわけには、と言いながらキッチンから出てきた老年の料理長に引き止められてしまった。子供のころから偏食のロシナンテのためにいろいろと料理を作ってくれていた彼のチャーハンを食べるのを楽しみにしていたのは事実だったのでカウンター席の端に腰を下ろし、お言葉に甘えてレタスがたっぷり入ったチャーハンを食べて料理長や顔なじみの店員と世間話なんかをして、腹いっぱいになったところでふらりと事務所に戻ろうとしていた。つまりはいつものドジの日だった。
    だからその電話を受けたとき、ロシナンテはドジったな、と思った。きっとロシナンテが事務所にいると思ってカチコミをしてきただろうに当の本人が留守にしていた挙句、どうやらロシナンテがすっぽかしてしまった本来の今日の用事の相手がお客様を出迎える羽目になってしまったらしい。あちらもこちらも面子が立たない、どうにも収まりの悪い幕切れだ。
    車はすでに近くまで来ているというので、ロシナンテは食事の礼もそこそこにレストランを飛び出して舎弟の運転する車に乗り込むことになった。ネオンサインも薄らとしか見えないスモーク窓の車の窓越しに流れる景色を眺めながら、ロシナンテはため息を吐く。
    「コラさん、おかえり」
    案の定、『事務所』に戻ると、大変珍しいことにロシナンテが送った謝罪のメッセージへの既読がしばらくつかないままだった男がそう言ってロシナンテを出迎えてくれた。頬に返り血が飛んでいて、その手にかれが好んで振り回している長ドスがなければいつも通りのロシナンテの可愛い子の姿だったのだが。
    「悪かった、ろォ~……! ケガしてねえか?」
    「いや。さっきメッセージ見たよ。行けなくてごめん」
    あわててかれに飛びついて自分よりちいさな身体を抱きしめると、すぐに強い力で背を抱き返される。もともと、待ちぼうけを喰らわせてしまったかれにももし予定を変更できそうだったらせっかくだしレストランに来ないか、というメッセージを送っていたのだ。
    ロー。ロシナンテのかわいいかわいい弟分である。この弟分というのは稼業としての弟分ではなく、幼馴染という意味での弟分だ。
    「おまえらも……堅気にンなことさせんなよォ」
    「コラさん、おれはもう堅気じゃねェって言ってんだろ」
    これから事務所は清掃に入るのだろう。ドジなロシナンテの世話を焼いてもらっている舎弟連中には頭の上がらないことがあるので、どうやらあまり被害の出ていない自分の子分たちを見回して上げた声も情けないものになる。
    「ロシナンテさん、ローさんとしばらく出といてください」
    「あとはおれたちやっときますんで」
    おそらくローが連れてきていたのだろうかれの子分たちにまで口ぐちに言われ、主不在のなかですっかりとすべての事象を終えてしまったらしいカチコミの現場からはすぐに追い出される羽目になった。顔だけ洗ってくると言って踵を返したローが離れていくのと入れ替わりに振動した携帯をちらと見れば、案の定兄から電話が入っている。すぐに折り返さないと後が怖いので、仕方なく通話ボタンを押し込んだ。
    「あー……、もしもし、ドフィ」
    『会食は来月だ、ロシー』
    「わざわざ言わなくてももう分かってるって……」
    愉快そうな声の主は耳が早い。おそらくは『相談役』なる大役に置いている実の弟の事務所が襲撃されたことも、そこに弟が不在だったことも、かれが来月予約してくれているフカヒレやら燕の巣やらが盛りだくさんの満漢全席ではなく久々のレタスチャーハンに大喜びしていたことももうすべて筒抜けなのだろう。
    『ローが来ていたんだろう? 褒美を聞いておけ。若頭の座の用意があると』
    「だから、ローは堅気に戻すんだっての!」
    それだけ言って電話を切った。ロシナンテの部下たちと手分けをして『清掃』の準備を進めているローの舎弟たち、特に盃兄弟だというペンギンが気の毒そうに眉を下げている。
    「ロシナンテさん、さすがにそれはいい加減諦めたほうがいいんじゃないスか」
    「うるせ~! おれはペンギンくんたちにも言いたいことがいっぱいあるんだよ! なにおまえらまでこんな世界に足突っ込んでるんだ!」
    学生のころから一方的に知っていたガキどもが、いまや血まみれの室内を顔色も変えずに掃除している。それがロシナンテのなけなしの倫理観をどれだけ苛んでいるか知る由もない青年は、呆れたように肩を竦めた。
    「ローさんはずっとあんたの言葉を支えにやってきたんだから、ちゃんと責任とってやってくださいよ」
    うー、と歯を剥き出しにして威嚇するロシナンテのことを軽くあしらい、ペンギンはさっさと仕事に戻ってしまった。
    ロシナンテの兄は、この街一帯を取り仕切るドンキホーテ組の組長だ。裏稼業に向いていなかった父の代で傾いだ組を半ば奪う形で継いで若くして立て直し、あっという間に勢力図を塗り替えた。経済の中心地、この金と権力と欲望の渦巻く街を牛耳るのは、何を隠そうロシナンテの兄―――表向きは財界人として振る舞っている、ドンキホーテ・ドフラミンゴなのである。二つ年上の兄はロシナンテが家庭教師から高校の授業を受けているあいだに、歴史だけは長い、という評に染まっていたドンキホーテの名を世に知らしめ、父と母とそして弟を豪華な屋敷の中に半ば軟禁する形で良いように組を作り変えていた。
    ロシナンテが疑問や違和を抱くよりさきにやわらかな檻と成り果てた広大な敷地と物々しい警備システムに囲まれたロシナンテの生家、ドンキホーテ家のお隣にあったトラファルガー医院の長男がローだ。ロシナンテがまだまだ周りの見えていない尻の青いガキだったころに、身の危険を避けるためだと兄に言い聞かせられていたせいでほとんどずっと家に閉じ込められていたのが退屈で、かわりに隣の家のローとよく遊んでやっていたのだ。
    ローは初対面のときからロシナンテによく懐いた、とんでもなく可愛い子供だった。いつもは本ばかり読んでいるらしいのにロシナンテが隣家の門を潜ると短い足をこれでもかと回転させて飛びついてきて、コラさん、とロシナンテを呼んだ。それはかれがつけたロシナンテのあだ名で、かれはいつもそれをとても大切なもののように呼んでくれた。ちいちゃい手でロシナンテの手を掴んで庭じゅうを駆け回ったり、ドジなロシナンテが転ぶたびに頭についた葉っぱを取って肘の擦り傷を手当してくれるたびに、この子が望むのだったら街のひとつやふたつくれてやろうと思ったし、その道に降り注ぐ火の粉があるのなら全部払ってやろうと思っていた。
    「……こらさん、ほんとにひっこししちゃうのか?」
    兄の『稼業』が想定以上にうまくいったころ、ロシナンテもあの街にいられなくなった。家庭教師から受ける様々な授業に飽いたロシナンテに、どうやら兄はようやく使い道を見出したらしい。この家から出て自由にさせてもらえるというのならそれはロシナンテにとって願ってもないことなので、名残惜しかったけれど―――これ以上堅気ではない自分があの可能性の塊のようなこどもの傍にいるわけにはいかないとも分かっていたので、ちいさいローとはお別れをしたのだ。
    「コラさんも寂しいけど……。ローのこと忘れねェからよ。ローもおれのこと、わすれないで」
    ちいさくてあたたかな命をぎゅっと抱きしめて頬ずりをして、ロシナンテはそんなエゴをすらローに押し付けてそう言った。ローはふるふると首を横に振り、そうして、ロシナンテにきっと庭先に咲いていたのだろう、うつくしい花を一輪くれたのだ。
    「おおきくなったら、こらさんのこと……むかえに行くからな!」
    ほおを真っ赤に染めたいとしい子どもにそんなプロポーズまがいのことを言われて、喜ばないやつがいるだろうか。いいや、いない。ロシナンテは少なくともそう思っている。そんなふうに懐いてくれた子どもがいただけで、これからずっと薄暗い人生を歩んでいくのだろう自分の道行きが祝福されたような心地になった。
    「おう! ―――楽しみにしてるなァ」
    ローとはそれきり別れた。もう会うこともないだろう。と思っていたのに、裕福な家に生まれついたこどもはすぐにスマートフォンなどという現代の利器を手に入れ、かわいいローに甘いロシナンテの両親からロシナンテの連絡先をも手に入れ、頻繁にメールを送ってくるようになった。
    運動会できんぴかの一等賞のメダルを貰っているところ。小学校の卒業式の写真。中学校の入学式。いまの舎弟たち、年上のガキを子分のように従えているところ。なにかの表彰式。卒業式。高校の入学式。修学旅行。ほんとうはずっと見ていたかったかれの成長は、近頃あった出来事とともにまるでサブスクリプションサービスかメルマガかなにかのようにこまめにロシナンテのメールアドレスに届き、無聊を慰めた。それらの写真はドジって携帯を壊しても見られるようにと厳重なパスワードをかけたクラウドサービスのなかに今もすべて保存されている。だからかれがどうやって大きくなってきたのか、ロシナンテは全部知っている。いつから頬のまろみが消えて、いつから髭を生やすようになったのか、写真を撮るときに母親に促されてもピースサインをしなくなったのはどのくらいからなのかも、全部。
    よくないことだとは分かっていた。ロシナンテは、かれの人生に関わっていい存在ではなくなっていたので。けれどもかわいいローの連絡を無視することはどうしても出来ずに、血に濡れた手や、人間の人生を狂わせた手でぽちぽちと返信メッセージを送っていたのだ。
    だけれど。
    密かに楽しみにしていた高校の卒業式の写真が届くのを待っていたロシナンテのもとに、当時根城にしていたクラブのVIPルームの扉をばたんと開いてやってきたのは、まだ学校指定のブレザーを着たまま、胸に卒業祝いの造花を飾ったままのローの姿だったのだ。
    かしこいローのことだから、てっきり大学に通うと思っていた。医大だろう、と予想していたのだが、進路についてはコラさんを驚かせたいからひみつ、と言われていたので、それも楽しみだったのに。
    ロシナンテはそれはもう驚いた。自分が一目で堅気ではないと分かる場所で、堅気ではないと分かる待遇を受けていることを見られてしまった衝撃よりも、遠く離れた町で学友たちと卒業パーティーでもしているはずのかれがこんな薄汚れたところにひとりでいるほうが衝撃だったのだ。
    ―――成人をして高校も卒業したので、あんたを迎えにやってきた。
    驚くべきことに制止に入った黒服を何人か伸してまでこの部屋に辿りついたらしいローの、店中に響き渡る声での主張がそれだった。
    当然ながら受け入れられず、そもそもなぜこの場所が分かるのかと問い詰めたところで兄の名が出たのでロシナンテは暴れた。物心ついてから今まで、ここまで自身が制御できなくなったことはない。あと一歩で組を割るほどの大暴れだった。そのまま車でドフラミンゴの家であるタワーマンションの最上階に乗りつけて、にやにや笑いで一途なやつじゃないかなどと言ってきたドフラミンゴの頭に趣味の悪い大きなガラスの灰皿を叩きつけようとして割って入った若頭に止められ、そこからはもう、あのドフラミンゴをして苦々しい顔で下手を打ったな、と言わしめるほどの暴れようだった。
    窓も割ったしシャンデリアも落とした。ニュースにならなかったのがおかしいくらいの大騒動で、当然、公安警察に痛い所を突かれることにもなったしもういっそそのまま警察に出頭してドフラミンゴの後ろ暗いところを洗いざらい全部ぶちまけてやろうかと思ったくらいだ。最終的には怖気づくでもなくあとをついてきていたらしい当のローに止められたので諦めたが。
    かれにはまっとうに、陽の当たる道を歩いてほしかったというのに。
    ロシナンテの隣で生きるためだけに用意されていた全部を捨ててこんなところまでやってきたというので、ロシナンテはもうどうすることも出来なくなった。
    「あんたのことを、愛しているから」
    ローはロシナンテにそう言う。それだけがすべてで、理由はないのだと。
    だからロシナンテも開き直ってローを愛し、守ろうと決めた。まだ酒も飲めないガキをだ。ドフラミンゴはかれを次期若頭として迎え入れたかった―――高校卒業したてのガキにそんな重役が務まるものかとその高評価にロシナンテは目を剥いたのだが―――ようだがローはドンキホーテの傘下に入ることはなく、独立した小さな組を立ち上げた。何をしているのかは聞いても教えてくれないが、女や薬といった面倒なシノギには手を出さずに比較的おとなしくやくざ稼業をしているらしい。ロシナンテが大暴れしたこともあり、今のところかれのその独立性は保たれている。それでもかれはこうして頻繁にロシナンテのもとを訪れるので、敵対組織からしてみればかれの率いる組はロシナンテと盃を交わしているように見えているのだろうが。
    『清掃』のためにドフラミンゴの息のかかった企業のトラックが事務所にしているビルの前にやってきたというので、顔を洗ってさっぱりした様子のローと連れ立って、それと入れ替わりに夜も更けた歓楽街へと繰り出すことにした。
    「腹減ってるよな?」
    「……ちょっとだけ」
    「うまいもん食おうなァ」
    「ん」
    早く飯が出てきて腹がいっぱいになるというのでよくローが行っている牛丼の店でもいいが、あそこに美味い酒は置いていない。はたち前のローを連れてバーに行く気もないので、焼肉屋にでも連れていってやろうと決めた。どのみちもりもりと肉を食う若者を見ているだけで酒は進むが、少し歩くところにあるのでロシナンテの腹ごなしにもちょうどいい。
    歓楽街から通り二本ほど離れたビルの中で起きた喧騒などとうに忘れ去ったように、夜の街は賑やかだった。
    生まれつき目の色素が薄いロシナンテはネオンの光が苦手だ。遮光のサングラスはかかせない。一目で堅気ではないと分かる派手なシャツを着ているのは余計な面倒に巻き込まれるのを防ぐためだ。常人よりも背の高いローよりもさらに頭一つ背の高いロシナンテの顔は当然に周りにも割れていて、ケツモチが違うホストクラブの客引きなどはすぐさまビルのなかへと引っ込んでいく。そんなに怯えなくても突然殴りかかったりしないのに、と思いはしたが、確かに今日のカチコミ元であろう組のチンピラでも見かけたら少々面倒臭いことになるのは目に見えていた。
    がやがやと人で賑わう歓楽街では今日も様々な人間たちの人生が交錯している。ガードレールに寄りかかって眠っているサラリーマン。たむろしている売れないホスト。客引きの女に、ただ居酒屋目当てにやってきたのだろう堅気の人間たち。
    「……」
    ―――こんな街には縁のないお医者様にでもなって実家を継ぐ道もあっただろうに、あのときロシナンテに可憐な花をくれたかわいいちいさいローは、全身をロシナンテが身に纏うド派手なシャツと同じハイブランドのスーツで固めた堅気ではない男になってしまった。いつもロシナンテが買ってやった服を律儀に身に着けるかわいい男のかわいいつむじを見下ろして、ロシナンテはひとつ息を吐く。
    「……?」
    それでも首を傾げたローの瞳がまっすぐにロシナンテのことを見上げるところはちっとも変わっていないので、つい眦が下がってしまうのはもう、しょうがないことだろう。だってかれはずっと一途に、ロシナンテを愛しているというので。
    もうすこしでローもはたちだ。酒もたばこもやれる年になる。かわいい男の求愛に頷くには、ちょうどいい頃合いだろうか。
    「なんでもねェよ」
    懐から煙草を取り出すと、重たいライターを奪ったローが火をつけてくれた。肩を焦がさないように、とのローのいつもの気遣いだが、さすがに毎度火だるまになるほどドジではない。
    「今の顔、ぜったいなんかある顔だろ」
    真昼のようにちかちかと光る店の灯りよりもよほど眩いローの瞳から目を反らし、ロシナンテは紫煙を吐き出した。
    「あ、プリクラでも撮るか?」
    「誤魔化すなよ」
    ちょうど通りがかった先のがやがやとうるさいゲームセンターの自動ドアに大々的に貼ってある広告を指させば、ローが唇を尖らせた。肘の先で小突かれて笑って誤魔化したが、興味が勝ったのか視線がそこにくぎ付けになっているのが丸わかりだ。かわいいやつめ、と思ってそのちいさい頭を掌でぐりぐりと撫でてやる。まだマッカランもクルボアジェも一滴だって舐めていないのにとても愉快な気分になった。
    「コラさん! ガキ扱いするなって言ってるだろ!」
    ―――なにせ、ぎゃんと怒り出す年下の男の隣では、誰しもがロシナンテを避けて通るこの街でも、なんだか息がしやすいのだ。


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    DONEバレンタイン現パローコラ! #ローコラ版マンスリーお題 2月「バレンタイン」をお借りしました。
    バレンタイン雪辱戦大好きなコラさんが願うなら、なんだって叶えてやりたかった。それが星を掴むようなものであっても。ずっと前からそうだった。
    出会った時からずっとずっと会いたくて離したくなくてそばにいたかったひとだとわかっていたから、小さいころからローはコラさんを……、ロシナンテを見失わないようにすることで精一杯だった。いつだってローに特別を与え、大きな愛で包んでくれるひと。かれはローよりずいぶん先に大人になってしまっていたし、折に触れて訳知り顔でローの手を離そうとするものだから、大声で叫んで泣いて暴れる他に彼を引き止める手段のなかったローはもどかしくも悔しい思いをたくさんしてきた。いまでもロシナンテがローを置いて数か月もの間極寒の海の向こうに消えてしまったときのことを時折悪夢に見る。あっさりとローの手を振り払ってごめんなあと眉を下げて笑って列車に乗り込んで遠くに行ってしまうロシナンテに、ローが泣き叫ぶ声は届かないのだ。あのときにあの雪の降る港でかれを迎えにいけていなかったら、きっと悪夢は夜毎ローを苛んでいたに違いない。
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    DONEローコラ

    893パロです
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    どうやら予定確認の際についうっかり来月分のスケジュールを見ていたせいで、今日は兄との会食の予定が入っているとばかり思って行きつけのレストランにやってきたのだ。もとは有名なチャイニーズマフィアだった男がやっている、父の古い知り合いのレストランは兄弟水入らずで食事をするときにはよく使う店だった。
    そこで顔見知りの受付が驚いた顔をしたものだから今日は兄と約束していたはずではという話をしたら受付が真っ青になって予定表を大慌てで捲りはじめ、それでいつものドジをやらかしたと気付いて慌てて謝罪をして店を出ようとしたところでロシナンテ様にご足労いただいたのに何もせずにお帰しするわけには、と言いながらキッチンから出てきた老年の料理長に引き止められてしまった。子供のころから偏食のロシナンテのためにいろいろと料理を作ってくれていた彼のチャーハンを食べるのを楽しみにしていたのは事実だったのでカウンター席の端に腰を下ろし、お言葉に甘えてレタスがたっぷり入ったチャーハンを食べて料理長や顔なじみの店員と世間話なんかをして、腹いっぱいになったところでふらりと事務所に戻ろうとしていた。つまりはいつものドジの日だった。
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