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    nostalgee_op

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    バレンタイン現パローコラ! #ローコラ版マンスリーお題 2月「バレンタイン」をお借りしました。

    バレンタイン雪辱戦大好きなコラさんが願うなら、なんだって叶えてやりたかった。それが星を掴むようなものであっても。ずっと前からそうだった。
    出会った時からずっとずっと会いたくて離したくなくてそばにいたかったひとだとわかっていたから、小さいころからローはコラさんを……、ロシナンテを見失わないようにすることで精一杯だった。いつだってローに特別を与え、大きな愛で包んでくれるひと。かれはローよりずいぶん先に大人になってしまっていたし、折に触れて訳知り顔でローの手を離そうとするものだから、大声で叫んで泣いて暴れる他に彼を引き止める手段のなかったローはもどかしくも悔しい思いをたくさんしてきた。いまでもロシナンテがローを置いて数か月もの間極寒の海の向こうに消えてしまったときのことを時折悪夢に見る。あっさりとローの手を振り払ってごめんなあと眉を下げて笑って列車に乗り込んで遠くに行ってしまうロシナンテに、ローが泣き叫ぶ声は届かないのだ。あのときにあの雪の降る港でかれを迎えにいけていなかったら、きっと悪夢は夜毎ローを苛んでいたに違いない。
    目も当てられないほど落ち込むローに、両親は世の中にはままならないことがあるのだということを優しい言葉で諭したものだ。ロシナンテくんにはロシナンテくんのやるべきことがある。いくらローがかれと一緒に居たくとも、叶えられないこともあるのだ、と。ローに出来ることはきちんとご飯を食べて夜によく寝てロシナンテが帰ってくるまでしっかり学校に行くことだ、そうでないとロシナンテくんもローを心配してしまうよと言われて素直にそれを聞き入れられるほどローはおとなではなかったが、布団の中で膝を抱えて丸まったなかで聞いた父のその言葉はよく覚えている。
    いくらローがかれを愛していて、ロシナンテがローを愛していても、世の中にはどうやらどうしようもないことがあるらしい。
    だからその分、早足で大人になった。そのつもりだ。だというのにいつまでもロシナンテに子供扱いされるものだからむっと眉を寄せてしまいたくなることも多々あるのだが、念願の恋人の椅子に座ってからは輪をかけて大人であらねばと思うようになった。大好きなロシナンテに甘やかされてばかりのままではなく、かれと対等な恋人になるために。
    ―――そういうわけで、ローはいま人生で指折りの難題に向き合い、大人として、恋人としての正答を捻り出そうと出来の良い脳みそが発熱で煙を上げそうなほどに頭を悩ませているというわけである。

    「今年はおれもローのチョコが欲しい」

    そんなふうに大好きな恋人に言われたのが、およそ一週間前の話だ。いつも朗らかで寛容な年上の恋人が、休みの日はかれの家に入り浸っているローのいつも通りの出迎えを前に妙に据わった目をしてそう告げるのに、当然首を縦に振る以外の選択肢はなかった。今年だって来年だってこれからずっとローはかれのチョコが欲しかったので。
    なのでローは年が明けて早々からそれとなく昨年度のバレンタインデーの思い出話を蒸し返しはじめ、一か月まえには今年も楽しみにしてていいか、と期待でいっぱいの表情をあえて隠さずに―――それがロシナンテに一番響くということをローはとっくに知っているので―――伝えることで市販品じゃだめかァ? なんて困り顔を引き出していた。正直言ってそれは言われるだろうと覚悟をしていた一言だったので、ローはすかさずあんたの想いが籠っていればなんだって嬉しいが去年のあれは本当に嬉しかったのだ、というのを重ねて伝え、なんとかロシナンテに頷いてもらっている。それで今年のバレンタインデーこそは行き違いなく成功させようと、ひそかに心に誓っていたのだ。
    というのも、去年のバレンタインにはローがしたおねだりのせいで一悶着あった。
    ―――恋人になって初めてのバレンタインだから、コラさんのチョコが欲しい。
    そんなローのおねだりに、ロシナンテは真心と手間と努力をたっぷり込めた手作りで答えてくれた。おうコラさんに任せとけ、とほんの少しの逡巡ののちに頷いてくれたかれの応えに嘘偽りはなく、それ以降ローがロシナンテの家に足を運ぶたびに甘いチョコレートの匂いが充満しているのを感じることになり、明らかに業務用のチョコレートが運び込まれていたり数日前からは冷蔵庫の中にそれはもうバラエティ豊かな各種のチョコレート菓子が詰め込まれていたりするのを見て期待に胸を高鳴らせていた。
    ローはてっきり、大好きなロシナンテが恋人になるまでのあいだのぶんまでのバレンタインチョコをローに全部くれるのだと思っていたのだ。見たことのないサイズの生クリームや刻んだチョコの入った袋の中のものが形を変えたものは全部。だってどれも、紛れもなくローが欲しかった『コラさんのチョコ』なのだから。
    ローはずっとかれのことが大好きで、愛していて、思春期を迎えてからは他の誰より一番でいたくてそばにいて触れる権利がほしくてしょうがなかった。ロシナンテだって惜しみなくローのことを愛してくれていたというのにローの愛の告白をウニャウニャと誤魔化すばかりだったから、ようやく世間体だのローの将来だのといった言い訳をこねくり回していた年上の男が頷いてくれて、恋人になったかれはこれまで以上にローを甘やかしてくれるようになったので。
    全部ローにくれると思っていた。ローのためにかれが作ってくれたものを失敗と断じられて全部自分で食べてしまっただなんて、それはもうショックだったのだ。
    ―――コラさんは、ちっともおれの気持ちを理解してくれやしない。
    こんなに好きで、大好きで、失いたくなくて、離れたくなくて、こんなにもかれのことが大好きなのに。ローの心のなかに降り積もっていたかれへのそんなもどかしい想いは、そういうこともあって派手に引火をしてごうごうと燃え盛った。それはもう、交際を始めてもっとも大きな喧嘩はあれだったと断言できるほどに。
    あのときのことを根に持っているのだ。コラさんは。
    秋口の休暇に出かけた紅葉の美しい山奥の宿で撮ったツーショットの写真に代わるまでずっとローの携帯電話の待受だったハート型のフォンダンショコラ。自他ともに認めるドジっ子のかれがあの完成に至るまでに無数のチョコレート菓子が作られ、そして、その全てがかれの胃袋に収まってしまったあの時期のことを。
    ローはそう直感した。鼻血を出そうが高血糖で倒れようがいっこうに構わない、かれの作ったローのためのチョコは全部自分で食べたかったからたいそう落ち込んで、結局ホワイトデーにもならないうちに同じだけのチョコレートをロシナンテの家に届くように勝手に注文して、食べられなかったクッキーも生チョコもブラウニーもぜんぶ作ってくれと迫って大変に怒られたのはまだ記憶に新しい。
    食材を、特に消費期限の短い生クリームを無駄にはできないからと結局ローに甘いロシナンテはいくつかのチョコ菓子は作ってくれた。それらはあの美味しくて綺麗な形をしていたフォンダンショコラと違って確かに焦げていたり形が崩れていたりしたが、可食できないものなんて一つもなかった。たくさん練習するまえにはひどい出来のものもたくさんあってとてもお前に食わせられなかった、とローに命じてチョコレート作りのかたわら生クリームを贅沢に使った大量のホワイトシチューを作っては冷凍させながらロシナンテは言ったが、ほんとはかれが他ならぬローのためにお菓子作りを上達していく過程は全部見たかったし味わいたかったのに。
    だが、そんなことがあったからこそ、ローにロシナンテのそのおねだりを断ることは万にひとつもできなかった。
    ロシナンテと違ってローはドジっ子ではない。レシピはいくつも読んで口コミもチェックして初心者でも出来るものをチョイスしてある。さして甘い物が好きではないロシナンテのためのビターチョコとクッキーからなるレシピだ。
    ―――ローの悩みは単純だ。ロシナンテがあんなに頑張って練習してくれたのに、自分があっさりとそれなりの出来のものを作って差し出してしまっていいものか、という、ローにしては死活問題の悩みだった。
    あれでいてロシナンテは短気なところが多分にある。大人気ない面もある。フーンおまえの方がチョコ作り上手じゃねェか、なんて拗ねられてしまえば来年からのバレンタインが既製品になってしまうかもしれない。それでも嬉しい、嬉しいのだが初めてのバレンタインにとっておきの真心をもらった身としては、どうにかしてこの時期のかれの頭の中をローでいっぱいに出来るままでいたかったので。
    そういうわけで、今年のバレンタインはいい年をした男ふたりが手作りのチョコレートを交換し合うことになった。
    ―――ところでローの誤算はラミにバレンタイン前夜になって実家のキッチンを追い出されたことだ。
    「兄様、ラミと母様は忙しいの! 後にして!」
    勤務先の病院のそばに借りているほとんど寝に帰るだけのローの家にはオーブンだの湯煎のためのガラスボウルだのそういったものは存在していない。だから実家のキッチンを使ってチョコレートづくりに勤しもうと思っていたのに、鬼気迫る妹に一喝されてすごすごと買い込んだ材料ごと滞在時間三分の実家を出るほかなかった。ラミからのバレンタインチョコはここ数年ずっとロシナンテあてのものとタイプ違いの既製品だったのにどうして今年に限って母様に手伝わせてまで手作りをしているのか、少々過保護の気のあるローは気になって仕方がなかったがこちらもこちらで切羽詰まっている。
    ロシナンテが仕事中であることをいいことにかれの家でバレンタイン当日に大慌ててでチョコづくりをすることになるのは想定外もいいところだった。念の為有給をとっていて助かった。
    今日は残業にならないよう、ついでに駅前のおいしいデリを買って帰ってくるから一緒に夕食を食べよう、そのあとにチョコの交換をしようという約束をしているロシナンテはどうやらドジらずしっかりとチョコレートの何かを作ってくれたようで、ところどころにチョコのついた冷蔵庫のなかにはすでにラッピングされた箱が鎮座していた。それはもうぴかぴかと輝いて見えて、ローの心を高鳴らせたものだ。中にどんなものが入っていようと、ロシナンテの真心に他ならないからだ。だからローだってともかく思いを込めてチョコレートを作ろうと思った。
    ところで、それがおおよそ半日前の話である。
    「ただいまーァ……、ロー? きてるのか?」
    ガチャ、とドアが開く音がして大好きなひとの声が聞こえてきたとき、ローはまさしく絶望の渦のなかにいた。異臭を漂わせるオーブンとチョコレートがこびり付いたボウルの山、これはおそらく過去のロシナンテの奮闘の名残であるのだが、ともかくそれらを前になすすべもなく立ち尽くすほかなくなったのだ。
    「うおッ、なんだこの匂い……! えッおれオーブン切ったよな!? ロー? ロー!」
    賑やかな声とともに足音が近づいてくる。コラさん、と叫んでその胸に飛び込んで抱きしめてもらいたいくらいには傷心であったものの、ローの足は鉛かチョコレートになってしまったかのように動かない。滑って転んで派手な音を立てた気配がしたのち、がちゃりとキッチンダイニングへの扉が開かれたのを、ローはこの世の終わりのような気分で振り向いた。
    「……、……」
    おかえり、と言いたいのにそれですら喉に詰まる。キッチンを前に立ち尽くす凄惨なありさまのローを見て、おそらく買ってきてくれたデリの袋をひとまず置いてキッチンを見回し、仕事帰りでスーツ姿のロシナンテがふいに破顔するのが分かった。
    「なんだ、お取込み中か?」
    「こ……、コラさん……」
    打ちひしがれたローが絞り出すようにかれの名を呼ぶのと同時に、かれの長い腕がぎゅうとローの頭を抱きしめた。チョコがスーツについてしまいそうなのを厭わずに、そのまま外の匂いをつれたかれに頭をわしわしと撫でられる。
    違うんだ。このくらい簡単に出来ると思っていた。手術のほうがよほど難しいに決まっている。レシピを選んで材料を手配さえしておけばさっと作ることが出来るとばかり。ロシナンテがあんなにたくさんの試作品を作っていたのは、ひとえにかれがたぐいまれなるドジっ子だからなのだと思って疑わなかった。
    「……か、買ってくる! 買ってくるから、あとで片付ける、コラさん、ちょっと待っててくれ」
    「なーに言ってんだ」
    二時間ばかり前に焼き上がりを伝えてきたもののひとつ味見をしたあと現実を受け止められずに再び閉じたオーブンの扉をロシナンテが無慈悲に開く。チョコブラウニーは下調べしておいたレシピのうちでも四つ目のものだ。甘い物がそれほど得意ではないロシナンテには甘すぎるかと思ってやめておいた次善の策だった。それすらも失敗したのが現状ではあるのだが、ともかく。
    「コラさんに失敗作なんて食わせられるわけねェだろ! もっとちゃんと……、ちゃんとした美味いのを……ッ」
    躊躇わず手を伸ばそうとしたロシナンテの腕にタックルする勢いで止めに入ったローが悲鳴のように叫んだのも無理はない。だって去年、ローが食べたのはきれいなハートのかたちをした、粉雪のように粉砂糖が降りかけられた、それはそれは立派なフォンダンショコラだったのだから。
    「ア?! なんつったこのクソガキ!」
    だがブラウニーに向けられていた指にかわりに頬を思い切り引き伸ばされ、ローは思わずイテエと悲鳴をあげた。ほとんど縋るような顔でローがかれを見たのに、返ってきたのは仕方のない駄々っ子を見るような目線だった。
    「ちげェ、コラさん……! 家のキッチンラミが使っててッ、こんなはずじゃ……!」
    「ラミちゃんが? カレシできたのか?」
    容赦なくローの心の柔らかいところを抉っていくロシナンテに気を取られた一瞬で、かれの指が黒焦げのブラウニーになるはずだった塊を攫った。
    「あ―――、ああ……」
    悔しいかな身長ではローはロシナンテに敵わない。遥か頭上に伸ばされたその長い腕が摘んでいるのはローが処分を怠ったチョコレートの成れの果てだ。炭の塊にしか見えないものをロシナンテが躊躇なく口のなかに放り込む。じゃり、とか、がり、とか、およそ似つかわしくない音が頭上でする。
    「こ……、コラさん、出せ! 腹壊したらどうする!」
    「おまえなあ、どの口でンなこと言うんだァ?」
    大きな口の中にあっさりとブラウニーをひとつ収めてしまったロシナンテは、にやにやと口端を緩めながらそんなふうに笑った。その喉がごくりとあの塊を嚥下するのを、ローは茫然と見届けるしかない。
    去年のバレンタイン。
    ローが味わうはずだったチョコレートはぜんぶ、甘いものなんてさほど好きでもないこのひとの腹の中に収まってしまった。コーヒーでそれを押し流すようにしたらしいロシナンテはそのあと胃痛を訴えひどく体調を崩したくらいだ。
    これはロシナンテの意趣返しだ。
    「こ……、コラさん……」
    「ローがおれのために作ってくれたチョコだ、当然おれが食っていいんだよな?」
    「おれには食わせてくれなかったのにッ」
    たまらずローが叫んだのに、ロシナンテは笑うだけ。もうひとつ黒焦げのブラウニーを頬張って、それから、眦を下げてローを見る。その赤色の瞳がどうしようもなく愛に撓んでいるのがよく分かって、ローはなんだか泣きたいような思いに駆られた。
    「……、ごめん、約束したのに……」
    「作ってくれたじゃねェか。……なんでも器用にこなすおまえも、これは苦手なんだな」
    もうひとつつまむ。本当に嬉しそうにロシナンテの表情が綻ぶ。味見の一つで吐き出しそうになったあれをだ。目の前がチカチカ白むような心地のなか、大惨事のキッチンを見回したロシナンテがローに視線を戻す。
    「とりあえず飯食ってさ、あとで一緒に作ろうぜ。チョコづくりはおれのほうが上手みたいだしな?」
    失敗を前提にしていなかったローは食材だってそれほど持ってきていない。ロシナンテが今年も大量に用意したらしいチョコレートと生クリームが冷蔵庫のなかに入っているのを見て胸がぎゅうと締め付けられるような気分になったが、まさか自分が使う羽目になるとはと今度は別の意味で胸が痛む。だというのに俯くローの前髪を透かすように撫でたロシナンテはなぜか大変に上機嫌なようすで、ひたいにキスまでしてくれた。
    おそらく湯煎に失敗したときに顔面に飛び散ってちりちりと灼けるような痛みを齎したあとで固まったチョコレートをかれの指が拭った。かれの薬指には、去年のバレンタインに贈った指輪がある。ローにももちろん揃いのそれがあるのだが、オペの時同様に外して胸から提げておいて助かった。チョコレートがこびり付いてひどいことになっていただろう。
    「ところで……、コラさんのおねだりを聞いてくれたよいこのローくんには良いものがある」
    また子ども扱い、と頬を膨らませることは出来なかった。こんなにこんなに大好きで、大好きなのに、うまくそれを形にできない。そんなふうに落ち込むのなんて、どうしたって子供そのものなのだから。
    そういうローの落胆を見越したように、ロシナンテが両の手でローの頬を包んだ。
    なんでこのひとはこんなにも嬉しそうなんだろうか、とローは不思議に思う。半日以上かけたって満足にチョコレートのひとつも作れなかった。ロシナンテはずっとまえから準備をしていてくれたのに、ローはすっかり慢心しきっていた。どうしたらロシナンテが拗ねて来年チョコレートを作ってくれないことにならないような出来のチョコに出来るかなんて生意気なことを考えていたローのことを、いとしくてたまらない、とばかりの顔でロシナンテは見る。
    かれに手を引かれるまま、とぼとぼとローはダイニングへと向かった。ロシナンテはテーブルの上にどんとデリの袋を置いたあと、ソファには座らずにそのままローを部屋の奥へと誘導する。
    「ほんとはあとで言おうと思ってたんだけど……、おまえがあんまりしょげてるからよォ」
    おまえのその顔に弱いんだ、コラさんは、とかれは笑う。いとしさをにじませた眼差しで。
    「こ……、コラさん……ッ」
    ロシナンテがローの手のひらに握らせたのは、ロシナンテの仕事部屋の扉だった。職業柄機密を扱うことも多いかれに、入ってはいけないと言われている部屋。
    「去年はこんなにいいもん貰っちまったのに、一個しかチョコやれなかったしな」
    薬指に嵌まる指輪をひらひらと振ってロシナンテはそんなふうに笑う。いつもなら一言二言言い返すところだが、いったいどんなプレゼントが隠されているのかとかれの顔を見上げたローの顔は、すでに期待に輝いていたに違いない。
    促されるままに、開けたことのないドアを開いた。ロシナンテの部屋とも、かれと身を寄せて眠ることも出来る大きなベッドのある寝室とも違う部屋が、ローの目の前に広がっている。
    「部屋整理したからさ、んな広くねえけどよかったら住んでいいぜ。そしたらいくらでもチョコづくりも教えてやれるし」
    なにもない、まっさらな部屋だった。寝に帰るばかりのローの一人暮らしの家よりも小ぢんまりとしているが、けれど、どんな豪邸よりもローの住みたい部屋。
    「そ……、それって……!」
    合鍵を貰ったときよりも上の喜びがあるなんて、ローは知らなかった。かれはいつもローに知らなかった世界を教えてくれる。さっきまでの絶望はもうずっと遠くに行ってしまった。最悪のバレンタインだ、と思っていたのが、一気に最高のバレンタインに変わる。照れたようにそっぽを向いたロシナンテが、けれど唇を戦慄かせて頬を紅潮させたローを見て笑う。
    「コラさん、……コラさんッ、だいすきだ!」
    「うはは、おれも愛してるぜ、ロー!」
    かくして。
    たまらずかれを強く抱きしめたローによってかれのスーツにもところどころチョコレートがついてしまったし、熱烈にお見舞いしたキスは焦げの苦味でひどい味だったけれど、恋人として過ごすふたりの二度目のバレンタインデーは、ローがロシナンテよりも上手にチョコレートケーキを焼けるようになってからもずっと語り継がれる二人で暮らし始めた思い出深い日となったのだった。


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    nostalgee_op

    DONEバレンタイン現パローコラ! #ローコラ版マンスリーお題 2月「バレンタイン」をお借りしました。
    バレンタイン雪辱戦大好きなコラさんが願うなら、なんだって叶えてやりたかった。それが星を掴むようなものであっても。ずっと前からそうだった。
    出会った時からずっとずっと会いたくて離したくなくてそばにいたかったひとだとわかっていたから、小さいころからローはコラさんを……、ロシナンテを見失わないようにすることで精一杯だった。いつだってローに特別を与え、大きな愛で包んでくれるひと。かれはローよりずいぶん先に大人になってしまっていたし、折に触れて訳知り顔でローの手を離そうとするものだから、大声で叫んで泣いて暴れる他に彼を引き止める手段のなかったローはもどかしくも悔しい思いをたくさんしてきた。いまでもロシナンテがローを置いて数か月もの間極寒の海の向こうに消えてしまったときのことを時折悪夢に見る。あっさりとローの手を振り払ってごめんなあと眉を下げて笑って列車に乗り込んで遠くに行ってしまうロシナンテに、ローが泣き叫ぶ声は届かないのだ。あのときにあの雪の降る港でかれを迎えにいけていなかったら、きっと悪夢は夜毎ローを苛んでいたに違いない。
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    nostalgee_op

    DONEローコラ

    893パロです
    めちさん(@km_mechi)の作品リスペクトです。※許可済
    美しい夜ロシナンテがシマの隅のほうに構えている『事務所』のひとつにカチコミがあった。そういう知らせを受けたとき、ロシナンテはちょうどその『事務所』からはけっこう離れたところにある古い中華レストランで食後の熱い茶を飲んでいた。
    どうやら予定確認の際についうっかり来月分のスケジュールを見ていたせいで、今日は兄との会食の予定が入っているとばかり思って行きつけのレストランにやってきたのだ。もとは有名なチャイニーズマフィアだった男がやっている、父の古い知り合いのレストランは兄弟水入らずで食事をするときにはよく使う店だった。
    そこで顔見知りの受付が驚いた顔をしたものだから今日は兄と約束していたはずではという話をしたら受付が真っ青になって予定表を大慌てで捲りはじめ、それでいつものドジをやらかしたと気付いて慌てて謝罪をして店を出ようとしたところでロシナンテ様にご足労いただいたのに何もせずにお帰しするわけには、と言いながらキッチンから出てきた老年の料理長に引き止められてしまった。子供のころから偏食のロシナンテのためにいろいろと料理を作ってくれていた彼のチャーハンを食べるのを楽しみにしていたのは事実だったのでカウンター席の端に腰を下ろし、お言葉に甘えてレタスがたっぷり入ったチャーハンを食べて料理長や顔なじみの店員と世間話なんかをして、腹いっぱいになったところでふらりと事務所に戻ろうとしていた。つまりはいつものドジの日だった。
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    DONEバレンタイン現パローコラ! #ローコラ版マンスリーお題 2月「バレンタイン」をお借りしました。
    バレンタイン雪辱戦大好きなコラさんが願うなら、なんだって叶えてやりたかった。それが星を掴むようなものであっても。ずっと前からそうだった。
    出会った時からずっとずっと会いたくて離したくなくてそばにいたかったひとだとわかっていたから、小さいころからローはコラさんを……、ロシナンテを見失わないようにすることで精一杯だった。いつだってローに特別を与え、大きな愛で包んでくれるひと。かれはローよりずいぶん先に大人になってしまっていたし、折に触れて訳知り顔でローの手を離そうとするものだから、大声で叫んで泣いて暴れる他に彼を引き止める手段のなかったローはもどかしくも悔しい思いをたくさんしてきた。いまでもロシナンテがローを置いて数か月もの間極寒の海の向こうに消えてしまったときのことを時折悪夢に見る。あっさりとローの手を振り払ってごめんなあと眉を下げて笑って列車に乗り込んで遠くに行ってしまうロシナンテに、ローが泣き叫ぶ声は届かないのだ。あのときにあの雪の降る港でかれを迎えにいけていなかったら、きっと悪夢は夜毎ローを苛んでいたに違いない。
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