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    寿司屋

    @sushiya_u

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    寿司屋

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    3月トプステでラブコメを出そうとしたものの諸事情でお蔵入りになった話です

    ふわふわ、ほろ苦、それから君は(悠巳) ふわふわのパンケーキ、やわらかくて、甘くて、生クリームも載っている。それに、少し固くてほろ苦いクッキーも甘いバニラアイスとの組み合わせが美味しい。それから、苺が一番上にあって──それは最後かななんて思ったりもして。自分よりちょっと大きいから夢の中かもしれない、そう気づいてはいてもこんなに幸せな夢なら楽しむしかないと、そう飛び込めばまるで布団のようにふかふかだった。
     焼きたての温かさと添えられたアイスの相性が堪らずに食べ進めれば見る見るうちにそれは小さくなっていって、最後に残ったのはパンケーキに対して少し小さな苺で。それでも、最後のひとくちというのは格別なものだ。名残惜しさを覚えながらも唇が触れ、甘さに蕩けていく。ああ、これを食べてしまったらこの夢も覚めてしまう。それでも止めることなんてできなくて──

     ──柔らかくて、甘くて、温かい。
     ぼんやりとした思考のまま、でもその温もりは離したくなくて抱きしめる。目を閉じたまま唇に伝わるそれを感じていれば、少し離れた瞬間に聞き慣れた──でも普段はあまり聞こえないような声が聞こえる。
    「……ん、ぅ……いす……みさん」
     離れたのが惜しくてもう一度触れるも、自分の頭の上に疑問符が浮かんだ気がした。それから、目を開くとそこには少し蕩けた表情を浮かべた恋人がいて──
    「み、なみ……?」
     ゆっくり離れて、巳波の寝間着──ルームウェアだとかそう呼んだ方がしっくりくる落ち着いたもの──が乱れているのを認識して、
    「え、え……え……⁉︎」
     早朝から巳波の家に驚きと罪悪感で満ちた悲鳴が響いた。もう、と口元に指を当てられて収めたものの心臓は落ち着くことを知らない。
    「あ、あの、巳波……」
    「全く、亥清さんったら強引なんですから」
     腕に、脚に、胸元に、身体中についた痕を見せられて頭が破裂しそうになる。昨晩は普通に、何事もなく眠ったはずなのに。
    「ごめん……昨日の夜の記憶ないんだけど……」
     それはそうでしょうね、と彼が言う。その言葉に自分が理性を失っていたのでは、そう不安になり必死に記憶を掘り返そうとしても本当に他意もなく巳波とベッドに入った記憶しかない。
     うんうんと唸っていると慰めるように抱き寄せられ、彼の胸元に顔を埋める形になった。白い肌に残る痕から目を逸らしたくなってしまう。
    「それは当然ですよ。今朝のことですから」
     ──今朝?今起きたばかりなのに?それって、
    「最初は寝言を仰っていて、夢を見ているのかと思い可愛らしくて抱きしめたんです。そうしているうちにだんだん──」
     だんだん?と首を捻る。寝言、夢、もしかして。
    「パンケーキって巳波だったの⁉︎」
     今度は巳波が疑問符を浮かべた。
    「私、パンケーキだったんですか?」
     狂気と破壊とは何だったのかと言わんばかりのふわふわとした──狂気はあるかもしれない会話である。その情報の多さに悠の頭はいっぱいになって、容量を超えた。
    「あら、もう……可愛らしいんですから」
     きゅう、と気を失ってしまった彼を優しく撫でて──目が覚めるまでにこの痕を隠さないとまた混乱してしまうかな、なんて思ったりもして。嫌じゃなかったけれど、そう思い出しながらまだ初心な彼をそっと寝かしつけた。
     起こさないように静かにベッドから離れて着替えを探す。痕が隠れるような──でも彼が好きだと言っていたような服を見繕って着替えれば悠よりも少し先に起きている、いつも通りの巳波の姿に変わる。
     ──もう少し、続けても良かったのに。
     前を閉じる前にもう一度彼の残したそれを見つめる。足りない、もっと。そう強請ればその先が見られたのだろうか。そんな想像が頭をいっぱいにしそうになって、そうならないように、ボタンをかけた。

     ──変な夢を見た気がする。夢から醒めて、起きたと思ったのに意識が遠くなって。何処までが夢で何処までが現実か分からなくて。
     頭が上手く回らないままでいると、頭を撫でてくれる手があって──恋人の方に視線を向ける。まだゆっくりしていて良いですよなんて言うものだから、つい彼の膝に甘えてしまう。
     しばらく巳波の優しさにうとうとしていたもののはっとして先程のことを思い出す。
    「み、巳波!さっきの、痕は⁉︎」
     巳波がどこの痕ですか?と白を切る。悠が腕とか、脚とか、とあわあわしていると傾国という言葉がぴったりな仕草で服の裾に触れながら彼は言った。
    「この下が見たいんですか?もう、亥清さんったらえっちなんですから」
     ふふ、と笑う仕草は妖艶で──それでも彼は負けてくれない。
    「そうじゃなくて!嫌な思いとか……しなかった……?」
     気まずそうな顔で、申し訳なさそうな瞳で。それでも、巳波の本心は変わらなくて。
    「亥清さんの隣で眠ることができて嬉しかったですよ」
     本当?と悠が小動物のような表情を浮かべるものだから、もちろんと頷く。大丈夫だと、幸せだと伝えたくて。
    「はい、とても良い時間でした」
     またお願いしますねと思っていても言えないけれど──巳波なりの一歩だった。

     それから何日か、悠は毎晩のように甘い夢を見ていた。それはパフェだったり、シュークリームだったり、タルトだったり。起きてすぐは蕩けるような幸せに浸っているものの、しばらくするとあのパンケーキの夢を見た不思議な日のことを思い出してしまう。巳波はああ言っていたけど本当は、何かあったんじゃないかと。
     ──だから、今日こそは。
    「巳波、この前のことなんだけど」
     この前の?と彼が口を開く前に先制を仕掛ける。
    「やっぱり何かあったんじゃない?」
    「どうしてそう思うんですか?」
     あの日からのことを恥ずかしいけれど──それ以上の彼への想いで続ける。ずっと甘い夢を見ていること。それから、その夢から醒めるたびに巳波が思い浮かぶこと。悠が自分でも変な事を言っていると思っていても、彼は真剣に聞いていた。
    「そうですね……ううん、独り占めできればと思っていたんですが、そこまでの誠意を見せられては──」
     こちらも、と巳波が姿勢を正す。それにつられるように悠は息を呑んだ。
    「あの日、亥清さんは寝惚けて私のことをパンケーキだと思っていたみたいなんです」
     そうだったような、と記憶の糸を手繰る。そうだ、あの日はふわふわのパンケーキの夢を見ていた。
    「甘い、柔らかい。美味しい。そんな寝言をおっしゃっていて、とても可愛らしかったです」
    「……記憶にあるような、気がする」
     夢の中の話だけれど、そういった感情に心当たりはある。
    「そのまま可愛らしいなと思って抱き寄せたら私のことをパンケーキだと思ったようで──」
     続く言葉に顔が熱を持つ。あの時の巳波を、自分が受け止めきれなかったことも思い出した。ごめん、と口を開こうとすると指を唇に添えられてしまう。
    「もし思い出したのなら謝らないでください。私、嫌じゃなかったですから」
    「それってどういう……!」
     今度は巳波の顔が赤くなる。強い意志が滲む瞳が悠を突き刺した。
    「う…………」
     少しやり過ぎたかもしれないと思いつつも、彼は悠の頬を手で包む。彼も自分も熱くて、溶けてしまいそうだ。
    「亥清さん」
     あまりにも近い距離に思わずはい、と答えてしまう。そんなうわずった声すら愛おしくて堪らない。
    「また、甘い時間を過ごしましょうね。その時は夢ではなく、ここにいる私を見て──欲しがってください」
     彼が一歩踏み出していなければ言えなかっただろうな、とやっと口にできたその想いを自分でも噛み締める。その意味を、重さを。
     悠は少し目を丸くしてから、うん──と頷き、金の瞳が強く輝く。それから、答えとしてそっと口づけをする。巳波が一生と言ってくれたように、自分もそれに応えられるようになりたくて。その熱さが彼にも伝わるように強く願いをかけた。
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