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    CMYKkentei

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    CMYKkentei

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    将来捏造の文仙のはなし。ポツポツと書く。最終的にはハッピーエンドなのかもだけど死ネタでもあるかもしれない。
    書いてる人が他カプも好きだからポコポコでるかも。自己責任で読んでください。

    #文仙
    wenXian
    #死ネタあり
    thereIsADeathStory

    (未定) 月明かりが明るい夜だった。藍色の空に魚の腹のような月が浮かんでいて、それは細く、儚げに見えて、この宵闇の唯一の光であり、頼りの糸のようだった。
    雑に肩に引っ掛けられた着流しからのぞくほっそりとした首もとはまるで空に浮かぶ白魚によく似ていた。それに見惚れていた、というより、じっと目に焼き付けていた。
    「火鉢を入れるか?」
    四半時ほどしたかもしれない。潮江文次郎は静かな宵闇の静寂を破って、同室の背に話しかけた。
    3月の夜はまだ冷える。空を仰ぐために開けた窓のそばならなおのこと。動く気のない薄い肩に羽織をかけながら返事を待つと、こちらを向かないまま仙蔵は頭をふった。その代わりに側を手で小さく叩いた。言わずもがな座れという意図だと分かる。
    風邪でもひいたらどうするんだ、やら、無理はするな、やら、兎に角言いたいことは色々あったが、何も言わずに従った。実の所自身もそうしてやりたかったというのもある。
    「もう、明日なんだな」
    3月、別れの季節と呼ぶ人もいる。それは自分たちにとってもそうだった。たった6年、されど6年、明日自身を含む6人がこの忍術学園を去っていく。この長屋ではもう最後の夜となってしまった。
    それぞれが、各々の道を往く。知っていたことで、覚悟していたことである。それぞれ今後のことは文字通り煙に巻くような表面的な話しかしなかった。どのあたりの、どこの城だだのなんやらかんやらと。既に未来は忍ぶべきことだと一人一人が察していたからである。
    元々、多くもない荷物は既に風呂敷に包まれて、明日、あれを下げてここを去る。自分に擦り寄る少しだけ低い体温も、次に触れることになるのはいつなのか皆目見当もつかない。
    空になった長屋の部屋は今までよりずっと寒い気がした。
    「文次郎はあたたかいな」
    「…寒いなら服を着ろ」
    同室の美しい男とは、とくに過ごした時間は長かった。言いたいことは分かっていたがはぐらかしてみせると、そういう事じゃない、と少し唇を尖らせる様は、出会った時とそう変わらなかった。
    彼と出会った時はあまりの衝撃にたじろいだ。自身の人生の中で白百合ほど美しい人に出会ったのは初めてだったからだ。表情も今より自信無さげで、ひと回りほど小さく、いつも後ろで苦しそうにしている姿に、自分が守ってやらねば、などと偉そうにも決心したりもしたことがある。
    しばらくして、その考えは改めることとなったが。
     というのも、ある日彼がそのまろい真白い頬を土ぼこりと煤に塗れさせて満面の笑みで自身に近づいてきたのである。
    「見てくれ文次郎、宝禄火矢が完成したんだ!」
    いつの間に火薬を扱う試験を合格していたのか、どれだけそれを生み出すのに試行錯誤を繰り返したのか、かんばせは汚れて、指先は火傷で赤くなり、綺麗だった毛先は焦げてちりちりとしている部分すらある。
    それは、あまりにも強く、美しく見えた。誰よりも気高く、敬意を表するべき人であると感じた。それから、守ろうなどと思ったことを恥じたし、肩を並べていたいと、彼と同じほどの誇りを持ち続けようと決めた。
    沢山の、思いがあった。どの関係性でもあるし、どの気持ちにも当てはまらないような気がした。ただ、一言、「大切に思っている」とだけ伝えたことはある。すると凛々しい眉を下げて「ありがとう」とだけ返された。
    忍者とは何か、を6年間学んできた。そうして、隣にいた男と並んで相応しく成長したつもりだ。夢だったし、迷いは無い。
    ただ、とても、寂しくは思う。
    6年間の当たり前だった。人生にして思うと半分ですらない時間で、出会った頃が昨日のようにおもいだされる程だが、まるで体に染み付いた人生のように長くも感じた。
    それが明日、ひとつの節目を迎える。
    「朝が、近すぎるな」
    まだ日の明るさも見えはしないが、その言葉がこの最後の夜を惜しんでいることぐらい分からないほど鈍感ではなかった。
    未来の約束はしなかった。この部屋にいるのは忍術学園の誇り高きい組の生徒だ。忍者として、どうするべきか、それをよく知っていた。
    だから、その約束は、するべきでは無いと互いによく知っていた。
    「私はきっと、何度でも思い出すよ。」
    「俺もだ。」とは言葉にはならなかった。
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