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    以前書いた綾滝のアフターストーリー的な浜三木終わり。加筆をしてpixivにあげます。お付き合い頂きありがとうございました!

    #浜三木

    君を知らずに100年生きるより⑦終 「この人となら不運になってもいい」と思える人、そう考えた時に、守一郎には一人の姿が思い浮かんでいた。でも、彼は不運を守一郎のために受け入れてくれるだろうか、と朝日に照らされた天井のしみを眺めながら思った。
    二人で崖から落ちたら、きっと三木ヱ門は立ち上がって文句を言うに違いない。しかもそれはうんともすんとも言わない崖にむかってだろう。それから状況を確認して、気合を入れて登ろうとするだろうか。
    (ああ、きっとそうだな)
    その後に、守一郎を振り返って、「行くぞ」と手を差し伸べる。そして二人で崖の上に登ったら「やったー!」と叫んで、抱き合って、喜ぶ。それから学園に帰ってみんなにその事があったと三木ヱ門は得意げに話すかもしれない。
    不運になってもいい、と思ったけれど、守一郎にとってはそれも違うのかもしれない。だって、きっと、どう足掻いたって不運にはならないから。
    崖に落ちても、それは結局二人で登った思い出になる。逆境があっても、乗り越えた誇りに変わるだろう。
    それにきっと、この恋が失恋に終わって、苦しくても、三木ヱ門のことを好きになれて良かったと自分は心底思うのだろう。
    もぞっとそばの布団の中で三木ヱ門が身動ぎをした。その音で隣をみると、守一郎の側へ向いていた三木ヱ門の瞼がゆるゆると動いて赤い虹彩が顔を出した。反射したそれが、朝日のようで、綺麗で、眩しく見える。
    「おはよう、三木ヱ門」
    「おはよう、守一郎」
    今日で、始まるのか、終わるのかが決まる。そうするつもりで、向き合おうと思っているから。でもその始まりは明朗で少し変わった彼らしい愉快なスタートだった。
    「守一郎!今日は待ちに待ったデートの日だ!気合いを入れろ!!」
    「おー!!!」
    こういう所が好きなんだよな、と思った。きっと後にも先にも、彼のように変わっていて、魅力的な人には出会えないような気がしてる。やっと出会えたけれど、あっという間に終わってしまうのかもしれない。三木ヱ門に教えてもらったことは新鮮で、楽しくて、いつも刹那の間に終わってしまったから。
    「実は!今朝はユリコが」とパタパタと身振り手振りをつけて話す。それからふと、「守一郎は、つまらなくないか?」と三木ヱ門は問いかけた。
    ユリコの機嫌だなんだと武器にあるのか分からない感情の話をしているのだと最初ばかりは思っていたけれど、湿度、風の流れ、それらが起因する石火矢のコンディションについては関心するものがあった。だから、三木ヱ門の質問に対しては心の底から「つまらなくない」と言えた。
    団子屋に入ると、三木ヱ門はいつもの倍の団子を頼んで、案の定食べられないのか、段々ともたついてきていた。道中の質問や、今の行動から見ても、三木ヱ門の様子がおかしいのは明白だった。
    (三木ヱ門、何かを悩んでいるのかな。)
    デートをしているのに、なんて思わなかった。なぜなら、守一郎は三木ヱ門が悩む姿が好きだったから。
    意地悪心などではなく、三木ヱ門が何かに対して無駄なほどいつも真剣で、空回りもして、悩まなくていいことに悩んで、でも最後は「自分はそれでいい」のだと勝手に答えを見つけて一人で突き進んでいく、その強さが好きだった。折れないのではなく、何度も折れて、ボロボロになっても、必ず立ち上がるその熱がかっこいいと憧れていた。
    だから、もし、その悩みに自分が少しでも関わっているとするならば、その火みたいな瞳が自分に向けられるのなら、それをきっと自分は喜ぶのだと思う。真剣な彼の眼差しに、向き合ってみたいと強く思う。
    「三木ヱ門、やっぱり恋人ごっこはおしまいにしよう。」
    「え…?」
    驚いたように目が見開かれる。こぼれ落ちてしまいそうだ、なんて呑気に考えていた。
    今日の日も、あっという間だった。でもそのひとつ、ひとつ、焼きついて離れない。痛いし、苦しい想いも抱えたけれど、自分はきっと忘れない。まるで火傷みたいに。
    (そうか、火花だ。)
    何かに似ていると思っていた。三木ヱ門のぱっと明るいところも、熱も、触れたら火傷するような我の強さも。それから、また火をつけたら破裂するその光も、彼の愛する火器に、よく似ている。
    それはぱっと開いて、消えて、刹那的なものに思える。でも、自分には強く、その痛みが消えるほどの時間が経っても、火傷のあとみたいに残って、自分はそれを辿って思い出したりするのだろう。
    だから、「将来」じゃない。今の瞬間に、三木ヱ門と一緒にいたいと思った。それから、その瞬間を、果てしなく続けていけばいいとも。
    若くて、愚かな考えかもしれない。でも、三木ヱ門がいない将来より、彼を知らない長い命より、ばんっと火花を撒き散らして咲く方が良い、と思えた。
    「ねぇ三木ヱ門、恋人ごっこじゃなくてさ」

    三木ヱ門は、守一郎の言葉に狼狽えていた。「おしまい」をいきなり出された事の驚きもあり、それから怒りすら抱いた。
    (挽回させてくれたって…!)
    何か間違いがあったのならやり直させて欲しかった。足りないことがあるならばそう言って欲しかった。自分は優秀ではあると自負してはいるが、どちらかといえば泥臭い根性論で走りつづけて来たようなもので、人一倍間違いもした。
    だから、もし、何かをしくじってしまっていたのならば機会が欲しかった。怒りは守一郎に対してではなく、上手くやれなかった自分に向いていた。
    「ねぇ、三木ヱ門」
    (でも、守一郎のためだったから)
    守一郎のために始めたことだから、彼が望むなら終わるのが道理だ。確かに上手く楽しませることは出来なかったかもしれないが、私は忍術学園のアイドルである。初デートが私だったというのは他の何にも変え難い守一郎の栄光のひとつになるだろう。
    今日をおしまいにして、守一郎はどうするのだろうかと思った。今日のことを手本に、もしくは反面教師にしていつか誰かとデートをするのだろうか。
    その人は守一郎の本当の良さを知っているだろうか。それを理解してくれる人と出会うことが出来るだろうか。もしかして、三木ヱ門とのこの関係を「おしまい」にしたいと思うような人ができたのだろうか。
    それはきっと、喜ぶべきことだ。
    その子が守一郎の良さを知るように、2人が互いに思い合うことができるように、自分はきっと全力で協力するだろう。
    (それから、私は、どうするんだろう。)
    誰かに恋をしたりするのか、きっとそれは否だ。ユリコをはじめとする可愛い火器たちもいるし、それに、そう考えて、やっと気づいたことがある。
    (きっと、守一郎以上に好きになる人なんていない。)
    目頭が熱くなって、頬に水滴の熱を感じる。その時、向かいで何かを言いかけていた守一郎が三木ヱ門の様子に気づいて、慌てて懐から手ぬぐいを取り出していた。
    「三木ヱ門、三木ヱ門どうしたの?」
    タカ丸さんが言いたかったことが今更分かった。守一郎、どこにいくの?私はここにいるのに。そんな子供みたいなこと、嗚咽のせいで上手く言葉にならない。
    「私は、ひとりでも、平気だった」
    「うん…」
    「ひとりでも、平気だったんだ。本当に。」
    火器の世話をしたり、委員会の激務に追われたり、滝夜叉丸に負けたくないと鍛錬をしたり、そしたらあっという間に日が暮れて、独り言をいったりして、冷たくて暗い部屋に帰っても平気だった。
    でもさ、守一郎、知ってしまったんだよ。
    「ただいま」と口に出すこと、今日の出来事を共有すること、他の人の意見に一喜一憂したりすること、それを心底楽しいと思うこと。
    手のひらの熱さなんか知らなきゃ良かったなと思った。
    「寂しいよ、守一郎」
    ひとりは、寂しいと、知ってしまった。誰かでもなく、帰ったら守一郎がいて欲しいと思う。多分帰る場所は、もう長屋の部屋なんかではなくて、橙色のあかりが灯るような守一郎のそばであって欲しいと思ってしまっている。
    なのに、どっかに行ってしまうなよ。めちゃくちゃな言葉が、ぐしゃぐしゃの顔と相俟って、不格好で、最悪だ。顔を隠そうとして両腕で目元を拭うと、守一郎が手首を掴んで顔を覗き込んだ。
    「ねぇ、三木ヱ門、聞いてよ。」
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