ハッピーハロウィン「肥前の!!!肥前の!!!」
「肥前くん!!!肥前くん!!!」
深い暗闇から、けたたましい声が浮上させる。
まだ夜明け前の暗さの中、ドタバタと足音がする。
「う、うるせえ…なんなんだ…」
目をこすり文句を言えば、なんだかよくわからない生き物がそこにいた。
「……陸奥守…?」
まず疑問が広がる。
今目の前にいるのは陸奥守吉行のような生き物だ。
まず第一に、犬のような耳が2つピンと伸びている。
口からはいつもより大きな犬歯が上下4本伸びている。
次に、手が短く切り揃えられていた爪は、尖り黒い爪と化している。
そして最後に腰物と飾り羽根の横に、ゆらゆらと揺れる尻尾が見える。
「肥前くん!陸奥守くんが実に面白いことになっているんだよ!!!」
「肥前の!狼男になっちゅうがよ!!!尻尾が動くきね!!!」
見りゃわかると言う言葉を飲み込んで陸奥守と先生の顔を見比べる。
「バグか…?」
「いだだだだだた!!!!痛いぜよ!!!???」
寝起きで開かない声帯から声を絞り出しながら、天に向かう耳を引っ張る。
陸奥守は、本当に痛いようで身を捻って手から逃れようとする。
どうやら本物のようだ。
「で、先生はなんなんだそれ…」
普段の先生と違って目が闇の中で輝いている。
耳は長く尖っているのと、口からチラリと牙が見えるがそれ以外は特に変化は見受けられない。
「恐らく僕はヴァンパイアだね、さっきから本丸の向こうを飛ぶコウモリの言葉がわかるんだ!これはすごいことだよ!!!」
なるほどと思う間もなく、熱い研究意欲で捲し立てられる。
「ハロウィンデータが誤って上書きされたバグ?のようやき、肥前のも何か変化しちょるかと思ったけんど…」
「近寄んじゃねぇ」
ピシャン
「!?」
「!?」
陸奥守の手が近付いてくるのを制しようとした時、背中の方から鞭のような何かがしなり、その手を叩いた。
それは、先端の尖ったまるで悪魔のような尻尾で、意識すれば自分の手のように動くようだった。
「肥前くんは悪魔なんだね!!!」
嬉しそうに吸血鬼になっている先生が近寄ってくる。
「まっことすごいぜよ!!!あ、蝙蝠みたいな羽根があるがよ!!!」
「これは興味深いね、小さいけれど空を飛べたりするんだろうか??あ、小さいけれど角もあるみたいだよ!!!」
寝巻きの背中を捲り、頭をわしゃわしゃと触り遠慮が無い。
陸奥守の尻尾はボフボフと揺れて顔に当たってくる。
「うるせぇ!!!!!」
堪忍袋の尾が切れ怒鳴ると、尻尾も2振の手を強く引っ叩く。
叩かれたのに嬉しそうに感動している様は、亀甲を思い出す。
「さて、僕は本丸中を確認してくるね!!!」
「あ!先生待て!!!」
遠い目をしている間に、颯爽と先生は部屋を飛び出していく。
止めに行きたいが、2人にズルズルにされた寝巻きのままでは行けない。
帯を外して、内番着を着ようとしたその時
「あ…ひ、肥前の…」
急に駄犬が照れたような口調で話しかけてくる。
「ああん?なんだよ?てめえも急いで先生止めねぇと後で大変なことになるぞ?」
「い、いや…ここ…」
陸奥守にツンと臍下を指で触られる。
小さく身体が跳ね、その指の先を見ると、猪目模様と蝙蝠羽を組み合わせたような艶やかなピンク色の紋様が浮かび上がっていた。
「これはー…淫紋言うやつかの…?」
平成を装った声色にしているが、尻尾がブンブンと全力で振られ、期待に満ちた目でこちらを見ている。
バグが見た目だけの影響とは限らないのかもしれねぇなと思いながら、淫魔は狼男に跨った。
一方その頃、先生は大般若とトマトジュース品評会してたりする。